平田麻莉さんに聞く、副業時代の心構え「“何者か”にならなくて良い」

副業への関心が高まっています。大企業でも解禁の動きが広がり、コロナ禍で企業の業績が軒並み悪化する中、一つの会社でのみ働くことへの不安も増加。政府も普及促進を打ち出しています。自身も副業を経験してきた「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」代表理事の平田麻莉さんに、副業について20~30代に向けたアドバイスを聞きました。

副業はおすすめ? メリットは5つ

――なぜいま副業が注目されているのでしょうか。

平田麻莉さん(以下、平田): 副業を含めて広義の「フリーランス」は、現在462万人いると言われています。注目される背景には、「機会」と「課題」があります。

「機会」は、副業や独立の敷居が下がっていること。昔は副業や起業後に取引先を探したり、必要な設備を整えたりすることは大変でした。いまはマッチングサービスで仕事を探すことができ、必要なツールやデバイスも無料で使えるものが増えた。初期投資をしなくても、誰でも始められるようになりました。

「課題」は、人手不足です。コロナで一時的に失業率が上がっていますが、労働人口の減少は不可逆的なトレンド。優秀な人材を1社で抱え込まずみんなでシェアする、そして首都圏の人材も人手不足が深刻な地方でも活躍してもらう。そういったことも求められています。

――副業のメリットとはなんでしょうか。

平田: 個人のメリットで言うと5つに集約されると考えています。

まずは収入の補塡。今回のコロナでも感じたように、不確実な時代の中、収入源を増やすとリスクを分散できる。

次はスキルアップ。副業をお金のためにやっている人は実は多くない。一つの会社で働くより、いくつもの会社で働く方が倍速で経験が増えていきます。副業で自分自身を「値決め」することができれば、経営者視点もつく。これは本業にも役立ちます。

さらに自分を見つめ直せる。自分は何ができるのかというキャリアの棚卸しをすることができます。同じ会社に居続けると、「自分なんて何もできない」と過小評価しがち。同じ会社で、隣の席に座っている人は、たいてい自分と同じ事ができるからです。ところが一歩外に出てみると、意外と重宝されます。自分にできることが、必ずしもみんなができるわけではないのです。そこに気づくことで、本業でのモチベーションにもつながります。

そして、他者理解が深まる。外に出ることで、「自分の会社のルールって、世の中全体に当てはまらないんだ」「一つのものさしで一喜一憂しなくていいんだ」と分かる。

最後に自己実現。趣味の領域を越え、「人に喜んでもらいたい」と思っていることを、仕事として挑戦してみる。本業として稼ぐには心もとなくても、副業なら挑戦しやすいです。

=取材をもとに編集部作成

陥りがちな落とし穴とは

――陥りがちな落とし穴はありますか。

平田: ひとつはキャパシティーです。仕事を引き受け過ぎてしまい、期待に答えられないという経験をする人は多い。基本的には副業で受ける仕事は原則「ジョブ型」。業務を明確にして業務委託という形で受けます。人に対して仕事を割り当てる「メンバーシップ型」で働くことに慣れていると、事前の合意内容を曖昧にしてしまう場合がある。月の労働時間、どのくらいの仕事ができるのか、どんなコミュニケーションツールを使うのかまで具体的に副業先と詰めた方が良いですね。

アドバイスとしては、「小さく始めること」といつも伝えています。いきなりどこかの会社のウェブサイトのシステムを作ったり、広報担当になったりする副業を始めれば、やり遂げられず信頼を失うこともある。同様の仕事に就く場合でも、まずはサイトの構成を整えたり、プレスリリースを1本書いてみたりと小さいところから始める。そして少しずつ本業とのバランスや、得意なことを見極めながら活動の幅を広げていく方が良いと思います。

――複数の「顔」を持つことで、混乱してしまうことはありませんか。

平田: そもそも人間って、ひとつの人格だけで生きているわけではないですよね。どんな人でも、誰かの子どもだったり、親だったり、妻や夫だったりします。会社での顔もあれば、趣味のサークルの中での顔もある。一緒にいる相手によって、「自分の出し方」が違うこともあります。それでもベースはその人そのもので、人格が大きく変わることはありません。

副業は「帽子をかぶり直す」というくらいの構え方で良いと思います。会社内で部署を兼務したり、色んなプロジェクトに関わったりすることと感覚は大きく変わらないと思います。

ただ、私自身もいくつかの名刺、役職がある中で、「いまこの瞬間に求められているのはどの役割か」を意識しています。例えば、協会の代表として取材を受けた際、求められていないのに別の仕事の話をすることはしない。相手にいただいた時間を違う趣旨で使わないよう、切り分けることに気を付けていますね。

