髪は、あなたの、人生を変える。ヘアライターさとゆみが語る「自己肯定感を上げる髪の力」

自分の一部であり、ときに気分を高揚させ、ときに悩みのもとにもなる“髪”。4万人、200万カットのヘアスタイル撮影に立ち会い、全国の女性の髪の悩みに答えてきたヘアライターの佐藤友美(さとゆみ)さんが、髪と自己肯定感の深い関係について考察してくれました。

取材にきてくださった編集さんやライターさんに、ぽろぽろと泣かれた経験がある。この半年に5回もあった。
どれもこれも、『女は、髪と、生きていく』という本の取材を受けている最中のことだ。
この本の取材はこれまでに多分25回くらいしてもらっているから、なんと5回に1回は、インタビュアーを泣かせていることになる。もちろん、私が彼女たちをいじめて泣かせているわけじゃない。みんな、私に質問をしながら自分で泣いてしまうのだ。

私はヘアライターという肩書きで仕事をしている。
ファッション誌でヘアページ“だけ”を担当するヘア専門ライターになって、20年経つ。髪を変える企画で出会った女性は、これまでに約4万人。髪を変えることで人生が変わった女性たちを、この目でたくさん見てきた。

髪を変えて、恋人ができた
髪を変えて、出世した
髪を変えて、セックスレスが解消した
髪を変えて、メンタルが安定した
髪を変えて、痩せた……etc. etc.

たかが髪で、と言われるかもしれないけれど、服やバッグと違って「身体の一部」である髪を変えることは、自分自身を変えることでもある。

服やバッグを褒められることと、髪を褒められることは意味が違う。
髪が褒められるということは、自分自身を褒められるということだ

自分の髪を好きになれると、自分自身を肯定していけるようになる。
髪は、自己肯定感に直結する

そんなことを、私は『女は、髪と、生きていく』という本の中で書いた。

私の前で泣いてしまったインタビュアーさんたちは、みんなこの「髪と自己肯定感」の関係性について、質問してくれた人たちだった。

たとえばあるライターさんは、産後、自分に起こった“自己肯定感クライシス”について話してくれた。

産後脱毛でシャンプーをするたび髪が抜けていく。排水溝に溜まる毛を見る恐怖。ちゃんとケアをしないといけないとわかっているけれど、赤ちゃんをお風呂に入れていたら、自分の髪をドライヤーで乾かす暇なんてない。病院ならともかく、美容院に行きたいから子どもを預けたいなんて言えない。夫以外、誰とも会わない日々が続く。ふと鏡を見ると、ぼさぼさの髪の疲れ果てた女がいる。これが私? 仕事をしていたときの充実感や人から求められている感がまったく消えている。私、何のために存在しているんだっけ? 

彼女は私の本を読んで、思ったらしい。
あのとき、たったひと言。
「美容院に行ってきてもいいかな」
それが言えたら、きっと、あんなに辛い思いをしなくて良かった気がする。もっと早く、自分を取り戻せた気がする。
「髪って大事ですね」
そう言いながら、彼女は静かに涙をこぼした。

彼女の言う通りだ。産後、「個」としての自分を取り戻せない女性は多い。このライターさんのような不安な毎日を過ごした人もいただろう。

日本のメーカーさんたちは、「産後1カ月たったらママを美容院に連れて行こうキャンペーン」をしたらいいんじゃないかと思う。ママが自分の時間を持ち、自分を取り戻せることは、家族みんなを幸せにするばずだ。

もちろん、自己肯定感クライシスに陥っているのは、産後のママだけではない。
自分がどうなりたいか。どんな髪型でどんな自分を演出したいか。それをさぐるためのワークをしている最中に泣き出してしまう人もいる。

話を聞くと、「自分が綺麗になりたいと望むなんて、おこがましいと思っていた」という声をよく聞く。私の経験では、キャリアウーマンに多い気がする。

「これまで自分は、自分の希望をずっと押さえ、誰かの望む自分を演じてきたことがわかった」という人もいた。

自分の見た目について、若い頃にかけられた呪いの言葉は、年齢を重ねてもずっと傷になって残っていく。
母親にかけられた「あんた、なに色気づいてるの」という言葉。
友達に言われた「そういうの、似合わないよね」という言葉。
好きな人に言われた「俺はタイプじゃない」という言葉。
そんな言葉は、自分が自分らしくあろうとする羽をもぐ。だから、ワークショップで「綺麗になりたいって言ってもいいんですよ」と私が声をかけると、泣いてしまう女性が出てくるのだ。

こんな女性たちに、私は、髪の持つ力を届けたいと切に思っている。
自分の身体の一部であるのに、好きに切り刻めて、色まで変えられる髪。その髪を自分で選びとれるようになると、人は驚くほど変わっていく。

髪には上下関係もない。二重(ふたえ)のほうが可愛い、痩せている方が綺麗といった固定観念による比較がないからだ。ショートの方が素晴らしいわけでもロングが偉いわけでもない。あなたにとって一番いい髪型を手に入れればいい。

こんな時代、誰かと比べなくていいということは、心を救う

ヘアケアで髪が元気に綺麗になっていくことだって、心を豊かにしてくれる。ちょっとした髪の乾かし方や、スタイリング剤、ケア剤の選び方で、髪は生き生きとしていく。

あなたがあなた自身をもっと好きになるために。
そして自信を持って毎日を過ごしていくために。
髪を味方にし、髪を武器にしていってくれたら……。
その方法を知ってもらえたら……。
きっとあなたも、あなたの周りの人も、ハッピーになれるだろうなと思っています。

髪は、あなたの、人生を変えます。

                         (ヘアライター 佐藤友美)

ライター・コラムニストとして活動。ファッション、ビューティからビジネスまで幅広いジャンルを担当する。自著に『女の運命は髪で変わる』『髪のこと、これで、ぜんぶ。』『書く仕事がしたい』など。