劇団雌猫・ひらりさ×テレ東・祖父江里奈「私たちが装う理由」メイクはスイッチ?それとも……~ドラマ「だから私はメイクする」~

メイクを通してどんな自分になりたいのか――。化粧をして「装う」意味はそれぞれ違います。テレビ東京のドラマ「だから私はメイクする」に携わった2人はどのように捉えているのでしょうか。原案を手がけた劇団雌猫メンバーの一人のひらりささんと、プロデューサーの祖父江里奈さんに語り合ってもらいました。

化粧は女性にとって喜び、それとも……

祖父江里奈(以下、祖父江): 女性にとって化粧をすることは、私は喜びであり枷である、と考えています。女性がメイクによって美しくなれることは「トク」だと感じている一方、メイクをしなければ、”だらしない”や”マナー違反”だと見られます。メイクを強制されることは嫌ですが、メイクで高揚感は得られる。リップを塗ること一つで気分が上がりますしね。逆に、メイクをしていないと自己嫌悪や罪悪感さえ抱いてしまう場合があります。

ひらりさ: ドラマの原案になったエッセイ集をまとめた時はベースとして、「女性がメイクをするのには色んな動機がある」という確認から始めようとしました。すると分かったのは、社会のためにメイクをしている女性がすごく多かったということ。「しない」ことがマナー違反と思われない社会を目指すのも必要ですが、そんな動機の中でも自分なりのメイクを楽しんでいる人がいるのが現状で、私はそういう人たちをまず応援したいのかもしれません。
メイクは使い方次第。自分がどのように使用するかで、いかようにも効果が変わるので、”武器”に近いのかなと思います。

祖父江: そうかもしれませんね。私も個人的にメイクに力を与えてもらった経験があります。ドラマのコスメ売り場にも、私が個人的に思い入れのあるコスメも並べてもらっているんです。それは「ジェーン・アイルデール」というブランドの、小さなつぶつぶが容器に入っているファンデーション、正確には「リキッドミネラル(色つき美容液)」ですね。私はアトピー持ちで、メイクができない時期がありました。

まだバラエティ番組のADだった25・26歳くらいの頃。アトピーで顔が真っ赤になる私はうつむいて出社していたほどでした。そんな時に皮膚科の先生が紹介してくれたのが、その美容液だったんです。低刺激なコスメだったので肌を悪化させることなく使えました。使うことで、久しぶりにメイクができた! その時の高揚感は忘れられず、強い記憶として残っています。

コロナ禍で減る外出 メイクの意味には変化は?

ひらりさ: 長年、自分の顔から目を背けてきた私が、メイクにハマり出したのは、パーソナルカラー診断をしたことが大きかったですね。そこからは自分に合うコスメを見つけるために「収集」するところまでいきました。今はその情熱が1周しつつあるところ(笑)。

でも、化粧品を買うか否か、ある日のメイクの有無などは、化粧好きかどうかには関係ありません。今は新型コロナウイルスの感染拡大で外出が簡単ではないからこそ、出掛ける時は、以前より丁寧にメイクをしようという気持ちはあります。メイクが一種の儀式というか、外に出るためのスイッチのように働くことがあります。

祖父江: 確かに、私もスイッチかもしれません! 今日はこの取材のために(※取材はオンラインで行われました)「きちんとしなければいけない」と久しぶりにメイクをしましたからね(笑)。

ひらりさ: 口紅や香水などは特にスイッチ感が強いですね。でも、メイクに癒しを求める方向の人は、スキンケアなどに興味を持っているかもしれません。人がメイクに求める意味合いによって、買ったり、大切にしたりしているコスメは変わってくるように思います。

祖父江: 私も大学生の時はもっと、色を塗ることに力を入れてきた気がします。言われてみれば今は、ポイントメイクのコスメにあまり興味はない。ですが、スキンケアはかなり力を入れていますし、サプリメントも買っています。私の喜びはそちら。色を塗ってきれいになるより、朝起きてどれだけ肌の調子がいいかのほうが今は大事です(笑)。

メイクは女性だけのもの? ケアの文脈で捉え直してみると…

ひらりさ: 祖父江さんは「だから私はメイクする」を制作して、コスメに対する思いなどに変化はありましたか。

祖父江: あまり変わっていないんです。ただ、改めて思ったのはコスメに対する思いというより、女性を応援するドラマをつくるのはいいなということ。ベタな言い方ですけどね。「元気になりました」といった感想をいただけるとささやかながら社会貢献をした気分になります。私はずっと女性を応援するドラマづくり、テレビづくりを求めてきました。この作品は、メイクを通して女性を応援していて、反応も他の作品よりもダイレクトに伝わってきましたね。

ひらりさ: SNSに感想を書いてくださる男性がいました。メイクへの思いはあるのかもしれません。同僚には、ネイルを整えているおしゃれな男性がいます。

祖父江: 私の周りにもいます! 先日、編集所の編集マンの男性がギラッギラのネイルをしていたんですよ。編集マンは自分の指をずっと見ている仕事じゃないですか。だからネイルにこだわる。「それっていいな」と思いましたね。

最終回では神崎恵さん演じる熊谷が憧れるBA(ビューティー・アドバイザー)役で藤原紀香さんが出演する=テレビ東京提供

ひらりさ: 最近ではメンズコスメの種類も増えてきて、男性用のネイルも売っています。メンズメイクにハマって最近「voce」のウェブメディアでも連載をしている鎌塚亮さんは、メイクを”セルフケア”という文脈で捉えているんだそうです。日記をつけて自分のことを確認するといった流れの一貫でスキンケアを始めてみたら、心がリセットされたそうなんです。メイクは見た目を装うというだけでなく、ケアという文脈で考えると確かに誰でも入りやすい。男性にもお勧めしたいですね。

祖父江: 時代は変わり、「メイク=女性のもの」という考え方はもう古い。男女や年代にかかわらず、メイクに興味にある方にはドラマの本編だけでなく、スピンオフもぜひ見ていただきたいですね。明日からのメイクに役立つこと間違いなしです!

●ひらりささんのプロフィール
1989年東京生まれ。会社員として働く傍ら、ライター・編集者として活動。「女性」にまつわる執筆・インタビューを多く手がける。オタク女子ユニット「劇団雌猫」のメンバーでもある。編著に『浪費図鑑』(小学館)、『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)などがある。

●祖父江里奈さんのプロフィール
1984年生まれ。2008年テレビ東京入社。『おしゃべりオジサンと怒れる女』や『モヤモヤさまぁ~ず2』などのバラエティーを担当した後、ドラマへ。『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』などに携わる。2013年には『ビッチ』で映画監督デビュー。

金融OL、編集者を経て、週刊誌AERAでライター業をスタート。同誌ほか、週刊朝日、朝日新聞、小学館の女性誌などで主に映画記事やインタビュー記事を執筆。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)、『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。食べることも料理を作ることも大好き