コロナ×老後不安をあおられマンション投資?

「このまま一生独身かも」「老後に2000万円必要って言われても困る」「コロナで急に収入がダウンしたらどうしよう」。そんな思いを抱えているところに、不動産投資での家賃収入の話を持ち掛けられたら――。30代・40代の女性がこんなトラブルに巻き込まれることが増えているそうです。ファイナンシャルプランナーの中村芳子さんに実態を聞きました。

婚活パーティーで会った不動産の営業マンが…

中村:実は今、独身の女性から不動産投資の相談を受けることが増えているんですよ。

――どういうことですか? 

中村: 30代以上で比較的収入が高かったり、上場企業の会社員、公務員など安定した職業についていたりする人。そんな女性は、いろいろな場面で不動産投資を進められることがあるんです。中には、マッチングアプリなどで知り合った男性から不動産投資を勧めらたという話も聞きます。私が相談を受けたケースでは、40代、30代で買った方が多いのですが、20代の女性もいます。収入が高い人ほど狙われる可能性があるんです。

――普通なら、いくら勧められてもマンションを買おうとはならない気がします。

中村:そんなことないですよ。こっちは不動産の素人で、自分のマイホームを買うのだって一生に1回くらい。それに対して向こうは不動産を売るプロで、金融の知識も持っている。自宅不動産でも間違いをおかしやすいのに、投資用のマンションになるとなおさらです。ほとんどの人は、投資の基礎知識もありませんから、セミナーで聞いた内容、営業マンからの説明を鵜呑みにしてしまいがちなの。

「老後の資産になりますよ」「毎月、家賃収入が入ってきますよ」というのは嘘ではない。良い物件を、適正な価格で、現金で買えば、いい資産になる。確かに、退職後に家賃収入を産んでくれる。でも実際は、悪い物件を、高い値段で、100%ローンで買ってしまうケースがほとんどです。

おまけに、ワンルームマンション一部屋なら、まだ(ダメージが小さくて)いいんですけど、物件を3つも4つも買った女性たちもいます。一つ買うと、二つ、三つ、四つと勧められることが多いの。おそろしいです。

「マンション購入の種まき」をされている?

――オンライン婚活も流行っています。

中村:オンラインだけではマンションの契約はできないから。でも気をつけて。「種まき」をされるかもしれません。

――種まきって?

中村:実際に会う前のオンラインでは、自分の仕事の不動産投資のことについて話す。たとえば「楽にお金が儲かる」とか「将来が心配だったらマンションを持っていた方がいい」と言っておくのです。会えるようになったら、資料を持ってきて見せて、具体的な物件を紹介して、1日も早く契約に持っていこうとする。

「今の収入があるうちにローンで買っておけば、退職してからずっと不動産収入が得られるよ。」などとささやくんです。「いまは、100%ローンで簡単に買えるよ」「家賃保証もついてるから、万一空室になっても安心だし」「30代の女性で気が利いた人は、みんな買ってるよ」
婚活で知り合った人に勧められなくても、軽い気持ちで、あるいは向学心から「老後資金セミナー」「不動産投資セミナー」に参加して、同じように勧められ、買ってしまう人も少なくないの。
コロナウィルスの緊急事態宣言でステイホームの間も、投資のオンラインセミナーは活況だったから、これからリアル面談、リアル勧誘が増えそう。オンラインセミナーに参加した人は気をつけて!

――ワンルームでもマンションは2000~3000万円くらいはしますよね。なぜそんなに簡単に買うんですか?

中村:いちばんの理由は老後の不安ね。独身の女性は、ほとんどの人が「結婚しないかもしれない」「もし、結婚しなかったら」という不安を抱えてる。意識していなくても、心の底に潜んでいる。きょうだいがいないと、親が死んだらひとりぼっちになってしまう、という不安は小さくない。
女性が働き続けるのは、昔よりずっと良くなったとはいえ、決して簡単ではないし、収入も男性より低い。「ひとりで老後を迎えるかもしれない」と、心のどこかで不安に思っている時に「老後2000万円問題」を言われたら反応しちゃいます。

――老後のことを考えると?

中村:「このワンルームマンションで老後の不安を解消できます」といわれたら飛びつきますよね。

不動産投資はどうする? 購入前にすべきことは

――投資はしないほうがいい?

中村:ただ、そういう事例もあるってだけで、婚活で出会う不動産業界の人が全員怪しいわけではありません(笑)。彼らの名誉のために付け加えておきます。不動産投資は、本当に興味があるなら、いまから勉強しておくのは悪くありません。

投資で一番大切なのは、リスクを知ること。不動産投資も例外ではありません。どんなリスクがあるか。最悪のケースではどうなるか。このふたつをしっかり抑えることが大切。
ワンルームマンション投資でいちばん大きなリスクは、適正価格より高く買ってしまうこと。1800万円の価値しかないのを、2200万円で買ってしまう(買わされる)人が多いの。オソロシイ。
次は、買った後に価格が下がること。経済が不況になったり、人口が減ったり、その地域の人気がなくなると下がってしまいます。それから入居者が決まらず空室になる(家賃の収入がなくなる)リスク。物件に人気がないと起こりがち。売ろうとした時、売れないこと。これは最悪。
これらを考えた上で、私が出した結論は「ワンルームマンション投資をしていいのは、現金で買える人」。条件は「信頼できる専門のアドバイザーに相談すること」です。
このふたつが満たせないなら、不動産投資はお勧めしません。

不動産投資は金額が大きいので、失敗すると「老後の安心」のはずが、いまの生活を圧迫し、老後のお荷物(負債)になってしまいます。絶対に「老後の不安」から、投資の勧誘にのらないようにしてください。

すでにワンルームマンションを買ってしまった人は、このまま持ち続けるのがいいか、それとも手放した方がいいか、購入した業者にではなく、FPなど中立の立場の専門家に相談することをお勧めします。

老後のために貯蓄をしたり、投資をするのはもちろん良いこと。でも、決して不安からしてはだめ。それから不動産や貯金より頼りになるのは、健康な体と稼ぐ力です。この2つへの投資(時間とエネルギーとお金)をまず優先させましょ!  Positive Thinking も忘れないで!

いま、働く女子がやっておくべきお金のこと

著者:中村芳子

出版社:青春出版社

ファイナンシャルプランナー。東京・下北沢のオフィスで多くの人のお金の相談にのり、人生の悩み解決のお手伝いをしている。早稲田大学商学部卒。メーカー勤務を経て1985年に独立系ファイナンシャルプランニング会社に転職、女性FP第1号に。91年に友人と「アルファアンドアソシエイツ」を設立。『20代のいま、やっておくべきお金のこと』(ダイヤモンド社)『いま、働く女子がやっておくべきお金のこと』(青春出版社)など著書多数。
明治大学サービス創新研究所客員研究員。ミリオネアとの偶然の出会いをキッカケに、お金と時間、行動について真剣に考え直すことに。オンライン学習講座Schooにて『文章アレルギーのあなたに贈るライティングテクニック』講座を開講中。