徹底検証「IPPONグランプリ」笑い飯西田が10年越し12人目のチャンピオンになるまで

先週12月5日(土)に放送された芸人大喜利王決定戦『 IPPONグランプリ』。第24回となる今回は、千原ジュニア、博多大吉、前回勝者のバカリズム、オードリー若林正恭など10人の芸人が参戦しました。優勝したのは、笑い飯の西田幸治。強者ぞろいだった今大会を徹底検証します。

12月5日(土)に放送された『IPPONグランプリ』は、2009年の番組開始以来はじめて初出場者がいない大会だった。全員が過去に出場したことがあり、4人は優勝も経験している。戦い方を理解した芸人たちの激闘を振り返ろう。

Aブロック:お題からブレない笑い飯西田

Aブロック出場者はバカリズム、オードリー若林、ミルクボーイ駒場、笑い飯西田、くっきー!の5人。

関西テレビで放送中の『千原ジュニアの座王』では、即興ネタの強さから「鬼」と呼ばれる笑い飯西田。IPPONグランプリ参戦は、なんと第3回(2010年10月6日放送)以来10年ぶりだ。 

Aブロック第1問は「『オカン、マジシャンと不倫してるな?』なぜ分かった?」。このお題、「オカン」と「マジシャン」と「不倫」の3つの要素からできているのだが、3つを掛け合わせた答えを作るのはなかなか難しい。

出場者たちの答えも「洗濯物を畳むときいちいち裏表見せてくる」(バカリ)、「椅子一脚で昼寝していた」(若林)など、オカンとマジシャンだけを使ったものが目立つ。でもこれだと、例えば「うちのオカン、マジシャンかな?なぜ分かった」というお題でも成立してしまう。

しかし西田は、短い答えのなかにちゃんと不倫の要素も入れ込んでいた。

・おめかししながら♪デュワデュワデュワデュ~ワ(Mr.マリック登場BGM)と歌っていた
・ラブホから男とホワイトタイガーと出てきた
・帰ったら全裸にシルクハットの男がいて、クローゼットに入っていったが開けたらいなくなっていた

お題の要素を全て使いきる西田スタイルは、その後どんなに場が荒れても貫かれていた。Aブロックはトップを走る西田をバカリズムが追う展開になり、最終的に2人のサドンデスに。サドンデスのお題は「マランチェ王国のムンチャ王子の口癖は?」

実在しない王国の実在しない王子、そしてその口癖という、幻影に三重のフィルターがかかったお題。ふわっとした内容に、いかにハッキリした像を結ぶかが問われる。

先手を取ったバカリズムは「だから、マランチエな?」と、表記誤りにキレる様子を演じたり、「マランチェやねん!」と明るく振る舞ったりするも、IPPONに届かない。対する西田は、やはりしっかりと「王国」の要素を含ませてきた。

・また我が国だけ招待されておらぬではないか
・おい、こんな都会でそんな名で呼ぶでない

不憫な目に遭う王子。しかもそれが「口癖」ということは、いつもこんな目にあっているのか……! 王子の哀愁で西田がサドンデスを仕留め、10年ぶり初の決勝進出!

Bブロック:ケンタウロスはすべらない

Bブロックの出場者は千原ジュニア、堀内健、アインシュタイン稲田、かまいたち山内、博多大吉の5人。序盤からなかなか一本が出ない苦しい展開からはじまったが、第3問「母ケンタウロスがモンスターペアレントに。学校にどんなクレーム?」で大きく場が動いた。

・あなたが担任になってから、うちの子のオッズが下がっているんですけど(稲田)
・うちの子だけ騎馬戦を1人でやらせたって本当ですか!(ジュニア)
・組体操はピラミッドではなくオリンポス神殿を作るべき(大吉)
・ケータイは没収で構いませんので弓矢は返してください(山内)

解説で松本人志が「大喜利においてケンタウロス(のお題)はすべらない」と自説を唱えたとおり、このお題だけで9本ものIPPONが出た(そういえば過去に「ケンタウロスを怒らせてください」というお題があって、バナナマン設楽さんが最高だったな……と思って調べたら、第2回(2010年3月)の出来事だった。これも10年前とは……)

第3問を終え、単独トップだったジュニアを他の出場者が猛追する展開。そして山内と大吉がついにジュニアの背中を捕らえたのが、第5問「『ジャパネットたかた』の神回、何があった?」

・スタジオが高田社長、レジェンド松下、アンミカの鉄壁の布陣(山内)
・元ZOZOの前澤さんから金利手数料を負担したいという電話が入った(大吉)
・宮迫さんの地上波復帰一発目がここ(山内)
・全部の商品を買うと深キョンの部屋と全く同じになる(大吉)

2人とも「ジャパネットたかた」自体にはこだわらず、他の著名人を絡ませた答えでIPPONを量産。博多大吉が単独トップに躍り出て、決勝進出を果たす。

決勝戦:架空料理名対決で白旗をあげても続く死闘

決勝戦は笑い飯西田と博多大吉の対決。先に3本を取ったほうがの優勝だ。10年ぶりの出場で決勝戦まで来た西田。緊張しますと言いつつ「あと、もっと早く呼んでくれればよかった」と番組側へ疑問も挟む。

