#ミレニアルズのモヤモヤ考察

良妻賢母はもはや幻? “3脱”で、母こそNEO自分本位に

働く女性たちを徹底研究している「博報堂キャリジョ研」のメンバーが、同世代のミレニアル女性たちのモヤモヤについて、熱い思いと豊富な分析資料を交えあれこれ考える連載。子どもを産んだら、私たちはどんな母親になるべきなのだろう。理想の母親像って、どんなもの?

●#ミレニアルズのモヤモヤ考察12

良妻賢母にまつわる理想と現実

時代は令和に突入したものの、社会の根底に「良妻賢母」のイメージは連綿と流れているのではないか。ふと思い立ち、辞書で良妻賢母の意味を調べてみると、『夫に対してはよい妻であり、子に対しては賢い母であること。』と記載されている。全方位的なよい存在であれ、という意味のようだ。その定義へのモヤモヤを抱きながら、母たちにインタビューしてみた。「幼稚園や小学校のお受験では、母親は専業主婦であることが前提とされていると感じる」「母親の外泊はインパクトがあるな、と言われたことも」など、少し話を聞いただけでも、社会の常識や人々の認識の片隅に、「理想の母イメージ」は依然として染みついていることを実感する。一方で、子育て中の母たちがインスタグラムに投稿している漫画には、「朝は朝食の用意から送り迎えと戦場を切り抜け、オフィスでは戦士のごとく働く」といった実態が赤裸々に描かれている。丁寧な暮らしの中に生きる理想像と、マルチタスク&マルチロールで日々ソルジャーに生きる現実の姿。この母にまつわる理想と現実のギャップから、ミレニアル世代にとってのこれからの母親像について考えたい。

金銭面からみていく、家庭の実態

お金という側面から、家庭の実態を見ていく。「裕福な家庭」というと、感覚的に世帯年収1000万円以上が連想されるが、日々の暮らしはどうなっているのだろうか。厚生労働省の2018年国民基礎調査(※1)によれば、全国の平均世帯年収は約600万。世帯年収1000万円以上の割合は全国では12.1%、都内に限れば28.5%と4世帯に1世帯が該当する。

調べていくと、掲示板やSNS上で「世帯年収1000万円の生活」に関連する投稿があった。かいつまむと、世帯年収1000万円といっても、手取りは700万円ほどで月額約60万円程度。子供がいる場合は教育費がかかり、私立学校に行かせることなどを考えると、さらに費用はかさむ。毎日の暮らしに不自由はないものの、海外旅行も、毎週の外食も、ブランドの洋服も、望み通りの教育も、と“全部盛り”はできない――というのが、世帯年収1000万円台の実態のようだ。

選択肢の有無が関係する?!ミレニアル世代ママと上のママ世代の違い

インタビューを進めていくと、30代のママと、40代以上のママでは、家事に対する認識が異なっているようだ。30代のママにとって、家事は「アウトソースサービスを活用したり、夫と分担したりして、分散させるもの」という認識があるのに対し、40代以上のママたちは「睡眠時間や命を削りながらも、なんとかこなすもの」と認識している。
この違いには、時代背景や選択肢の有無が強く影響しているだろう。家事アウトソースサービスは、食事の作り置きや掃除などの選択肢があるが、それらが普及したのはここ5年のこと。その間に、手がかかる未就学児の育児をしていたかどうかや、家事サービスを選択できる環境にあったかどうか、ということが背景にあるようだ。また、昨今は仕事、家庭のマルチロールを強いられる女性の状況に対するアンチテーゼが各所で唱えられるに伴って、夫婦平等に家事を分担する意識が進んでいることも要因と考えられる。

ミレニアル世代にとっての理想の母親像って?

良妻賢母が幻だとするならば、ミレニアル世代にとってどのような母親像が理想なのだろうか?ここであえて「自分本位な母」を提唱したい。自分本位という言葉に、抵抗を覚える人もいるだろう。令和時代の自分本位は、従来の「自分勝手で他人をかえりみないこと」ではなく、「自分で自分の機嫌の取り方を知っていること」と捉えたい。“NEO自分本位”と言ってもいいかもしれない。周囲がよく見え、“共感の鬼”である母たちにこそ、意識的に自分本位であってほしいのだ。自分が明日、ご機嫌でいるために、やるべきことではなく、やらないことを意識的に創出してほしい。まずは、自分本位になるための3つの脱を、たたき台として提案したい。

一つ目は脱・罪悪感。仕事はバリバリこなすキャリアウーマンだが、実は家事がとても苦手で、家政“夫”を雇っている…といった内容のドラマが2020年に話題になった。印象的だったのは、かなり仕事ができる彼女は、家事が苦手であることに罪悪感を持っていたように見えたことだ。人間たるもの、苦手があってしかるべきなのだが、とりわけ「女性なのに家事が苦手」となると、他カテゴリーにおける苦手とは異なるトーンで認識される。家事のアウトソースサービスもある中で「これまでなんとかなってきたし」と、あえて利用しない母たちもいる。親世代がそうして家事をこなしてきたことが、自分にとってのスタンダードになってしまう側面もあるのだろう。だからこそ、家事に関して、自分を楽にすることに意識的になる必要がある。

二つ目は脱・共感主義。わかりやすさのため一般化するが、男性と比較して女性は共感力が高い傾向にある。それゆえ女性は、他者も自分と同じような共感力を持っていると思ってしまう節があるように思う。人に期待したいこととそれに伴う具体的な行動を言語化して、伝えていくことが必要だろう。それは家族であっても、だ。

最後は、脱・滅私奉公。全方位的なよい人、よい行いを諦めること。みんなは幸せだけど自分は限界…それではサステイナブルな家族にならなければ、サステイナブルなプロジェクトにもならない。全体公約数のサステイナビリティではなく、渦の真ん中にいる当事者だからこそ、自分自身の持続可能性に意識的であるとよいだろう。

過渡期を迎える母のありかた

令和に突入した昨今、個人としても、社会全体としても、母のありかたを取り巻く環境は過渡期を迎えている。ロールモデル不在の現代において、万人に通じる魔法の回答も存在しない。だからこそ、親世代のスタンダートを自分のスタンダードとせず、無意識に頭にこびりついた「母親に関するShould思考」に気づくところから始めるのはどうだろうか。母親に関する呪縛に意識的になることから、NEO自分本位は始まるのだ。

出典
※1 厚生労働省 平成30年国民基礎調査の概況 
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa18/index.html

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1993年生まれ。中国出身、東京都在住。慶應義塾大学で美術を学んだのち、外資系エージェンシーを経て現在は博報堂キャリジョ研所属。戦略プラナー/サービスデザイナーとして食品、トイレタリー、化粧品などの分野で、クライアントのコミュニケーション戦略や商品開発、新規事業立案に携わる。男女ともにフラットな社会を実現するため、プランニングに日々邁進。最近は筋トレとコーチングの学びにいそしむ。
「働く女性」(キャリジョ)をテーマに、博報堂&博報堂DYメディアパートナーズの女性プランナーやプロデューサーで立ち上げた社内プロジェクト。女性のトレンドを集めたインサイト分析や有識者ヒアリング、定性・定量調査やクラスター調査などから「働く女性」を徹底的に分析し、日々のマーケティング・プランニング業務に生かしています。