エッセー集出版の鈴木保奈美さん「なんか違和感があるよね」だけでも伝えたい

女優の鈴木保奈美さんにとって初となるエッセー集「獅子座、A型、丙午。」(中央公論新社)が12月、出版されました。家族や友人と過ごす何げない日常や、世の中に感じるちょっとした疑問や怒り……そんな日々の出来事を、時にはユーモアをまじえて綴っています。エッセーのこと、女性として年齢を重ねる中で感じてきたことを、鈴木さんに聞きました。

何げない違和感も言葉に

《「獅子座、A型、丙午。」は、2017年春から「婦人公論」で連載してきたエッセー74本をまとめたもの。仕事の現場で感じた気づきやニュースを見て感じたこと、子どもたちとのほほえましいやり取りが書かれている。さっぱりとしていて、ちょっと頑固。文章からは、そんな人柄が伝わってくる》

――エッセーを執筆することになったきっかけは。

鈴木保奈美(以下、鈴木): 20代の頃も雑誌で文章を書かせていただいていたことがあるのですが、2009〜10年頃に別の雑誌で食べることに関するエッセイを連載していました。それを読んだ「婦人公論」の編集者から「うちで書きませんか」とお誘いいただいたんです。書くことは、子どもの頃から好きでした。出版は照れくさいですね。こんなふうにちゃんと本にしていただけるとは……という感じです。

――「獅子座、A型、丙午。」というタイトルを付けた理由を教えてください。

鈴木: 実際に獅子座、A型、丙午で、この3つが私自身を絶妙に言い表していて、好きな言葉なんですよね。占いなどのキャラクターで、獅子座は「目立ちたがり屋のお山の大将」、A型は「ちょっと几帳面」、丙午は「気が強い」と言われています。それを総合したものが私だ、と思うんです。

――「婦人公論」での連載は3年以上、2週間に一度、1300字の原稿を書かれたと聞きました。大変だったのでは?

鈴木: 苦しんだ時期もありましたね。でも、慣れてくると色んなネタが周りに転がっているのが分かって「あれもいける」「これもいける」と楽しくなって。大変だとはあまり感じていないです。

最初は起承転結を考えて、きちんと「オチ」を付けて……と構えていた部分がありました。「『今回はこのテーマで、この主張をしたいのである!』といったことを明示しなければいけない」と。それがだんだんと、「なんか違和感があるよね」ということだけでもお伝えしたい、と考えるようになりました。

例えば「ジェンダーギャップ」の問題にしても、なかなか答えは出ない。「これが正解だ」ということは言いにくい。「中途半端」ではあるんですけれども、「なんか引っかかる」という思いから書き始めて、たとえ文章としてきちんと収束しなくても、それはそれで良いかもしれない――。そう、ゆっくり構えられるようになりました。そこが一番大きな変化かな。3分の2くらい書き終えてから、急に気持ちが違う方向に行くこともありますね。

――エッセーで書く「ネタ」はどのように探していますか。

鈴木: 仕事先、テレビをぼーっと見ているとき、友達とくだらない話をしているとき、「なんかこれ面白いな」と思ったものを書いています。当初は「ネタにならない」と思っていたものも、連想ゲームのようにつなげていけば、ひとつのまとまりになることが、だんだんわかってきました。いまこうやって取材していただいているこの状況も、「面白いよね」とか。

自分の意識も、もっと変えられる

《子育てとの両立に苦悩する女性議員を取り上げたニュースに、「なぜ女性だけが両立を求められるのか」と投げかける。友人との何げない会話から「家事に男も女もない。得意な方がやれば良い」と顧みる――。いくつかのエッセーからは、男女の性別役割分業に基づく社会の風潮への違和感も、つづられている》

――エッセーの中で、娘さんを出産した産婦人科の病院の先生に「お母さんじゃなきゃだめなこと以外は、人にまかせて良いのよ」と言われたことを振り返るエピソードが、印象に残りました。

鈴木: 「お風呂もミルクも、みんなで分担してやればいいじゃん」とおっしゃってくれる先生でした。私が出産した直後は、その意味がよくわからなかった。でも10年くらいたってから「あ、そういうことか」と思いましたね。色んな夫婦、家族を見てきて、だんだんと私も分かった。ちゃんとできなくていいんです。なんとかなりますから。

――そのほかのエピソードからも、伝統的な性別役割分業への違和感や、「若い世代の女性がもっと生きやすくなるようにしたい」、という意思も感じました。そうした感覚は、ご自身の経験から来ているのでしょうか。

鈴木: 自分が経験してきたから、とまでは・・・。女優という職業は、大変なことも多いんですが、いわゆるお勤めをされている方よりも自由度が高いですし、「女だから」得する部分もあります。

働いている女性の友達の話を聞いて感じてきたことかもしれません。ドラマで演じる役のリサーチのために、広告代理店で働く友達の話を聞いたことがあります。その友達は、長くその会社に勤めて重役になった。ですが、そういった女性はかなり少ないらしい――。
あとは、「お母さんだからご飯を作らなきゃいけない」といった考え方に対して、「それはどっちでも良いんじゃない?」「やれる方がやれば良いんじゃない?」と思うところは私自身にもあります。周りには家事の分担を自由にやっていて、仲の良い夫婦もいますしね。

私自身の意識ももっと変えられると思いますし、無意識に考えていたことが「意外と古くさいんだな」ということにも気がつき始めてきたんですよね。これまで無自覚だったのは、ある種「罪」でもある。時代が変わる中で、若い世代へ何らか手助けになることをすることでお返しできたらと、年齢を重ねるごとに思いますね。

●鈴木保奈美(すずき・ほなみ)さんのプロフィール
1966年生まれ、1986年にデビューし、ドラマ、映画を中心に活動。91年に主演したドラマ「東京ラブストーリー」(フジテレビ系)が大ヒット。98年の結婚後、一時引退するが、2011年に本格復帰。主な作品に「SUITS」(フジテレビ系)、NHK大河ドラマ「江 ~姫たちの戦国~」、「35歳の少女」(日本テレビ系)など。2021年1月8日公開の「おとなの事情 スマホをのぞいたら」にも出演している。

衣装:ASPESI

「獅子座、A型、丙午。」

著者:鈴木保奈美
発行:中央公論新社
定価:1400円(税別)
発売:12月9日

映画「おとなの事情 スマホをのぞいたら」

1月8日、全国公開

監督:光野道夫 
脚本:岡田惠和
出演:東山紀之、常盤貴子、益岡徹、田口浩正、木南晴夏、淵上泰史、鈴木保奈美ほか

記者・編集者。telling,編集部員。これまで鳥取、神戸、大阪、東京で記事を書いてきました。関心分野は、働き方・キャリア、ジェンダー、カルチャーなど。多様な働き方、生き方を取材しています。
カメラマン。1981年新潟生まれ。大学で社会学を学んだのち、写真の道へ。出版社の写真部勤務を経て2009年からフリーランス活動開始。1歳のビッグボーイ育児中。