組織にいても「キャリア自律」はできる

平田麻莉さん=本人提供

――20代~30代のミレニアル世代は、組織において様々なことを吸収する途上でもある。副業をすることや組織で働くことについて、持っておきたい視点はありますか。

平田: 私もぎりぎりミレニアル世代ですが、この世代は一つの会社で勤め上げることを“幻想”と思っているんですよね。子どもの頃に山一証券が破たん(1997年)し、リーマン・ショック(2008年)や東日本大震災(2011年)があり、そしてコロナを経験中です。会社の寿命より、自分の寿命が長いことを肌で感じてきた世代です。どんな状況になっても「自力で食べていきたい」という感覚を多くの人が持っているのではないでしょうか。その選択肢の一つとして、副業を含め、会社の看板を外して、自身の価値を発揮できるか試す――。とてもいいことだと思います。

ただ、「副業は格好いい」とか、逆に「社畜はダサい」ということではない。
「キャリア自律」とは、名刺をたくさん持つことで実現するのではない。自分を必要としてくれる人がそれなりにいて、働き方やライフスタイルの選択肢を複数持てるということだと思います。会社員としてフルコミットして邁進することを自発的に選んでいるのであれば、それも自律していると言える。会社の看板で予算やリソースを使い倒すからこそできる大きな仕事もあります。

――組織に身を置きながらも、自律して働くには、どうすればいいでしょうか。

平田: 日本では、就職活動をして一度「就社」したら、配属先は人事部の「仰せのまま」だったと思います。しかし今の時代、会社は自分たちが死ぬまで面倒みてくれません。世話をしてくれないのに、会社の意向であっちこっちに飛ばされるのは割に合わない。そう考え始めたのがミレニアル世代だと思います。

「自分はこういう分野のプロになりたい」「だからこういう領域で経験を積みたい」と積極的に会社に伝えていく。それができないなら、転職するのもありだし、専門性が高い分野の副業をして、経験を積み、専門性を高めることも選択肢です。

一方で、世の中は専門性を持っている人だけでなく、あらゆることすべてで70点が取れる人も重宝されます。それはスタートアップでも中小企業でも同じですが、あまり知られていないかもしれません。

ネット時代の副業、大事にしたいこと

――0から1を生み出せる人に注目しがちですが、1から10にする人も大事ということですね。

平田: 20~30代の特徴として、「何者かにならなければいけない」というあせりを持っている人が多いと感じます。「個の時代」といった言葉が広がる中で、すごくプレッシャーを感じている。インフルエンサーがもてはやされる中で、特にSNS世代は自分をいかによく見せるかに心を配っている。

でも、副業にせよ、組織の中で働くにせよ、すごく活躍している人って、「半径5メートル以内」で信頼を築けている人なんですよね。無名でも、周りの人たちに信頼され、次から次へと仕事を引き受けている人はたくさんいる。「何者か」になるよりも、目の前の人の期待に応え、信頼を積み重ね続けていく。このことが後々、大事になると思います。

――平田さん自身、大学在学中にPR会社で働き始めたり、大学院に進学したりと、独自のキャリアを歩んで来られたと感じます。キャリアを築く上で、「軸」として持っていることはありますか。

平田: 私は、キャリアはデザインするものではなく、「振り返ったらそこにあるもの」だと思っています。キャリアの語源はラテン語の「轍」を意味します。轍は、馬車が通った後にできるものですよね。

大学院進学当時は、研究者になろうと思って修士を取り、博士課程に進みましたが、途中で妊娠して出産し、子育てが楽しくなって、退学しました。卵巣がんの疑いがあるとわかり、手術した経験もあります。再発や転移の可能性がなくなり再び働き始めましたが、人生の出来事はコントロールできない。

そんな中でも、アンテナを張り、一つ一つのチャンスを形にし、目の前の人の期待に応えていく。その積み重ねで、キャリアはできていると思っています。

ただ、ライフスタイルの「軸」は持っています。私は何より家族や気の置けない友人と楽しく過ごす時間を大切にしたい。そのためにも仕事を通して、面白い人に出会い、コラボし、「達成感を得たい」と思っています。

●平田麻莉(ひらた・まり)さんのプロフィール
慶應義塾大学在学中からPR会社に参画。企業での広報の経験を通じて、企業と個人の関係性への関心を深める。同大大学院の博士課程在籍時も、広報の仕事を続けた。その後、フリーランスで広報や出版、ケースメソッド教材制作を行い2017年1月、一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」を設立。新しい働き方のムーブメントづくりと環境整備に情熱を注ぐ。政府検討会の委員・有識者を多数務める。

記者・編集者。telling,編集部員。これまで鳥取、神戸、大阪、東京で記事を書いてきました。関心分野は、働き方・キャリア、ジェンダー、カルチャーなど。多様な働き方、生き方を取材しています。