「青天の霹靂で独立。かっこ悪いぐらいがむしゃらだった」フリーアナウンサー・林みなほさんの仕事術(前編)

美容サロンのオーナーや洋服のプロデュースなど、さまざまな分野で活躍するフリーアナウンサーの林みなほさん。計画的な転身かと思いきや、退職は想定外だったそう。会社を辞めたきっかけや予約の取れない人気美容サロン「QOB」の経営、アパレルブランド「KOL」のプロデュースなど、林さんの「仕事」に対する考え方をうかがいしました。

「つかみ取りに行く」パワーがあると気づいた

――林さんは現在、フリーアナウンサーにサロン経営など、さまざまな活動をされています。前職を退職したときには、これらの活動をすることが決まっていたのですか?

林みなほさん(以下、林): 前職のTBSを辞めたことは、実は私にとって“青天の霹靂”でした。元々は会社を辞めることは一度も考えたことがなく、定年まで働くつもりで「いずれはアナウンス部長もやってみたい」なんて思っていたほどでした。
そんな中、2019年6月。会社がジョブローテーションを遂行することになり、人材開発部への異動の内示があって。私は、自分自身が前に出るだけでなく、アナウンサーカレンダーや朗読会のプロデュースだったり、公式Instagramの立ち上げ・運営なども積極的に取り組んでいたりしていて。裏方志向の側面も持っていたので、人材育成や教育にも、興味はありましたが、それまで当たり前にアナウンサーとして定年を迎えるイメージでいた私にとって、数日後から人材開発部で働くイメージがわかなくて…内示が出た日の夜には、心の中で辞めることを決意していました。

――林さんが会社を辞めることに対し、ご家族からの反対はなかったのですか?

林: それはなかったです。もちろん夫に相談はしましたが、あくまで私の決断を左右するような意見は言わず、話を聞いて私の想いに寄り添い、最後まで見守ってくれていたと思います。大きな決断をする時って、自分で最終ジャッジするほうがいいとおもうのです。責任が取れるというか。のちのち言い訳や後悔がないんじゃないかなって。
月曜日に内示が出てから4日間は、自分の考えを寝かせました。退職届を出してしまったら、取り返しがつかないですから(笑)。

突然の内示に対して、私以上に怒ったり、悲しんでくれたりする人がたくさんいて。それだけで、うれしかったというか、もう十分かなと思えました。慰留もたくさんしていただきましたが、それでも辞めるという気持ちがブレなかったので、金曜日に退職届を出しました。

――突然の内示で、人生がガラッと変わったんですね。

林: そうですね。今はこうしてありがたいことにさまざまな活動をさせてもらって日々充実していますが、急な決断でしたから、さぁ辞めてどうする?というところからのスタートでした。
準備して辞めた人とはスタート地点が全く違ったんじゃないかと思います。
ひたすら模索して、目標からの逆算ではなく、自分が好きなことであったり、やりたいことを整理して、後は直感のままに走り続けて、ここまでこられたという感じです。

正直、最初は悔し涙を流すことも、過去を羨む日もありました。それでも、前を向き直して、歩みを止めずに進んだ先には今という明るい未来がありました。やりたいと本気で願い行動ができれば、なんとかして形にできるものなんだと実感できましたね。スマートな生き方にはもちろん憧れますけど、どうやら私とは無縁のようです(笑)。

――独立したことは、林さんにとって正解だったと言えますか?

林: 私は「何を選ぶかより、選んだ先でどう生きるか」を大切にしています。辞めた時点ではそれが正解かは分からなかったけれど、がむしゃらに走り続けてきた今、結果として、独立してよかったと思っています。アナウンサーの仕事は、やっている瞬間はとても楽しいし、心から好きだと思える仕事でした。ただ、どうしても受注仕事なので、発注をいただいてはじめて仕事が生まれます。タイミング、縁、人気……自分の努力だけでどうにもならないことも多く、4月と10月の改編期にはアナウンサーの誰しもが少なからず不安な思いを抱えます。究極的な話、会社員だから、レギュラー番組が多くなくてもお給料はもらえる訳で収入は安定しているはずなのに、心はどこか不安定でした。でも、今は自分で仕事を選ぶこともできるし、創り出すこともできる。やろう、やりたいと思えば、なんだってできる選択肢が広がったんです。

独立したことで「つかみ取りに行く」パワーのある人間だったんだなと改めて気づいたりもしました。今はすごく居心地がよくて、心の安定にも繋がっています。だから、とても幸せです。あの辞令は予想もしない出来事でしたが、こうして自分らしく生きられている実感があるので、今では「あなたはこっちに進むべきだよ」という神様のお告げだったのかな、なんて思えています。

新型コロナの休業から、予約の取れないサロンに

――その後のことは何も決まっていない状況で「QOB筋肉ほぐしの痩身&コリ解消サロン」はどのようなきっかけで経営することになったのですか?