第1問は「『僕だけですかね?』を使って文章を完成させてください」。出題後、2人ともじっと考える素振りをみ見せ、静寂のなかペンを走らせる。書き直しで2枚目のフリップを取り出すなど、なかなか回答が出てこない。張り詰めた緊張感のなか、ようやく博多大吉がボタンを押した。

「何にも浮かびません。僕だけですかね?」

これだけ考えておきながら何も浮かばないて、と緊張感を逆手にとった答えだったがIPPONに届かず。そしてようやく、ペンを走らせ続けていた西田が回答権を取る。

「みちょぱちょぱちょぱ みちょぱちょぱ、合わせてちょぱちょぱ むちょぱちょぱ。なんだかすごくエッチな感じがするの、僕だけですかね?」

ペンを走らせ続けていたのは、単純に文字量が多いだけだった! 観覧ゲストにみちょぱ本人がいるのも手伝って、この答で見事先制。「IPPONというのも、またエッチな感じが……」とさらに笑いをかぶせる。

第2問「動画でアフレコ」は博多大吉が返して1対1に戻し、第3問は「架空料理名大喜利」。存在しない料理を即興で交互に言い合い、予選2位の2人(バカリズム、かまいたち山内)が○×で判定するという、ラリー形式のお題だ。

先攻の西田は「タコとキュウリと排水溝と抜け毛の酢の物」「シソとデニムの冷製パスタ」「刻みネクタイのチンジャオロース」など、淡々と料理を生み出していく。対する大吉も「その辺の石を茹でてみました」など絞り出すが防戦一方。ついには、

「仔羊をですね、一度外に放牧したんですけど、5年ほど経ってその牧場がつぶれていました……もうありません!」

と、明らかにギブアップ。だが審査側のバカリズムが○を出して続行。結果的に時間切れでドローになり、ただただ大吉のスタミナを奪う時間になってしまった。

この流れを味方につけ、西田は第4問「『い~しや~きいも~、おいも』のリズムで当たり前のことを言ってください」に「眠た~いと、寝るよ」と出し、速攻でIPPONを決める。西田リーチで迎えた第5問は「一つ足してかっこ悪くしてください『ドルチェ&ガッバーナ&○○』」

瑛人「香水」のヒットもあり、すっかり大喜利でイジる対象のワードになったドルチェ&ガッバーナ。もうひとつ足すとなると、語感を合わせたり、距離のあるワードを選んだり、いくつか戦略がある。まず両者が取ったのは、「ガッバーナ」に語感を合わせつつ、ドルガバとは遠い言葉を付け足すことだった。

・ドルチェ&ガッバーナ&ずっちーな(西田)
・ドルチェ&ガッバーナ&チャンカパーナ(大吉)

しかし、マッチポイントで優勝がかかっていることもあってか、簡単にIPPONには届かない。続いて大吉が「ドルチェ&ガッバーナ&ごはんとみそ汁」と変化をつけるが、これも不発。満を持して出した西田の回答が、これだった。

「ドルチェ&ガッバーナ&ラッセ~ラッセ~ラッセーラ」

「ガッパーナ」に対し「ずっちーな」「ラッセーラ」と極力母音を沿わせてきた西田。フリップをよく見ると、「ドルチェ&ガッバーナ&ラッセーラ」と書いた横に、後から「ラッセラッセ」と書き足している。

答えをお題に沿わせ、より面白い道へ舵を切る。そのインパクトで最後のIPPONを獲得し、笑い飯西田が初優勝! 

優勝コメントを求められた西田は「これだけ脚光浴びるのも10年前のM-1以来なんで」と語る。そう、10年前の2010年は、笑い飯がM-1チャンピオンになった年でもあるのだ。あの日は島田紳助からトロフィーを授与されたが、今度は松本人志からトロフィーを受け取る。12人目のIPPONチャンピオンがここに誕生した。

それでは最後に松本チェアマン、一言お願いします!

「マッチョで~す!」

以上、IPPONグランプリでした!

「IPPONグランプリ」(フジテレビ)
2020年12月5日21:00~
大会チェアマン:松本人志
出場者:稲田直樹(アインシュタイン)、くっきー!(野性爆弾)、駒場孝(ミルクボーイ)、千原ジュニア(千原兄弟)、西田幸治(笑い飯)、博多大吉(博多華丸・大吉)、バカリズム、堀内健(ネプチューン)、山内健司(かまいたち)、若林正恭(オードリー)
観覧ゲスト:池田美優(みちょぱ)、内田篤人、lol、片寄涼太(GENERATIONS from EXILE TRIBE)、BEYOOOOONDS、森川葵
スーパーサブ:秋山寛貴(ハナコ)、野田クリスタル(マヂカルラブリー)

1975年宮城県生まれ。ライター。Web媒体でテレビ番組レビューや体験レポートなど執筆するほか、元SEの経歴を活かしコーポレートサイトや企業広報も担当。また「路線図マニア」としてイベント登壇やメディア出演も。共著書に『たのしい路線図』『日本の路線図』。
フリーイラストレーター。ドラマ・バラエティなどテレビ番組のイラストレビューの他、和文化に関する記事制作・編集も行う。趣味はお笑いライブに行くこと(年間100本ほど)。金沢市出身、東京在住。