美容家・石井美保さん「執着や“こうあるべき”を手放す勇気を持って。肌も人生も自分が想像できることは努力で実現できる」
サロンと家を3往復。過酷だった30代
――20代後半から30代にかけて、急激な身体の変化を感じることが多々あります。
石井美保さん(以下、石井): 私のサロンにも、「20代後半から急に肌の調子が悪くなり落ち込んでいます」という方が多くいらっしゃいます。
仕事で大きなチャンスが巡ってきたり、家事や育児に没頭したり、自分のキャパを少し超えることにトライしたり。気づいたら肌にも不調がでているけれど、じっくり向き合う時間なんてなくて、やらなきゃいけないことが山積み。そんな年代ではないでしょうか。
私は、29歳の時に起業しました。子どもが幼いシングルマザーでサロンを立ち上げ、過酷な状況だったので、自分が「お肌の曲がり角」を迎えていたこと自体にも気づかないぐらい目まぐるしかった。今思えば、肌はくすみにくすんでいましたね。心のうるおいもないから尚更。「心身ともにキラキラ生きたい!」というより、必死さの方が強かったです。
――どんな日々を送っていたのでしょうか?
石井: 杉並区の自宅から港区のサロンへ1日3往復なんてことがザラにある毎日。子どもを幼稚園に連れていき合間で施術をし、お迎えに行き、子どもの面倒を見ながら接客、子どもを自宅に連れて帰り、人に預けてまたサロンへ……という具合です。
「与えるケア」から「丁寧に扱う」ケアへ
――ご自身の美容に目もくれず一直線だった石井さんが、自分のお肌を見つめ直すことになったきっかけを教えてください。
石井: たくさんの美意識の高いお客様との出会いですね。
「人に“美”を提供する仕事だから、自分自身が輝いていないと人にパワーを与えてきれいにすることができない」と思うようになったのです。
清潔感やエネルギッシュさなども含め、常にきれいにしているお客様から放たれるオーラは人を元気にします。
人になにかを施すということだけが仕事じゃなくって、会うと力をもらえると言ってもらえるような関わり方ができる存在になっていきたいと思った時に、「肌がきれいであること」の重要さに気づきました。しぼんでくすんでしわしわの人に会うよりも、つやつやでぱーんと張っている人に会う方が元気をもらえる気がする。「オーラ」は自分の武器になるのです
スキンケアに真面目に取り組んでみようと思ったのが最初のきっかけです。
そこからは、40代に向けてどこまで自分の肌を良い状態に持っていけるか、お客さまから信頼されるためには何をすべきなのかを追求してみようと思い、今までのことを振り返って向き合うようになりました。
――最初にしたことはなんですか?
石井: いろいろな化粧品を買い漁ったり、お客様から情報をうかがいました。とはいえ、なかなか変わらなくて……。コスメカウンターに行くと、極度の乾燥肌と診断され、高価なシニア向けの化粧品を勧められる。でも、それを頑張って買っても改善しない。必死でした。時には10万円近いクリームを買ってみたことも。思い描いていた理想の肌にたどりつくことはできませんでした。そこで考えたのは、「あと、やってないことってなんだろう」ということ。
――それはどんなことでしたか?
石井: そもそも長くやってきた習慣に問題があるんじゃないかというところにたどり着きました。
コンプレックスだった肌を隠すための厚塗りメイク、それをごっそり落とすためにオイルクレンジングで肌をゴシゴシこすり、熱いシャワーでジャーっと流す……。
これが自分の肌を悪くしているんじゃないかと気づいたんです。
それら全てをやめた時、1週間で肌が驚くほど変わっていったんです。
今までは散々「肌に与えるケア」をやってきたけれど、そもそも「肌を丁寧に扱う」ことが足りていなかったんですよね。
思い込みを手放すことで、その何十倍も得るものがある
――自分がやってきたやり方を手放して新しいことにチャレンジするのはハードルが高く勇気がいりませんでしたか?
