北乃きいさんが自粛中にはまったものは?「現実を忘れられる時間は大事」15日から上演・舞台『真夏の夜の夢』

シェイクスピアの喜劇をもとに劇作家の野田秀樹さんが潤色・脚本を手がけた舞台「真夏の夜の夢」が10月15日から東京芸術劇場で上演されます。物語のヒロイン・ときたまご(原作ではハーミア)を演じる北乃きいさん(29)に、舞台への思いやコロナ禍にエンターテイメントが果たす役割などについてうかがいました。

セリフがストンと入ってきた

――ときたまごはどんな人物ですか。ご自身との共通点や相違点はありますか。

北乃きいさん(以下、北乃): すごく愛らしくて自由な人、ですね。駆け引きなくストレートに気持ちを表すピュアな人だと思います。
私は基本的に演じる役と自分の共通点は探さないんです、別物だから。でも、強いて言うなら「自由さ」が自分と似ているかもしれません。私は自由に生きているタイプなので、彼女のセリフの多くは自分の中にストンと入ってきました。

――例えばどんなセリフでしょうか。

北乃: 「私は自分が一番好き」というセリフがあります。そこに彼女の考えや自己表現の自由さが現れていて、いいなって感じました。
みんな本当は自分のことが一番好きなんだと、私は思うんです。でも実際それってなかなか口に出せないし、出さないじゃないですか、普通。彼女はわざわざ言うんですよね。周りがどう思うかを気にせず、自分の意見をはっきりと人に伝えるところが素敵です。

――役作りで意識していることはありますか。

北乃: 稽古に入る前に、あまり作り込まないようにしています。自分が「こうだ」と思って持っていったイメージと脚本家や演出家の意図が違ったら、ぶつかっちゃうので。現場に入って他の演者さんたちと一緒につくっていくよう心がけました。
シェイクスピアの勉強はしました。「夏の夜の夢」は過去に何度も映画や舞台になっているので、他の方が脚本を書いたものを鑑賞したり、1992年に初演された野田さん版のパンフレットをオークションで落札して読んだり。
過去の作品と同じように演じるという意味ではなく、野田さんがどういう思いで今回の脚本をつくったのか、自分で見て知りたいと思ったので。限られた時間の中で入手できる資料は集めて…という感じです。

コロナ禍、現実逃避したくなった

――コロナ禍で舞台や音楽などの活動は影響を受けました。そんな中でも人が作品に触れる意味を、北乃さんはどう考えていますか。

北乃: 人にとって娯楽というのはすごく大切なものだと考えています。
ただ、世の中で色々なことが起きるたびに「こんなときに芝居をしていていいのだろうか」と、私も思ってしまうんですよね。
私はコロナの影響で2カ月半くらい仕事が減った時期がありました。覚えないといけない台本を抱えていましたが、その仕事もいつ入るかもわからない状況になってしまって。この先がどうなるか本当にわからない、ゴールの見えないマラソンみたいに感じられて、すごく現実逃避したくなりました。

そのときに見たのが、コメディでシリーズものの「Mr.ビーン」。クイズ番組などにも手を出したのですが、ビーンで「これだ!」と思って。そこから毎日ビーンなしでは寝られないってくらい熱中しました。気づいたらウィキペディアでビーンのことを調べて、家族構成とか息子さんの顔がすごく似ているとかそういうのを見て一人で楽しんでいたくらい(笑)。
こんな時でも「見たい」と感じさせてくれるエンターテイナーってすごいって、改めて思いましたね。流行りに関係なく何年経っても人気があって、幅広い世代に受け入れられている。現実を忘れて何も考えずに楽しめる作品は、やっぱり人にとって大事なんだなって感じました。
舞台も同じで、普段の生活から一歩離れて別の世界に入ることができると思います。ほんの数時間ですが、そこでしか味わえないものを届けることができます。

――北乃さんもそんなエンターテイナーになりたいですか。

北乃: そうですね。コロナ禍でも「見たい」と思ってもらえる存在に私がなれれば、「こんな時に芝居なんかしていていいのかな」と思わなくなるのかもしれません。
私はもともとノンフィクションなどをよく見るので、演じる時もそういったものの方が好き。コメディってすごく難しいから苦手意識が今でもあります。でも、ビーンを見たら「こんなふうに現実を忘れさせてくれる作品がつくれる人になりたい」って思うようになりましたね。

――今後はコメディにもチャレンジしていくのでしょうか?

北乃: いままで出演させてもらう機会が少なかったので全然経験はありませんが、コメディもやっていきたいです!自分の幅が広がるので興味がありますね。
最近はコメディタッチの映画も多く、色々な女優さんがチャレンジしている印象がありますし。

普段の生活からちょっと離れてみてほしい

――「真夏の夜の夢」に見に来てくれる人に、どんな風に感じてもらいたいですか。

北乃: 世の中がこんな状況なので、「絶対来てね!」とは言えないんですけれど・・・それでも来てくれる人がいるから、いいものを届けたいなって思っています。いつも全力でやっているけれど、今回は特に・・・!
この舞台はファンタジーなので、現実を忘れることができると思います。数時間、普段の生活からちょっと離れて何も考えずに楽しんでもらえたらうれしい。出演者みんなそのように演じますし、私もすごく自由にやっちゃおう!っていう気持ちで臨みます。

●北乃きいさんのプロフィール
1991年、神奈川県生まれ。2005 年にミスマガジングランプリを受賞し、女優としての活動を開始。フジテレビ系「ライフ」で第45 回ゴールデン・アロー賞新人賞ドラマ部門(07)、映画「幸せな食卓」で第29 回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞(07)、第31 回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞(08)。12 年に「サイケデリック・ペイン」で初舞台。以降、「ウエスト・サイド・ストーリー」「ハル」(19)、「心臓が濡れる」「人形の家」(18)など舞台に積極的に出演。14~16年には日本テレビ系情報番組「ZIP!」の総合司会も務めた。

1989年、東京生まれ。不登校・高校中退から高卒認定を取得し大学へ。新聞の記者・編集者を経て、2020年3月からtelling,編集部。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。