「impossibleはI’m Possible。自分の可能性を他人の想像力で制限されないで」台湾出身起業家 サラ・リューさん

オーストラリアを拠点に女性リーダー育成のためのプログラムを世界各地で展開する「ザ・ドリーム・コレクティブ」の創設者、サラ・リューさん(34)。グローバルに活躍するサラさんですが、これまで「女性だから」「台湾人だから」といった理由で数々の批判的な声を受けてきたと言います。ネガティブな意見に流されないために、どんなスタンスを持ち続けてきたのでしょうか。女性の活躍について、サラさんの思いを聞きました。
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――サラさんが現在のお仕事を始めるまでの経緯を教えてください。

サラ・リューさん(以下、サラ):私は大学を卒業後、化粧品メーカーに就職してオーストラリアのマーケティング部門で働きました。

もともとキャリアアップへの志向が強くて、少しでも早く出世したかった。でもそれは難しいことだと周囲から言われました。なぜなら私は女性で、おまけにアジア人だったからです。

――アジア人女性が働きにくい職場だったということですか。

サラ:会社には数多くの女性社員がいて、もちろんアジア人だってたくさんいました。決して待遇の悪い職場だったわけではありません。ただそのほとんどは「エントリーレベル」や「ミッドレベル」と呼ばれる、初級から中級レベルのポジションの社員でした。

私はラッキーにも25歳になる前にエリアを統括するブランドマネージャーになりました。そんな時にふと周りを見ると、会社のマネージャー以上の役職は、ほぼ男性が占めていることに気がついたんです。いかに多くの女性たちが、志なかばでキャリアを諦めてきたかを思い知りました。

この現状を変えたいと思って、2012年、シドニーで働く女性のためのネットワーキンググループを作り、女性のリーダー像について話し合いました。その3年後
、自分の会社を立ち上げて本格的に活動を始めたのです。現在はこれを本職として、女性リーダー育成などの分野で企業や団体へのコンサルティングを行っています。

自分の可能性を決めるのは自分自身

――サラさん自身は、キャリアを積む上でどんな難しさを感じていましたか?

サラ:会社に勤めていた頃、私のキャリアアップに協力的な上司もいれば、そうでない人もいました。「あなたはリーダーになるには若すぎる」「アジア人女性に早い出世は難しい」――そんな風に言われたことも、数えきれないほどあります。

起業する時は、「あなたはビジネスの経験が浅くビジネスパートナーもいない」「成功するのは無理だろう」などと周囲から繰り返し言われました。

結果的に、そうしたネガティブな助言は私のキャリア形成にちっとも影響しませんでした。私はマネージャーになれたし、起業した会社は毎年成長を続けています。そこから学んだ最も大切なことは、「人の言葉を気にしても仕方ない」ということです。

「そんなことは無理だ」と私に言ってくる人は、その人の想像の範囲だけで話をしているに過ぎません。その人には無理だろうけど、私にはできるかもしれない。私自身の可能性を、他人の想像力によって制限する必要はありません。

「無意識のバイアス」が時にネガティブな発言を生む

――アジア人として働きにくさを感じたことはありますか。

サラ:ここ(オーストラリア)にはアジア人がたくさんいて、人々はすごくフレンドリーです。「差別」を感じたことがありませんが、「バイアス」は確かに存在します。

差別とバイアスはまったく別の問題です。たとえば「私がアジア人だから」という理由で、上司から他の人とは違う態度をとられたとします。でも大抵の場合、差別を意図したわけではなく、本人も気づいていない「アジア人はこういうもの」という思い込みによるものです。

女性の活躍に関しても同じです。会社のシステムの上では、男と女は同じ権利を持っていますが、実際には男女の間に見えない壁があります。「リーダーとなるのは男性」「サポート役は女性」といったバイアスのもと、ステップアップを望む女性に対して「女性のあなたには無理だね」という発言をしてしまうのです。

「無意識のバイアス」自体に悪意はありません。人間は毎日、膨大な量の選択をしながら生きています。目の前の物事に対して、過去の経験などから推測して瞬時に判断を下す。その判断の元になるのがバイアスです。世界中どこにでも、バイアスは存在します。

大切なのは、バイアスがそこにあることをまず認識すること。そこに気付けば、変えることができます。

女性活躍は「バランスを取り戻す」ためのアクション

――日本における男女平等の現状について、どう感じますか。

サラ:日本は大好きな国で、第2の故郷みたいに思っています。日本人のホスピタリティやテクノロジーは、世界のロールモデルになり得ます。その中で、ひとつだけ追いついていないのが「女性の活躍」です。

世界経済フォーラムが調査している「ジェンダー・ギャップ指数」(男女格差を表す指標)によると、2019年、日本は153カ国中「121位」。先進国7カ国で最下位でした。

しかし逆に言えば、この状況を「日本には大きなポテンシャルがある」ととらえることも可能です。男性優位の社会でこれだけ発展しているのだから、さらに女性が活躍するようになれば、もっともっと前進するはず。これまで私が知り合った日本人女性たちはアクティブで、活躍の場を求めていました。日本は今まさに、大きな変化が起きていると感じます。

――女性活躍の推進に対して、一部では反発の声も強くあります。これに対してはどうお考えですか。

サラ:2つの課題があると考えています。1つは女性自身の問題。せっかく昇進するチャンスがあっても、「私は管理職になんてなりたくない」と拒む女性もいます。その理由について話を聞いてみると、多くの人は「キャリアのために私生活を犠牲にするのが嫌だ」と考えているようでした。

彼女たちには、生き方の見本となる「ロールモデル」が必要です。身近に目標となる存在がいれば、安心感につながり、自分にとって最適なキャリアの道筋を思い描くことができます。

2つめは、会社の環境の問題です。管理職の女性社員がワークライフバランスを保てないとすれば、それは個人ではなく企業の責任です。働きやすい職場環境を整える必要があるでしょう。

また一方で、女性社員に対する積極的な改善措置に対して、「男性はどうなるのか」「逆差別だ」といった意見もあります。わかっていただきたいのは、こうしたアクションはすべて「バランス」をとろうとしているだけなんです。

私たちはとても長い、男性を中心とした社会の中にいました。これまでの固定概念を変えてバランスを取り戻すには、大きな決断と変化が不可欠です。

――日本の働く女性たちにどんな言葉をかけたいですか?

サラ:私のモットーは、「Nothing is impossible」(不可能なことはない)。オードリー・ヘプバーンの言葉です。Impossible(不可能)という単語のつづりは、I’m possible(私はできる)にもなります。他人に「そんなことは無理だ」言われても、夢を諦める必要はありません。

とはいっても、男性は決して「女の敵」ではないということも忘れないで。周りの男性があなたの人生のサポーターとなるよう、働きかけを続けてくださいね!

●サラ・リューさんプロフィール
台湾で生まれるものの、台湾の教育システムに馴染めず、10歳の頃にニュージーランドに移住。大学時代、交換留生として東京大学に1年間在学。卒業後はオーストラリアに住み、現在は世界5カ国に拠点を持つ「ザ・ドリーム・コレクティブ」の代表を務める。

ことりと暮らすフリーランスライター。米シアトルの新聞社を経て、現在は東京を拠点に活動中。お坊さんやお茶人をよく追いかけています。1984年生まれ、栃木出身
20~30代の女性の多様な生き方、価値観を伝え、これからの生き方をともに考えるメディアを目指しています。