石井: そうですね。スキンケアに限らず、人間って思い込みで成り立っている部分が大きいと思います。だからこそ“良い思い込み”が自分を変えられるとも言えます。
「自分はこうじゃなきゃだめなんだ」を捨てて、「これをしたら絶対変われる!」と強く思うと、その方向にどんどん変わっていけるのです。
古い思い込みを捨てて、新しい思い込みを取り入れられた人から肌が変われる。
執着とか「こうあるべき」を手放した瞬間に、より良いものが入ってくるんですよ。手放すって勇気がいるけど、その分、何十倍も返ってくることがあるんです。
――石井さんご自身、変化は怖れない方ですか?
石井: 私も保守的で、ずっと同じであることにしがみついてきたんです。特に、歳をとると、頑固にもなってもいくし。40歳になるまでは、そうでしたね。
40歳で生まれて初めてパリに行ったんです。
パリで暮らす女性たちはファッションも髪型もいい意味でバラバラ。年齢を重ねた方でもミニスカートや素敵なピンクのワンピースを着こなしていて、とっても自由だった。
この年齢だからこうじゃなきゃいけないとか、この仕事だからこうあるべきといった雰囲気がまるでなかったんです。そしてみんながそれぞれに美しかった。
私自身、自分で決めた「こうあるべき」にしがみついていて恥ずかしくなりました。
若作りではなく、年齢に自分の好きなものをフィットさせているような感覚でしょうか。そんなフランスの女性たちを目の当たりにして、自分はなんて損をしていたんだろうって、思ったんです。
――今、人生がうまくいっていない、思うようにいかない人と感じている人も多いと思います。どんな心持ちで頑張ったらいいでしょうか?
石井: 「自分が想像できるプランの中に不可能なことはない」これが私の持論です。
不可能なことは、イメージすらできない。だからこそ、イメージできるということは、努力で実現できるのではないでしょうか。
例えば私がサロンをはじめた時。いきなり都心の一等地にビルを立ててサロンを持ちたい!というのは無理だけれど、ワンルームのお部屋なら借りられる。そのイメージは持てたんです。
小さなことから具体的にイメージをしていって、できると思うことは「失敗したらどうしよう」とくよくよ悩まないで全部やってみることにしました。
その時に背中を押してくれたのは、母でした。「とんでもないことを企ててやろうとしているのであれば止めるけど、今やろうとしていることは、失敗しても返しきれない負債になるわけではない。だったら悩む時間は無駄、すぐ始めてお客さんに声をかけた方がよくない?」と。
まずは月に20人のお客さまを施術すれば、とりあえずこの部屋の家賃は払える。その方々を絶対の信頼で得られたら、1年後には20人が100人にできるかもしれない……そんな風に、自分の想像の範囲で具体的な数をだして計算しながら、着実に目標を達成していきました。
この方法では「大ハネ」することはありません。でも少しずつイメージできることを実現していくことで、開業して16年で、開業時には想像もできなかったことが達成できています。
――自分の今に納得ができないけれど、あれもこれも一気に始められない人に、自分を好きになるために、一歩踏み出すためのアドバイスをお願いします。
石井: 今回刊行した書籍「1週間であなたの肌は変わります」のタイトルは、けして大袈裟につけたわけではありません。スキンケアの基本、「やさしく洗うこと」「丁寧に肌を扱うこと」「こすらないこと」に立ち返ることで、誰でも1週間で何らかの変化が訪れるはず。
実際に本を手に取ってくださった方々から「1週間どころか、2日で変わりました!」といった反響もいただきました。
よく「石井さんは生まれ持って肌がきれいなんでしょ」と言われることもあります。私なんてどうせ……という声も聞きます。でもそうではありません。仕事もお肌も試行錯誤しながら今の形にたどり着きました。
走り続けられたのは、自分で自分を楽しみ、自分に飽きないでいられたから。
今は「変われる楽しさ」を実感しながら生きています。
「一週間であなたの肌は変わります 大人の美肌学習帳」
著者:石井美保
発行:講談社
価格:1,485円(税込)