ニセ科学ビジネスに注意!「好転反応」と見たら“インチキ”を疑え

治療の過程で起こる反応とされている「好転反応」。一時的に悪化してもよくなるためには必要な反応……とガマンしている人も多いのでは?化粧品の開発で、それまで縁のなかった「女性の美」について考えるようになった、工学博士であり生粋の理系男子である“尾池博士”が好転反応のからくりについて考察しました。

「好転反応」という言葉を見たら、気をつけて欲しいと思っています。

ちょっと物騒なたとえ話で恐縮ですが、75年前、太平洋戦争末期に「転進」という言葉がありました。
実際は負けそうで「撤退」なのに、「いや、まだ負けてないから、進む方向を180度変えるだけだから」と使い始めたのが「転進」です。この誰にでも分かりそうなごまかしで国民は戦況を正確に知ることができなくなり、最後は国が崩壊しました。

「好転反応」はこれにとてもよく似た言葉だと思います。

体調に異変を感じれば、そのサプリか施術は絶対にすぐやめなければなりません。
絶対にです。パッケージの隅の方にも一応そのように書いています。

にもかかわらず、「好転反応」という甘い言葉で体調の異変を「一時的なもの」のようにごまかし、使い続けるように説得される。

75年前の前例があるのでこの際はっきり書きますが、最悪の場合、死にます。

靴下が破れる「冷え取り」、発疹が出るサプリ

たとえば冷え性の原因を取り除くとされる「冷え取り」では、「倦怠感」「眠気」「肩こり」「耳鳴り」「鼻水」「くしゃみ」「生理不順」(つまりいろいろ全部)を「好転反応です。いまちょうど毒が出ているので、きっと靴下のどこかが毒で破れます。それまでぜひ続けてください。」とそそのかされます。

靴下とは「冷え取りビジネス」で数千円で売買されている「特に毒が出る」とされる絹の靴下のことですが、絹は綿にくらべて破れやすいので、たしかにどこかが破れるでしょう。物理的に。
頭寒足熱は数百円の靴下で続けるとしても、その体調異常は「毒」とは関係ありません。

サプリの場合はより深刻です。
服用後に湿疹が出た場合にもまったく同じように「好転反応」とそそのかされることがありますが、それはもちろん「アレルギー反応」です。アレルギー反応の怖さはご存知かと思いますが、ごく微量でもアナフィラキシーショックなど重篤な症状につながります。

そのため厚生労働省は「好転反応」という言葉を実質的に禁止しています。

医療行為以外で治療効果を謳うことは違法であり、信頼できる商品やサービスならば好転反応という言葉を目にすることはまずありません。もし「好転反応」という言葉を見かけたら、その商品に根拠はないと全力で思ってください。

新しい技法は「副作用」が予測できない

「好転反応」とはもともと東洋医学で古くから知られている副作用(瞑眩)で、実際は長年の経験に即したものです。たとえばカンゾウ(甘草)は「血圧上昇」「低カリウム血症」といった「副作用」が知られているため処方量は厳密に定められています。
漢方に限らず、西洋医薬でも一時的な体調変化の後、快方に向かうことはあり、副作用として明記されます。

しかしこれまでに経験のない新しい成分や施術の場合、どのような作用が生じるか専門家でも予測がつきません。

どれくらい予測がつかないかと言えば、誰もが知る勃起不全薬のバイアグラは、男性機能に悩んでいた研究者が狙って作ったものではありません。初めは狭心症の治療薬として開発が進められていたものです。だれも勃起不全が改善するような「副作用」があるなんて思いもしませんでした。
例が適切かどうか分かりませんが、それくらい人体は複雑で、新しい薬や施術の作用は予測がつかないのです。

違和感を抱くなら、誰より自分の細胞を信じるべき

人間の体がどれくらい複雑かと言うと、人体は60兆個の細胞でできています。この60兆個の細胞が何をしているかといえば、たんぱく質の合成ですが、作っているたんぱく質は10万種類。膨大な種類のたんぱく質を手分けして製造して、納期通りに適所に分配して、1年で体の90%以上の細胞を入れ替える超高速精密ジェンガ。それが人体です。

超精密ジェンガを崩さずに超高速で入れ替えるため、細胞は1秒間に数千個という猛スピードでたんぱく質を合成しています。全然実感はありませんが、あまりにも速いためにだいたい4分の1くらいは合成に失敗していて、忙しさが伝わってきます。そんな不眠不休の活動のおかげで1個の細胞の中には常に80億個のたんぱく質を蓄えることができ、その結果私たちはかろうじて生かされています。

そんな複雑で精密な活動ですから、副作用をしっかり把握するのはとても難しいことです。一時的に悪くなってから回復しても、また何か良くないことが起こるかもしれない。だから漢方薬の導入がずいぶんと進んでいる医学会でも、好転反応という表現を意図的に避けているのです。

漢方などの民間医療も本来はサイエンスです。2018年、WHOは体全体を診る「全人的療法」を伝統医療から取り入れるため、発足後初めてICD(疾病及び関連保健問題の国際統計分類)の第26章に「伝統医学の病態」を加えました。これまで好転反応とされてきた全身的な副作用の解明が進みそうです。

そうした地道な努力をすっとばして、新しい成分や施術を安易に信頼するべきではないし、ごまかしや甘い言葉はとても危険です。

特に新型コロナウイルスのような被害の後には、不安をあおるニセ科学ビジネスが登場しがちです。
試しに使ってみて、気持ちがよければ特に問題はないと思いますが、違和感を抱くようであれば、誰よりも自分の細胞を信じるべきです。細胞もきっとそう思っているはずです。

工学博士/1972年生まれ。九州工業大学卒。FILTOM研究所長。FLOWRATE代表。2007年、ものづくり日本大賞内閣総理大臣賞受賞。2009年、PD膜分離技術開発に参画。2014年、北九州学術研究都市にてFILTOM設立。2018年、常温常圧海水淡水化技術開発のためFLOWRATE.org設立。
イラストレーター・エディター。新潟県生まれ。緩いイラストと「プロの初心者」をモットーに記事を書くライターも。情緒的でありつつ詳細な旅ブログが口コミで広がり、カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務める。神社検定3級、日本酒ナビゲーター、日本旅のペンクラブ会員。

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