新型コロナウイルス“感染”ライターが見る「NYのいま」

新型コロナウイルスのオーバーシュートが起きたニューヨーク。現在、2週間以上連続で総合入院者数は減少しているものの、ニューヨーカーは自宅にこもりきっている状況にそろそろ疲れを感じ始めています。一方、アフターコロナに向けての動きも顕在化。今のニューヨークを、自身も“感染”したライターがリポートします。

私自身の新型コロナウイルス“感染”、発症から回復までの経緯を前回、お伝えしました。仕事に復帰し、ニューヨークの街に立つと、再び、ジョギングする人の姿が目に付くようになりました。人影が少ないマンハッタンとは対照的に、週末のセントラルパークはジョギングやサイクリング、ピクニックする人などで以前よりも混んでいるほど。社会的距離を十分取れるはずもなく、ちょっと心配です。

進むオンライン化 コロナ疎開の動きも

一方、オンラインへの移行の動きは顕著。コロナの感染拡大前は教室で行われていた語学から楽器、ピラティス、カンフーに至るまでのあらゆるレッスンが、あっという間にオンラインになりました。手狭なニューヨークのアパートで、カンフーの稽古ができるのかは謎ですが、やってやれないことはないそうです。

オンラインでピラティスを教える女性は、「自分の健康管理のため、アパートでウエイトトレーニングをしたり、インスタグラムを使ったヨガやダンスなどのフリーレッスンを受けたりしていますよ」と話します。ピラティスのレッスンがオンラインに切り替わったことで、クライアントのアパートや教室まで出向く必要がなくなり、自分の時間が増えたと言います。

清水素子さん撮影

「狭いアパートにこもっているのは耐えられない」と、別荘などに〝疎開〟する人もいます。自宅でテレワークをしていた男性は、妻とニューヨーク郊外の別荘に移りました。   
美容院に行けず、伸びきった髪を気にしながら、「ここなら庭がある。地下にトレーニングルームもあるから、エクササイズもできます。外に出ても人が少ないから、感染するリスクも感染させるリスクも低い」と、ほっとした表情で話します。

混乱続いた病院 流れるEmpire State of Mind

ニューヨーク市では3月1日、1人目の新型コロナウイルス感染者が出てから、あれよあれよという間に感染者が増えてしまい、病院は対応に追われました。看護師のYさんは「当初はマスクが足らず、看護師たちがお金を出し合い、中国からマスクを輸入したほどです」と話します。看護師の感染も広がり、人手が足りなくなって大変な時期もありましたが、最近はプロトコル(コロナの感染者に対して処置を行う手順)も確立。感染した看護師たちも順次、職場に復帰してきました。

Yさんの病院では、コロナの患者さんが人工呼吸器を外したときや、回復して退院する場合にAlicia KeyのEmpire State of Mindが流れるといいます。「この歌が流れる度に、『ああ、元気になっている人がいるんだ』と嬉しくなってみんなで歓声をあげます」。最近はこの曲が流れる回数が増え、医療現場にも少しずつ明るさが戻ってきているそうです。

大沢泉さん撮影

ニューヨークに住むKさんは仕事が終わった夜や、週末はほぼ終日、ミシンに向かい、布マスクをつくっています。「病院で医療マスク不足が深刻化し、州政府が、医療関係者はバンダナやスカーフを使用するようにという勧告を出しました」。この状況に危機感を抱き、地元のボランティアグループを通じて、医療機関や介護施設、警察や消防などに手づくりマスクの寄付をし始めました。

「使ってもらう人に、少しでもポジティブな気持ちになってほしい」と布の材質、生地の組み合わせ、色使いにも配慮。長時間使っても耳が痛くなったり、かぶれたりしないように、ゴムは使わずTシャツで紐をつくるなどしたマスクは4月末には250枚になりました。「黙々と作業をすることで、自分が感染拡大の不安と心配から逃避している面もあるかもしれません」(Kさん)

使っていないミシンを届けてくれたり、材料を寄付してくれたり、マスクのつくり方をアドバイスしてくれたり・・・。多くの人の助けがあったそうです。

つながることでコロナの不安が・・

医療従事者を始め、警察官や宅配業者、アパートの管理人など「エッセンシャルワーカー」は在宅勤務ができず、感染の不安を抱えながら働いています。そんな人たちに感謝を示そうと、ニューヨークでは午後7時になると、あちらこちらで楽器、フライパン、そして手を叩く音が響くようになりました。前述の看護師のYさんは、「仕事から帰ったときに、メガホンを持った人に名前を呼ばれ、アパート中の人たちから窓越しに『ありがとう』と言われ、びっくりするやら恥ずかしいやら」と嬉しそうに話します。

この1ヶ月間、ウイルス感染から自分の身を守ることで精一杯だったニューヨーカーですが、自宅で楽しく過ごす工夫をしたり、エッセンシャルワーカーの労をねぎらったり、雇用が不安な人たちを支えたりと、余裕も出てきたようです。自分が大変だから人の大変さもよく理解できるのかもしれません。様々な人たちとあらゆる場面でつながることで、コロナウイルスに対する不安は軽減される――。そんな気がしています。

ライター。東京での雑誌などの取材・インタビュー・原稿執筆などの仕事を経て、2000年に仕事と生活の場をニューヨークに移す。