telling, Diary ―私たちの心の中。

ハイスペ彼氏との同棲を解消し“コロナ別れ”を経験した28歳の夏を振り返って

今年は新型コロナの影響で、私たちの生活にさまざまな変化が訪れました。そんな中、夏に恋人と同棲を解消したばかりのライター三九二汐莉さん。冷静になれるようになった今、恋人との別れを振り返り、同世代読者に伝えたいことを綴ってくれました。

7月に2年ほど付き合った彼氏との、同棲生活が終了した。端的に言えば、コロナ別れというやつだ。お互い初めての同棲。会社で過ごす時間があった時はよかったものの、コロナの影響で1日中、家で顔を合わせるテレワーク生活に突入した。結局、同棲生活は1年と持たなかった。

夏に28歳になったばかりの私は、同棲生活の終わりに打ちひしがれていた。昨年あたりから、地元や学生時代の友人にも、結婚する人たちが増え、私もこの流れに乗りたい、そう思って始めた同棲だった。

同棲生活に漂い続けた暗雲

1年ほど付き合って同棲することになった彼氏は、いわゆる「ハイスペ男子」だったと思う。有名大学を卒業して、誰もが知る有名企業で働いている。稼ぎはよかったが、その分仕事も忙しく、向上心があるのはいいけれど、丁寧なコミュニケーションを厭うことも多かった。つまり、ウィズコロナ時代を迎える前から同棲生活に暗雲は漂っていた。

恋人と一緒に暮らすことがどういうことなのか私はよく分かっていなかった。呼吸するように、何気なく一緒にいられるのだろうと思っていた。
平日は頑張って働いて、休日はいろんなことを一緒にしたい。そんなふうに考えていたけれど、私たちの場合はそうできなかった。

平日忙しく働く彼は、休日にもしたいことがたくさんあった。趣味の楽器、資格や語学の勉強。私のために”無駄に”割く時間はなかった。

デートも相手の興味が薄い場所には行けなかった。休日は家にこもり、彼は部屋から出てこなかった。デートも食事も休日の過ごし方も、彼の中には”わざわざ誰かと”という感覚があまりなかったのだと思う。そして、すぐにセックスレスにもなってしまった。

私はすぐにルームシェアのような生活が嫌になってしまった。家事を分担し、生活費を分担するコスパのいい生活。ただそれだけだった。

今思えば、忙しく働く私たちに、週末を恋人と過ごすような暮らしを求めたことが夢物語だったのだろう。地元の友人たちのような、閉鎖的で愛情に溢れた恋人像を夢見ていた。いつか私のために彼が変わってくれることを望んでしまった。私にとっては、それが セックスをしてくれない彼へのひとつの愛情確認だった。

コロナ別れにすらしてもらえず、自己否定されたことに打ちひしがれる

そんな時、新型コロナはやってきた。月給が減って、息抜きに実家に帰ることも気軽にできなくなった。もはや半ばコロナ鬱状態だ。仕事しようにも仕事はないし、同居する彼氏はバリバリZoom会議をこなしながら働いている。より一層劣等感も強まった。

友人の励ましもあり「これではいけない」と新しい仕事を増やして、より仕事にのめり込んでいった。家に毎日いたため自然と増えてしまった料理と買い物の分担も、甘んじて受け入れた。そんな頃、彼氏から「同棲をやめたい」と告げられたのだ。彼の言い分はこうだ。

「正直、今は結婚しようとか、子どもを持とうなんて考えられない。このまま一緒に暮らしていても、いつかお互いのことを嫌いになってしまうだけだ。それなら、距離を置きたい。

それに、俺はまだ一人で暮らす気ままな生活に未練があるのかもしれない。誰かと暮らすことを、自分が一番受け入れられていなかった。それは全面的に俺が悪い。本当にごめん」

彼はコロナのせいにするでもなく、彼自身の価値観が私と合わないことを切々と語った。確かに毎週のようにケンカをしていたし、このまま結婚とはならないだろうという気持ちも分かる。

でも私は……コロナのせいにされた方がまだマシだった。
テレワークにさえならなければ、もっとお互いに適切な距離を保てていたら、こんなことにならなかっただろう。30歳手前になっても、長くひとり暮らしをしていた私たちは、まだまだ子どもだった。毎日同じ人と一緒に暮らすことがどんなことか分かっていなかったし、普通に考えたら毎日ずっと一緒にいるなんて、定年退職後になってからしかありえないと思っていたのだから。

そういえばTwitterでも「コロナ別れする人たちは、もともと価値観が合っていなかった人たちで、それをコロナが早めに暴いてしまっただけ」というようなツイートがバズっていた。自分たちが最高に相性のいい二人だったとは思っていない。でも、△な関係だったとしても好きだから、なんとか距離を保って、頑張っていきたかった。

私は別れをコロナのせいにしたかった。彼との相性が悪いからとか、私がわがままだったからだとは思いたくなかったのだ。

一番苦しいのは、離れきる直前だけ

こうして、私は恋人との同棲生活を終了した。短い同棲生活だったにもかかわらず、都心にいい家を借りたので、同棲のための初期費用は一人40万円ほどかかった。そして、1年足らずで家を出ることになり、また都心に家を借り直したので、50万円ほどの大出費だ。これだけだって泣きたくなる。

28歳にもなって、また一人で東京の街に放り出されてしまった。彼のことが好きだったからなのか、先が不安だったからなのか、振り返っても理由は分からないが、最後の1カ月は本当に泣き暮らしていた。彼は私より何週間も早く、さっさと自分の家を見つけて、楽しそうに出ていった。結婚前提なんて言っていたが、まだ親にも同棲を解消したとは報告できていない。

でも……「こんなご時世で一人暮らしなんて嫌だ」「寂しいし死ぬ」と毎日泣いていたのに、新しい家に引っ越してみたら、パタリと涙も出なくなったので、私はまた忙しく仕事を始めた。

今思えば、辛くても現状を維持しようと思っていた頃と、離れてしまう直前が一番つらかった。これまでかけた時間や手間、これからの不安を考えると、どうしても自分から離れたいとは言えなかったから、潔く言い出してくれた彼の実行力に感謝すべきなのかもしれない。一人での暮らしは暇ではあるが、寂しいとは思わずに済んでいる。

夜もよく眠れるようになった。こんな話、誰かの参考にはならないかもしれない。「離れたら楽になるよ」なんて、他人に言われても渦中の私には全く響かなかった。
ただ、大好きな人と離れても、生活は淡々と続いていくのだということだけは、恋に悩むみなさんにも、知ってほしいと思った。

1992年生まれ・フリーライター。広告業界で絵に書いたような体育会系営業を経験後、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿。Twitterでは恋愛相談にも回答しています。
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