林: もともと「QOB」は、親友と立ち上げたお店。万年ダイエッターだったこともあり、産休中に自分で痩身用の業務マシンを買ったり、施術の勉強をして資格を取るくらいエステに惚れ込んでいました。そんなこともあって「自分たちが心から通いたいサロン」というコンセプトで、お店を立ち上げました。当時はTBSに在職中だったので、経営は親友にしてもらって私は趣味の延長でお手伝いをしている形でしたが、独立を機に、親友から引き継ぐことになって。全財産をつぎ込んで(笑)、2020年4月1日から正式にオーナーになりました。

――サロンのプロデュースだけでなく、林さん自身も施術していることに驚きました。

林: 実を言うと、当初は、私がお客様の施術に入ることまでは想定していませんでした。ただ、オーナーになった直後の4月7日に緊急事態宣言が発令されてしまって。4、5月は休業を余儀なくされ、再開後も、安心してスタッフが働けるまではお休みさせるという判断をしたために、私がひとりで施術し続け、お店を守るよりほかありませんでした。でも、この経験こそが結果として大きな財産になりまして。現場に出たことで、ご愛顧くださるお客様お一人お一人と対面ができ、お店をブラッシュアップしていく上でとてもいい機会になりました。それに現場を知っているオーナーのほうが、スタッフからの信頼にも繋がるし、働きやすい環境づくりにも気が回るので、逆境を味方につけられたと感じています。

――今では、なかなか予約がとれないサロンになっているそうですね。

林: 本当にありがたいことに現在、お申し込みが殺到しており、新規のお客様の受付は一時停止中で、半年ほどお待ちいただいています。私、人をキレイにして輝かせるお手伝いをするのは大好きなのに、自分のことはズボラで後回しにしていて……痩せては太ってを繰り返し、1年前はいまより約15キロ太っていたんです。

でも、「美容サロンのオーナーなのに、これでいいのか?」とスイッチを入れて、人体実験を開始。筋肉ほぐしのエステに加えて、新たに食事改善とファスティングによる体質改善メソッドを取り入れたことで、万年ダイエッターを卒業して、“食べても太りにくい体質”を手に入れることができたんです。
その後、このメソッドをサロンのプログラムとしてもローンチし、大好評を頂いて、去年の11月以降は200~300人待ちの状態です。

――きっかけは偶然かもしれないですが、すべていい方向に進んでいますね。

林: 本当に縁や運がよかったと思っています。私はもしかしたら目標達成型ではなく、自然展開型なのかなと。計画的にここまで来たというより、目の前のことをとにかく必死にやっていたらここに来られた、という感じです。でも、アウトプットばっかりしていると、どこかで限界がきてしまうような気がしています。独立後ここまでがむしゃらに走り続けてきたので、次は時間を意識的に作って「インプット期」に入ろうと思っています。

アパレルブランドのプロデュースに挑戦

――最近は、アパレルブランド「KOL」で洋服のプロデュースにも挑戦されたそうですね。

林: 凛としたいときはジャケットを羽織るし、ゆっくりしたいときはゆるっとした部屋着を着て過ごしますよね。洋服は自分を演出したり、メンタルに寄り添うツールでもあるので、そこをプロデュースする機会をいただけたのは本当にうれしかったです。私は一見、きちんとしているように見られることが多いのですが、中身は全くそんなことなくて。基本的にズボラで、面倒くさがり屋だし、だらしない(笑)。「丁寧な暮らし」ができないからこそ、楽に「それっぽく」見せられる服にこだわって作りました。大切にしたのは、着痩せ・着心地・デザイン性の3つです。

――林さんがプロデュースした洋服は、どんな方に着てほしいですか?

林: 忙しくて、あまりおしゃれに時間がかけられない人や、おしゃれが得意ではないけれど、おしゃれに見せたい方。まさに、私がそうなんです(笑)。短時間でコーディネートを組むのが得意ではない。だからこそ着たら簡単に格好がつくものにしようと思って作りました。そういうお悩みのある方に、着ていただきたいですね。着痩せのデザインと、着心地がいい上にシワがつきにくい生地選びもポイントです!

■林みなほさんのプロフィール
フリーアナウンサー、美容サロン経営。2012年アナウンサーとしてTBSテレビに入社。情報番組やバラエティーなど、幅広く活躍し、 2019年に退社。現在はフリーアナウンサーとして活動しながら、本格的に美容業界に進出。トータルビューティサロンQuality Of Beauty(QOB)を経営し、エステティシャンやヘアメイクアドバイザーとして多くの悩める女性をサポートしている。2021年4月15日に発売を開始したファッションブランド「KOL」でディレクターを務めている。

フリーランス。メインの仕事は、ライター&広告ディレクション。ひとり旅とラジオとお笑いが好き。元・観光広告代理店の営業。宮城県出身、東京都在住。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。