劇団雌猫・ひらりさ×テレ東・祖父江里奈 気分はメイクで上がる? SNSで反響のドラマ「だから私がメイクする」をめぐって

メイクを通して浮き彫りになる女性たちの「社会」や「自意識」との戦い――。テレビ東京のドラマ「だから私はメイクする」は、その悲喜こもごもを描いています。動画配信サービス「Paravi」での配信も人気で、女性たちの共感も得ているようです。ドラマ化の経緯や反響などについて、原案を手掛けた劇団雌猫のメンバーの一人でtelling,でもおなじみの、ひらりささんとテレビ東京の祖父江里奈プロデューサーに語っていただきました。

メイクを通して見える女性の”生き方” コスメは実際の商品で!

祖父江里奈(以下、祖父江): シバタヒカリさんの同名コミックスのドラマ化ですが、私はその原案のひらりささんが所属する劇団雌猫さんのエッセイ集『だから私はメイクする』(柏書房)を読んだ時点から、ドラマにすることを考えていました。読んだ時に、メイクがテーマであるものの、メイクを通して見えてくる女性の生き様とか生きづらさが書かれていて、すごく面白みを感じていました。

ひらりさ: ありがとうございます。ドラマを拝見して、いろんなご苦労があっただろうなと思いましたね。まず、メーカーさんの化粧品を実際に出したり、それらを美しく撮ったり……。

祖父江: 実際に存在するコスメを使うことは、最初から大前提でした。一般にドラマで使う商品は、スポンサーの関係があるので架空の場合が多いのですが、今作は本物が出てこないと視聴者のテンションは上がらないだろうと思っていましたから。ドラマでの化粧品は全部、タイアップという形で各社から商品をお借りして、番組内で使わせていただいています。坪田文さんが脚本を引き受けてくださって本当に良かった。彼女がコスメマニアであることは知っていたので、「ドラマに出てくるコスメは全部お任せします」とお伝えしました。「使える/使えないは、わからないけれど、出したいコスメを全部、書いてください」とお願いし、出てきたブランドさん1軒ずつ電話をかけて、使用許可をいただきました。

ひらりさ: 何ブランドくらい登場しているのですか。

祖父江: Elegance、Amplitude、Dior、CHANEL、excel、GIVENCHY Paris、De La Mer……スキンケアも含めて大体40種類くらいかな。坪田さんは海外ブランドも幅広くご存知なので、日本に窓口がないブランドもあり、それはインスタのダイレクトメールから交渉しました。

ひらりささん(左)と祖父江さん

主演のBA(ビューティー・アドバイザー)にキャスティングしたのは美容研究家の神崎恵

ひらりさ: 化粧品の映し方にもこだわりを感じました。

祖父江: 監督には「とにかく、視聴者の女性が見ただけで、気持ちが上がるような絵づくりをしてください」とオーダーしました。見事にそれに応えていただけた。ふくだももこさんをはじめ今回、女性監督にこだわったのは、男性だと化粧品の撮り方やどこがポイントだかわからないと思ったので。時間も予算もかけられないから、話の早い女性の方がいいと思って(笑)。

ひらりさ: 撮影現場を見学した時に、セットの売り場で男性スタッフさんがコスメを並べていらしたんですが、女性スタッフさんが「これはここ。あれはそこ」と指示されていました。男性スタッフさんも「Dr. Ci:Laboはこの辺に置くと映える感じですかね?」と聞かれていて……(笑)。相互反応が生まれていて面白いなと思いました。
主演のビューティーアドバイザー(BA)役に、美容家として活躍されている神崎恵さんをキャスティングされた点も制作陣の”愛”が伝わってきました。

主人公のBAには、美容研究家でもある神崎恵さん。24年ぶりのドラマ出演でもある=テレビ東京提供

祖父江: BAの熊谷さん役を誰にするか。きちんとした作品をつくるのは大前提。でありながらも、「メイク好きや美容ファンの方々に特に見て欲しい」という思いが強かったんです。女優さんにやっていただくことも考えたんですが、「それより話題性や、きちんとしたメイクの裏付けがある人が入ったほうが面白いのではないか」と。ドラマが「テレ東 秋のコスメ祭!のような盛り上がり方をしたらいいな」と思ったんですね。だから、挑戦的ではありましたが、神崎さんにお願いしようということになりました。

ひらりさ: 異例のキャスティングですよね。スルッと決まったんですか?

