NYで新型コロナウイルスに“感染” 回復した今、伝えたい「自分の身は自分で守るということ」

ニューヨークで新型コロナウイルスに“感染”した在住ライター。 発症から回復までの経過を振り返りつつ、漠然とした不安を抱えている人に対し、正しい情報を入手し、シミュレーションすることの重要性を訴えます。コロナへの不安や当惑がさらに広がる中、私たちに与えてくれるヒントの内容とはーー。

ニューヨークでの新型コロナウイルスの感染爆発。世界中からの観光客で賑わっていたマンハッタンが、今ではすっかり人影が消えて廃墟のようになってしまっている様子を報道で見て、ショックを受けた人も多いでしょう。

ニューヨーク市の中で感染者が一番多いのが、私の住むクイーンズ地区。新型コロナウイルスに“感染”しましたが、私は症状出現から2週間ほどで回復しました。“感染”と書いたのは、PCR検査を受けていないから。断定はできないのですが、ニューヨークの状況と症状を考えれば、感染したと考えるのが妥当だと思います。

日本でも感染者数が増え、不安を抱えている人も多いでしょう。感染を防ぐ努力をすることはもちろん大切ですが、私が感じたことは、感染した場合に備えて、あらかじめ信頼に足る情報を集め、症状が出たらどうしたらいいか、シミュレーションしておくことがとても重要だということでした。

そこで、どのような経過をたどったか、お伝えしたいと思います。ただし、これは個人のケースですので、そのまま全ての人に当てはまるわけではありません。新型コロナウイルスに感染したと思われる場合のあくまで参考にしていただければ。

走る悪寒と微熱 新型コロナウイルスに感染? 

  • 1日目(3月26日) 夕方、急に悪寒を感じ、夜になって微熱。風邪を引いても悪寒を感じたり熱が出たりすることはほとんどないので、もしかしたら新型コロナウイルスかも。
  • 2日目 体がだるく起きていられなかったので、ほとんど仕事はせず、半日寝ていた。夜に微熱と、悪寒、軽い頭痛。
  • 3日目・4日目
    前日のだるさが取れ、仕事も普通にできた。ただ、夜になると微熱と少しの咳。悪寒がするのでセーターを着て就寝。

  • 5日目 悪化せず。ニューヨーク州政府の通達は、「新型コロナウイルスに感染したような症状の場合は、数日様子を見て、よくならない場合は、電話で医師の指示を仰ぐこと」。
    知人の医師にショートメールで症状を伝えると、「病院には感染者が多いので、検査のために行くことは勧められない。症状が悪化する可能性があるし、有効な治療法はまだ確立していないので自宅にいたほうがいい」という返事だった。
    その上で、水分補給を十分にし、一般的な風邪薬を服用して様子を見るように助言を受けた。ただ、呼吸が浅くなったり、速くなったりしたら、病院に行くことも考えたほうがいいとのことだった。
  • 6日目 朝、ショートメールで体調を尋ねてくれた医師が、リモート診察を提案してくれた。

パルス心拍数酸素濃度計アプリを購入。数値は正常の一方、味覚に異変
「大好きな納豆や味噌汁が…」

  • 7日目 フェイスタイムを使ってリモート受診。医師の元には私の健康診断や医療保険のデータがあり、前日までに症状を伝えてあったので、診察はスムーズ。コロナに効くとされる抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン(5日分)を処方してもらう。
    医師から最寄りの薬局にオンラインで処方箋を送ってもらったが、在庫がないとのこと。その旨を伝えると、バイク便で届ける手配をしてくれた。2、3時間後に到着し、ヒドロキシクロロキンの服用を開始した。迅速な判断と手配に感謝。
    勧められ、パルス心拍数酸素濃度計アプリ(Pulse Oximeter – Heart Rate and Oxygen Monitor)を使うことにした。これは心拍数と酸素飽和度を測定できるアプリで、アップルストアで4ドル99セントで購入できた。使い方は簡単。アプリを開いてスタートボタンをタップすると、カメラのライトが点灯。スマホをしっかり持ち、ライトの部分を指で挟んで覆うようにして数十秒ほど待つと、心拍数と血中酸素濃度の数値が表示される。医師の指示で、安静時とアパート内を少し歩き回って心拍数を上げた後の数値を計測。心拍数は54〜68で、酸素濃度は94〜100くらい。酸素濃度は90を超えていれば問題ないそう。私はこの数値は常に90を超えて安定していた。このアプリは、客観的に状態を把握するのに役立ったと思う。
  • 8日目〜9日目 医師は毎朝、ショートメールで気分を尋ねてくれた。さらに1日に数回、体調を聞いたうえで、アプリの数値を確認し、「水分を十分に補給するように」などと必要な注意を与えてくれた。少し咳が気になる。味の感じ方も変わるようになり、食欲減退。塩味がきつく感じられ、大好きな納豆や味噌汁も口にするのが苦痛だった。ただの水でさえ変な味がし、参った。ただオレンジは美味しく食べられ、レモンと蜂蜜にお湯を注いで飲むとおいしかったので、これでせっせと水分補給に努めた。

戻る食欲、消える悪寒。医師の意見は?

