コロナ禍で考えるフリーランスの働き方 平田麻莉さん「中立なセーフティーネットを」

新型コロナウイルスの感染拡大は、特定の組織に専従せず独立して働く「フリーランス」の立場の弱さを露呈させました。フリーランスのネットワーク作りをしている「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」代表理事の平田麻莉さんはこの1年、コロナ禍で苦境に立ったフリーランスの支援に奔走。支援の歩みと展望について、平田さんにお話を聞きました。

あらわになった脆弱さ

内閣官房の調査によると、副業で働く人を含む広義のフリーランスは2020年時点で462万人。コロナ禍は、フリーランスの「セーフティーネット」のもろさを露わにした。イベントの開催自粛や、フィットネスジムの営業自粛要請により、こうした事業に携わるフリーランスの仕事が激減。契約書をそもそも交わしていないケースもあり、電話1本で仕事が切られ、解約料を請求できないこともあった。

「潜在的な課題が、コロナ禍で一気に顕在化しました。ただ、多くの人が問題点に気づいてくれたことは、よかったと思います」。平田さんはこの1年をこう振り返る。協会は2020年3月以降、政府に対してフリーランスへの支援策についての緊急要請を重ねて出してきた。こうした提言は、フリーランスや個人事業主らを対象とする「持続化給付金」の制度の創設、企業主導型のベビーシッターの利用補助をフリーランスにも拡大する動きにつながった。

好きな働き方 でも「背中を押せなかった」

平田さんが協会を設立したのは2017年1月。2015年に政府が「一億総活躍社会」を掲げ始めて以降、子育てや介護をしている人を中心に、柔軟で自律的に働けるフリーランスへの関心が高まっていた。平田さんも当時、子育てをしながら週3日はフリーランスで働き、週4日は主婦をしていた。そんな働き方を紹介した記事が注目を集め、子育て中の女性たちから相談を受ける機会も増えた。

「自分自身では気に入っていた働き方でした。ただ、相談してくれた人たちの背中を、自信を持って押すことができなかった」と言う。

2度の出産と保活を経験したが、出産のため会社を休んだ際に支払われる「出産手当金」や「育児休業給付金」の対象外だった。出産や子育て、介護や病気といった場面で誰もが向き合う可能性のあるリスクに対して、フリーランスへの支援は雇用労働者に比べて手薄だ。

「フリーランスはバラバラとした点のような存在で、政府や企業に声は届きにくかった。私は広報職を専門にしていたので、『みんなの声をここに集めて下さい』と呼びかければ、小さな声を大きな声にし、フリーランス向けの政策や福利厚生がつくれると思ったんです」

フリーランスの理想は、専門性やスキルを生かして自律的に働くこと。収入やスキルアップは本人次第、という側面は致し方ない、というのが平田さんの考えだ。しかし、「誰もが持っている『ライフリスク』に対してまで、会社員は手厚く保護され、フリーランスは脆弱というのはおかしい。働く人すべてにとって健康や子育て等に関するセーフティーネットは中立であってほしい」と語る。

コロナ禍の前から、平田さんたちが提言してきた政策の一部は具体的な議論が進み、実を結び始めた。例えば、法的な防止措置が取られてこなかったフリーランスに対するハラスメント。昨年6月にパワーハラスメント防止対策がルール化され、雇用労働者のほか、就活生やフリーランスも対象に入った。

昨年末には内閣官房などによって、フリーランスが安心して働ける環境を整備するためのガイドライン案がまとめられた。仕事を発注する事業者との関係で、フリーランスが不利になりやすいことを踏まえて、保護のルールを明確化することが盛り込まれている。契約条件の明示やルールの明確化は、これまで提言してきたことだ。

「労働者として守られるべき人」も多い

厚生労働省によると、新型コロナウイルスの感染拡大に関連した解雇や雇い止めの人数(見込みを含む)は、昨年末時点で7万9千人超。今後さらに雇用が流動化し、フリーランスを含め雇われずに働く人が増える可能性がある。

ただ、協会が毎年実施しているフリーランスの実態調査によると、「非自発的な理由」でフリーランスを選ぶと、満足度や幸福度が低い傾向があるという。

「コロナ禍で企業が社員を雇えなくなったからと言って、フリーランスで働いてもらえば良いということではない。従来の雇用システムの中で働くことを求めている人が、働き続けられるようにすることも大事です。“労働者として守られるべき人”も多い」

=平田さん提供

「労働者として守られるべき人」のひとつの例が、上の図の右下に書かれている「準従属労働者」だ。「業務実態が労働者に近く、事業者として本来あるべき経済的自立を為していない労働者」を意味し、正社員とほぼ同じか、それ以上の仕事をしているのに、企業の都合で業務委託契約になっているケースなどが該当するという。

「働き方の選択肢を増やす上で、フリーランスは必要だと思っています。ただ、決してやみくもにその数を増やしたいわけではありません。フリーランスのセーフティーネット整備と同時に、本来労働者として守られるべき人を雇用制度の中に吸収できるよう、会社員の働き方改革と両輪で政策提言を今後も続けていきます」

●平田麻莉(ひらた・まり)さんのプロフィール
慶應義塾大学在学中からPR会社に参画。企業での広報の経験を通じて、企業と個人の関係性への関心を深める。同大大学院の博士課程在籍時も、広報の仕事を続けた。その後、フリーランスで広報や出版、ケースメソッド教材制作を行い2017年1月、一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」を設立。新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。政府検討会の委員・有識者を多数務める。

記者・編集者。鳥取、神戸、大阪、東京で記事を書いてきました。ジェンダーや働き方・キャリアを取材しています。