祖父江: 私も反発があるかなと思ったんですが、意外となくて(笑)。このドラマParaviは枠が深夜枠であることと、配信サービスのParaviでファンを獲得することが目的。コスメと配信やウェブは相性がいい。インスタなどのSNSでコスメも映えるし、「いいんじゃない?」みたいな感じだった(笑)。ドラマは1話完結のオムニバスで、核となるゲスト出演者には俳優さんがきちんと出てもらうので、クォリティーは担保されている。演技力もさることながら、神崎さんなら実際、コスメに対する知識の裏づけがあるし、モノの扱い方も安心して見ていられます。

1話ではメイクの沼にハマってしまった会社員・錦織笑子を島崎遥香さんが演じた=テレビ東京提供

SNSで話題に。エゴサーチをしても好反応!?

ひらりさ: 本当にそうですね。エッセイ集では「メイクというものは」と最初からメイクに抵抗のある、メイクにモヤモヤを抱えていた人たちに向けて書いていました。でもコミックス、そしてドラマと広がっていくにつれ、「自分のためにメイクするなんて考えたことなかったけど、そうかも」みたいな気づきの反応が、見ている方に出てきたような印象を受けています。ドラマでメイクすることの高揚感を覚える人も多いのではないでしょうか。

祖父江: まさにそれを狙っていました。「見たら自己肯定感が上がる」とまでは言わないですよ。そこまで出来たらいいですけど(笑)。ただ今回、感想をエゴサーチすると、「気分が上がった」とか「明日メイクしようという気になった」とか、そういう意見が多かったのは嬉しかったですね。

ひらりさ: Paraviでの2話の配信の時に、視聴者がネットで”実況”していてびっくりしたんです。配信だから、みんなぴったり同じ時間に見始めたわけではないと思いますが、21時のスタート後にSNSを見たら、ワーワー盛り上がっていて。少女漫画家の推しメンがBOYS AND MEN(ボイメン)の本田剛文さんという点で、特に盛り上がってたんですけど。

生きがいは漫画と男性アイドルグループ・ボイメンという少女漫画家を2話で演じたのは、阿部純子さん=テレビ東京提供

祖父江: 実際にボイメンの本田さんが出演してくださったのは、制作会社さんが、ボイメンの事務所と繋がりがあったからです。縁もありますし、ボイメンの本田くんが出てくださるのであれば、そのままリアルにいこうという感じでした。

ひらりさ: コミックスだと2話で登場する少女漫画家の推しはK-POPアイドルで、ドラマでは、本田さんに。SNSではドラマのオリジナル演出だと盛り上がっていました。

祖父江: SNSで広がる物語なので、いろんな仕掛けを考えました。その1つが冒頭でも触れた脚本家の坪田さんのコスメ愛を示すこと。1話終わるごとに、なぜそのコスメを選んだのかという坪田さんの個人的な思い入れを毎回、インスタであげるようにしています。

ひらりさ: 私もそれを楽しみにしているんです。脚本は読んでいますが、坪田さんがコスメを選ばれた理由やドラマの裏側にあるスタッフさんそれぞれの思いなど、知らないことがあるので。

コロナ禍で問われるメイクとの向き合い方 最終話はオリジナルで

祖父江: 知らないことといえば、最終回の6話は完全なオリジナルエピソードです。テーマはコロナ禍のコスメカウンター。コロナという言葉は使っていないんですけど、新型のウイルスが蔓延してしまい、コスメカウンターを閉めなくてはならなくなってしまった時に、我々はどうメイクと向き合うのだろう――そういうことを考えました。

ひらりさ: アニメや漫画が好きな私が、実写化の際に気になることは、原作の良さを損なっていないかという点。原作に忠実だからといって優れた実写になるとは限らない例を色々を見てきたので、今回、原作のメッセージを生かしつつ、2020年の価値観や雰囲気を取り入れた形でドラマをつくっていただいたことが素晴らしいです。

祖父江: そう言っていただけて嬉しい。劇団雌猫さんもシバタ先生もどう言ってくれるだろうと最後まで不安だったんですが、受け入れていただいて、本当に感謝しています。

●ひらりささんのプロフィール
1989年東京生まれ。会社員として働く傍ら、ライター・編集者として活動。「女性」にまつわる執筆・インタビューを多く手がける。オタク女子ユニット「劇団雌猫」のメンバー。編著に『浪費図鑑』(小学館)、『誰になんと言われようと、これが私の恋愛です』(双葉社)などがある。

●祖父江里奈さんのプロフィール
1984年生まれ。2008年テレビ東京入社。『おしゃべりオジサンと怒れる女』や『モヤモヤさまぁ~ず2』などのバラエティーを担当した後、ドラマへ。『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』などに携わる。2013年には『ビッチ』で映画監督デビュー。

金融OL、編集者を経て、週刊誌AERAでライター業をスタート。同誌ほか、週刊朝日、朝日新聞、小学館の女性誌などで主に映画記事やインタビュー記事を執筆。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)、『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。食べることも料理を作ることも大好き

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