  • 10日目 症状は安定したが、咳が少し出るので、ドキシサイクリンという抗生物質の服用開始。
  • 11日目 微熱はなくなり気分もだいぶよくなったが、まだ少し咳。
  • 12日目 夜だけ悪寒を感じたが、症状は徐々に収まっているよう。医師からは、悪寒の場合は必要に応じてアスピリンを服用するよう言われたが、ほとんど服用しなかった。
  • 13日目 悪寒は消えたが、動くと咳。強い薬のせいで時々胃の痛みを感じていたので、日本から持ってきていた太田胃散を服用した。食欲はだいぶ戻ってきた。
  • 14日目 咳が残っていたが、悪寒などの症状は、ほぼ消えたことを医師に告げると、喜んでくれた。
  • 15日目 体調が、ほぼ元に戻っていた。医師に私の症状は新型コロナウイルスによるものかどうか尋ねると、「現時点では、あなたの症状から判断して、新型コロナウイルスに感染した可能性が最も高い。味覚が変わるのは特徴的な症状だ」と返ってきた。
  • 16日目(4月10日) 咳が少し残っているだけで、気分は上々と医師に伝えると、「薬の服用は明日で終えていい。無理をしないで過ごすように」「微熱がなくなってから3日以上経過しているなら、もう人に感染させる可能性も少ないが、自分の身を守るために、引き続きマスクは使用するように」と言われる。

最後に気になる質問をした。「新型コロナウイルスの抗体ができたのでしょうか」と聞くと、「たぶんね。でも誰にも確かなことはわからない」との返答。「仕事を再開してもいいですか」と尋ねると、「体調が良好だと感じるなら、仕事に戻っても大丈夫」と助言をしてくれた。
翌日は復帰のための準備にあて、18日目に自宅での仕事を再開した。

新型コロナウイルス感染疑い どうすれば?

感染を疑った時、私が一番不安だったことは、急に症状が悪化したり、呼吸困難になったりしたら、どうしたらいいかということ。病院に電話するにしても、救急車を呼ぶにしても、そもそも呼吸困難の状態で電話なんてかけられるだろうか……。

日本では症状が重い人でなければPCR検査が受けられないと聞きます。感染したらどうしたらいいのかと漠然とした不安を抱えている人も多いことでしょう。「感染したかも」と思っても検査を受けられないし、仕方がないから、「自宅で安静にして治るのを待とう」と考えるかもしれません。

でも、検査を待っている間に症状が悪化してしまっては回復が遅れるし、重篤な状態に移行してしまうかもしれません。重要なのは検査で感染したかどうかを確認することではなく、症状に応じてタイミングよく適切に対処することでしょう。もし、すぐに検査や治療が受けられないなら、自分で自分の身を守るしかありません。

厚生労働省のホームページには「新型コロナウイルスそのものに効く抗ウイルス薬はまだ確立していません」、治療に関しては、「ウイルスによる熱や咳などの症状の緩和を目指す治療(対症療法)です」と書かれています。

前述したように、私は検査を受けていません。主治医は症状からほぼ間違いなく新型コロナウイルスに感染したと判断し、対症療法を行ってくれました。

新型コロナウイルスの感染を防ぐ努力をし、感染したと思われる場合には冷静に判断して行動できるようにしておくことが大切です。そのために必要なのは、まず信頼できる情報を入手することです。感染したらどのような症状が出るのかを知り、自分の状態を客観的に判断できるようにしておきましょう。住んでいる地域によっても医療環境は異なるので、発症したらどのタイミングで誰に、あるいはどこの医療機関などに連絡するのがベストか、といったことを事前に調べて、どうするかを事前にシミュレーションしておけば、万一、感染したと思われる症状が現れても落ち着いて行動できると思います。

また、自分の症状から感染を疑ったら、周りの人に隠さず、協力を得てください。そうすることで、周りの人はあなたとの十分な社会的距離をとり、感染を防ぐことができます。そして、自宅待機しなければならないあなたに代わり、薬局に行ったり、スーパーに買い物に行ったりなどして協力してくれることでしょう。

自分の身を守ることと同じように、ほかの人に感染させないこともとても大事です。信頼できる情報を収集し、冷静に判断して行動してください。

ライター。東京での雑誌などの取材・インタビュー・原稿執筆などの仕事を経て、2000年に仕事と生活の場をニューヨークに移す。