27歳歯科衛生士「高学歴・高収入のいい人を見つけなきゃ」親の呪文に縛られたまま、ホストにハマってわかったこと

なるべくなら親がよろこんでくれる高スペックな人と結婚したい、そして早く孫の顔を見せたい……そんな思いを抱いている女性は少なくありません。今回登場する歯科衛生士の27歳の女性は、高学歴・高収入の年上の恋人がいながら、給料のすべてをホストクラブに使ってしまっているのだといいます。結婚観、これからのことをうかがいました。

小さい頃、母親から「いい大学には入らなくてもいいから、早くいい人を見つけなさいね」と言われて育ったミレニアル世代女性も少なくないのではないでしょうか。

しかし、生き方、価値観など「多様化」する現代。メディアやSNSでは「誰もが自分がしたいようにするべき」「女性も結婚だけが幸せではない」と叫ばれ、幼少から培われた昭和的観念と、令和的価値観のダブルスタンダードに悩む女性も多いはず。私もそんなミレニアル世代女性のひとりです。

ホストにハマった罪悪感で、好きでもない年上彼氏と過ごす日々

行きつけの歯医者で、いつも歯石除去を担当してくれる歯科衛生士の葉山さん(仮名・27歳)。
葉山さんは、私の歯石を落としながら「実はわたし、今日誕生日なんですよ」と話し始めました。
今日は彼氏が港区にある高級ホテルを予約してくれていて、と言いながらも、どこか心から喜んでいないような乾いた笑みを浮かべています。

「彼は40代で、すごく年上なんです。マッチングアプリで仲良くなった人で、お金も稼いでいるんです。いつもおいしいものを食べさせてくれるし、何でもない日にプレゼントを贈ってくれたりする。すごくいい人なのに、本気では好きにはなれないんです。年上に偏見があるわけじゃないんですけど……実はわたし、今、ホストにハマってるんです」

私の口内をキレイにしながら、葉山さんはどこか虚しそうに話してくれる。その表情が気になって、後日カフェでお茶をしながら、じっくり話を聞くことにしました。

「短大を卒業後も、練馬区にある実家で暮らしています。学生の頃はずっとアイドルと二次元キャラを追いかけていて、リアルで出会う男性に好意を持ったことはありませんでした。でも、女手ひとつで私を育ててくれた母は、私に“早いうちに結婚すること”を望んでいます。

ホストにハマってしまったのは、ここ1年くらいのこと。友達と遊んでいる時にキャッチされて、なんの気なく行ってみただけだったのに、初めて自分についてくれた担当さんに一目惚れしてしまったんです。それからは、給料は全部ホストクラブに費やす日々……」

そのホストに対しては明確に恋愛感情を持っているといいます。では、彼氏であるはずの年上の男性は……?

「付き合っている人には、恋愛感情は全くありません。ただ、学歴があって有名企業で働いていて、というその人のスペックを聞いて“母が喜んでくれるかも”と思ったんです。幸い、相手は私に好意を持ってくれているみたいだったので、それならとりあえず付き合っておこうかなって。

母には、ホストにハマっていることは言っていません。そんな自分に、後ろめたさもあるんです。ハイスペおじさんと付き合っているのは、そんな自責の念からですね」

「優等生な私」が、なりたい自分を許せない

歯科衛生士として稼ぐ給料も、全てホストにつぎ込んでしまうという葉山さん。それだけでは満足できなくなり、副業も始めたといいます。

「今は空いている時間を見つけて、水商売の副業も始めました。恋愛経験も少なかったので、最初はすごくハードルが高いように感じたけれど、もう慣れてしまいました。やっぱり、こんなに稼げる仕事はほかにないなって思います。

本当は歯科の仕事も辞めて、水商売一本にしたいと思うぐらい。そうしたら今の5倍くらいは稼げるし、ホストの彼も喜んでくれるのになって。でも、そんなこと母に言えないし、周りの友人も止めてくれるから……なんとかまだ、昼の仕事も続けられています」

葉山さんはやりたいことはあるけれど、それが一般的な常識から離れていることは分かっていて、そういう自分を、どこか許せないのでしょう。

「年齢的にも、彼氏は結婚を考えているみたいです。この人と結婚したら、母の言う“楽な暮らし”ができることはすごく分かる。でも、今決めきることはできなくて……。すごく宙ぶらりんなんです。

ホストの彼は好きだけど、世間体を完全に捨てきれない。自分がもっと思い切りのいい性格だったら、仕事を辞めて本気で稼いで、死ぬほどお金を使って彼のことを落としたかった。でも、そこまで尖りきれないんです。仕事を辞めても、その人が振り向いてくれなかったらどうしようって思ってしまう。歯科助手の仕事も、今はいくらでも求人がある仕事ではないから、辞めるのはやっぱり怖い」

本来、ホストへの恋はもっと盲目であるはずなのに、葉山さんはとても冷静に自分の状況を俯瞰していました。

「結婚は、いつかしたいなって思う。できれば好きな人とがいいけれど、それよりもやっぱり、母を安心させたい。母の近くに住んで、母に孫を抱かせたい。私は自分ではそんなに稼げないから、そう考えるとたくさん稼いでいる人がいいんだろうなって思います」

そんな彼女はその日、27歳の誕生日を迎えました。好意のない彼氏と高級ホテルに泊まって過ごす誕生日。彼女には今、そうやって現実から目をそらす時間も、必要なものなのかもしれません。

1992年生まれ・フリーライター。広告業界で絵に書いたような体育会系営業を経験後、2017年からライター・編集として独立。週刊誌やWEBメディアに恋愛考察記事を寄稿。Twitterでは恋愛相談にも回答しています。