「若草物語」の次女ジョーに感じる、一人で生きることの“しんどさ”の正体

これまで幾度ともなく映画化されたアメリカ文学不朽の名作「若草物語」。19世紀にそれぞれ異なる生き方を選んだ4姉妹の物語です。2020年版「若草物語」は作家を目指す次女ジョーを主軸に物語が展開します。一方的な価値観を押しつけずに女性たちの生き方を表現し、多様な生き方を選択できる現代の女性たちにもオススメの作品。自身もペン一本で生きていくことを決めた、ライター新田理恵さんが時折感じるしんどさの正体とは?

私は映画やドラマ関係のインタビューや紹介記事の執筆が主戦場のライターをしています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、インタビューや試写室に出かけることがなくなり、2か月も電車に乗らなかったほど、愚直なまでの「ステイホーム」を実践していました。

一日中ドラマを見たり(一応仕事です)、翻訳の仕事に没頭したり。ざっくりタイムスケジュールを立て、自分を律して、実践する。栄養バランスに留意した食事を用意し、自分のペースで好きな仕事をして、暮らしを思い通りにコントロールする。なんという充実感……!

40代前半、独身、一人住まい。もともと他人の感情に敏感すぎるところがあり、「ムダに疲れたくない」と海外旅行なども基本は一人。そんな具合なので、世間に申し訳ないほどステイホーム期間がノーストレスでした。だけど、そんな生活も出口が見え始めた頃、モヤモヤした何かが胸のあたりにつかえるようになったのです。

自分のためだけに生きることに、いよいよ疲れた――。

そう感じている私が公開中の映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』を見て、共感しすぎて泣いた場面があります。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の原作小説『若草物語』は、19世紀後半のアメリカを舞台に、「生き方は自分で決める」4姉妹の姿を生き生きと描いた世界的ベストセラー。原作者ルイザ・メイ・オルコット自身の家族がモデルになっていて、なかでも、作家志望でお転婆な次女ジョーはルイザの分身のような存在です。

4姉妹が生きたのは、「結婚だけが女の幸せのゴール」だとされていた時代。ジョーは小説で身を立てることを夢見て、生涯独身でもいいと言う、かなり進んだ考え方の持ち主でした。

それなのに、姉妹が結婚して自分のそばを去ったあと、部屋で1人ペンを握っていたジョーが、「結婚だけが幸せではない。だけど、すごく寂しい」と泣くんですね。

めちゃくちゃ分かります。
「好きなことを生業にできているから、仕事さえあれば伴侶は要らない」と私も信じているし、20年以上におよぶ一人暮らしに1ミリも不満はないのですが、時折自分が世間から切り離された欠落した人間に思えることがあります。

もちろん、ジョーが「寂しい」と泣いたのは、純粋に、姉妹や愛する人に去られた孤独感が大きいと思います。でも、「ペン1本で生きる」と肩ひじを張って生きている中で、さまざまな「ままならなさ」と折り合いをつけながら誰かと寄り添い生きていく姉妹を見ていると、自分だけが子どものまま社会の片隅に取り残される恐怖があったのではないかと想像するのです。

映画のジョーの選択についてはネタバレになるので言及を避けますが、原作では結婚して、伴侶と共に恵まれない子どもたちのための学校を開きます。モデルのルイザ自身はいくつか恋も経験しつつ生涯独身を通しますが、亡くなった妹の娘を育てるなど、やはり人のために尽力した人だったようです。

自分のためだけに頑張るには、限界がある。人と関わるのはシンドイけれど、誰かのために生きたい。

私はそろそろ人生も折り返し地点に差し掛かろうかという年齢ですが、中身はものすごく子どもだと自覚しています。他人には関心が薄いけれど、自分のやりたいことと好きなことに対する執着はすごい。そんな自分本位な部分は死ぬまで変わらない気がしますが、時折感じるしんどさの正体は、「本当は人と関わりたい」「社会の一員でありたい」という密かな成長願望。それを「寂しい」と泣くジョーの姿に重ねて見た気がしました。

全4作から成る『若草物語』の第1作目が書かれたのは明治元年(1868年)のこと。150年前に生きた登場人物に無理なくシンクロできるという、おそるべき普遍性を持った小説です。「女性の最高の幸せは家庭」だと専業主婦になる長女のメグ。何者にもならないけれど、周りの人の心を温かくできる三女べス。自分磨きに余念がない四女エイミー。オルコットは4姉妹それぞれの個性や生き方をどれも否定しません。

演出中のグレタ・ガーウィグ監督(右)

これまで幾度も映像化されてきましたが、今回の映画化を手がけたグレタ・ガーウィグ監督(『レディ・バード』など)は、特にエイミーのキャラクターを現代的に肉付け。さらに、姉妹が親しく付き合う資産家の息子ローリーを通して男性にかけられた「男らしさの呪い」まで解こうと試みるなど、アフター・コロナ時代の日本女性をもうならせる最高に"今"な作品に仕上げています。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』

6/12(金)全国順次ロードショー
監督:グレタ・ガーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ピュー、エリザ・スカンレン、ローラ・ダーン、ティモシー・シャラメ、クリス・クーパー、メリル・ストリープ
配給=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
公式サイト https://www.storyofmylife.jp/

ライター、字幕翻訳者。映画、ドラマ(中国語圏が中心)、女性のライフスタイルなどについて取材・執筆している。大学卒業後、北京で経済情報誌の編集部に勤務。帰国後、団体職員を経てフリーに。