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「共感」が苦手なパートナーと周囲の無理解。「カサンドラ症候群」の二重苦とは

パートナーや家族と、上手くコミュニケーションがとれない。相手の “空気の読めなさ” や“気がつかえない” ところに「自分が相手に求めすぎているのだろうか?」とひとりで悩んで、ついには心身に不調が……。それ、もしかしたら、パートナーがアスペルガー症候群であるために引き起こされる「カサンドラ症候群」かもしれません。 精神科医・木村好珠先生に「カサンドラ症候群」の症状や、対処法を教えていただきました。

「カサンドラ症候群」ってどういうもの?

「カサンドラ症候群」とは、家族やパートナーが発達障害の一つであるアスペルガー症候群(※)の特性を持つためにコミュニケーション不全を起こしてしまい、自身が精神的に追い込まれていってしまう状態のことを言います。

※現在では、自閉症やアスペルガー症候群などを含む「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名に統合されている。

ギリシャ神話に登場する「予知能力を持ちながらも、自分の言葉を周囲の誰からも信じてもらえない」という呪いをかけられた悲劇の王女の名前からつけられました。

具体的な例としては、たとえば自分の体調が悪くなってしまったときに、パートナーにヘルプサインとして「体調が悪い」と伝えたとしますよね。しかし相手はとくに心配する素ぶりもなく平然と自分の趣味を続けたりしていて、アフターケアも一切ない。

そのようなことが重なっていくうちに、「自分が相手に求めすぎなのでは?」「自分がコミュニケーションの取り方を間違えているのでは?」と自責の念にかられていき、気づけば心身を消耗して、片頭痛に見舞われたり、場合によってはうつ病やパニック障害などを発症してしまう、というものです。

この場合、単純に相手が気遣いのできない人という可能性もありますが、もしかしたら、「相手の気持ちを想像するのが苦手」という特性をもつアスペルガー症候群であることが原因かもしれないのです。

アスペルガー症候群の人は、“空気を読む” のが苦手

アスペルガー症候群の人の特徴として挙げられるのが、共感性が欠如していて、コミュニケーション能力などに偏りがあるということ。また、「空気を読む」ことが苦手で、相手の意図していること、つまり行間を読めずに、言われた言葉をありのまま受け入れてしまう傾向があります。

たとえば、「お腹が痛い」と言われたら、大半の人がまず「大丈夫?」と返しますよね。すぐに何かできることを探す人もいると思います。ですが、発達障害の人の場合は「お腹が痛い」という事実を受けとめる “だけ” で終わってしまいます。

したがって、パートナーからしたら「どうして助けてくれないの?」と思うような状況が生まれてしまうわけです。もし助けてほしいのであれば、「お腹が痛いから、苦しい、助けてほしい」というところまで伝える必要があるんですよ。

「調子がよくない……」その原因は、パートナー側にあるかも

「カサンドラ症候群」にかかってしまう人に多いのが、「責任感が強い人」や「真面目な人」。私がこの人のことをわかってあげられていないからダメなんだ、とひたすら自分を責めてしまうんですね。なのでまずは、相手がアスペルガー症候群であることを知っておくことが大切です。

ただ、そうした認識を持つのは簡単なことではありません。私の経験からも、心身の不調を訴えて診察にいらっしゃるのはあくまでも苦しんでいるご本人だけで、パートナーが原因であると最初から認識できている患者さんはほとんどいらっしゃいません。

たとえば、抑うつ状態にある人にお薬を処方して、ある程度改善はするもののいまいち治りづらいというケース。どうしてだろう? とじっくり話していくうちに、じつはパートナーのほうに原因があった、と発覚することがあります。抑うつなどの症状は、やはり何よりも環境要因と直結しているので、家庭にその原因があると、いくらお薬を処方しても治りづらいんですね。

心身に不調が出たときには、日頃のパートナーとのやりとりの中で不自由を感じていること、困っていることはないか、一度思い返してみてください。

必要なのは、相手を “受け流す” 力

自分が「カサンドラ症候群」と呼べる状況に陥っているあることがわかったら、とにかく相手にたいして「割り切る」ということが大きな対処法になります。診察に来てくださった人たちにも、相手の行動や発言に対して困惑することがあっても「ま、いっか」と思うようにしてください、と言っています。「受け流し力」が大事になってきます。

一方で、発達障害であるパートナーの人もある程度のカウンセリングを受けるのが大事かなと思います。

アスペルガー症候群のような発達障害は病気なのかというと、一概にそうとも言えません。たとえばアスペルガー的な特質を持つ人はものすごい集中力を持っていたり、記憶力に優れている、理論的に考えられるといった特徴があるので、仕事で大成功している人もたくさんいます。それはポジティブなことなので、無理に治療をする必要もないですよね。

治療をするべきかどうか判断する基準は「本人やまわりの人が困っているかどうか」になります。もし、パートナーとの関係でカサンドラ症候群になってしまっているなら、本人とともにパートナーにも病院を受診させ、専門家によるカウンセリングを受てもらうことをおすすめします。

症状を完璧になくすことは難しいですが、カウンセリングで緩和させることは可能です。「相手がこう言っていたら、こういうことを思っている」などと、ひとつずつケーススタディを繰り返していくと、ある程度のパターンが自分の中に記憶されていくので、ある程度の改善を期待することができます。

「周囲に理解されない」ことが、さらに当事者を苦しめる

「カサンドラ症候群」に陥っている方の共通の悩みとして、「周囲に自分の苦悩を相談しても、理解されづらい」というものがあります。

無自覚なまま「カサンドラ症候群」になっている人が、たとえば身近な友人などに「パートナーと上手くコミュニケーションがとれていない」と相談しますよね。このとき、「あなたがもっとこうしたほうがいいんじゃないの?」と本人に非があるようなことを言われてしまったりすると、パートナーもわかってくれない、周りもわかってくれない、と二重の苦痛を味わうことになってしまいます。

すると、自分でどんどん抱え込んで症状はますます深刻に……。「カサンドラ症候群」の由来となった、自分の言葉を信じてもらえないギリシャ神話の悲劇の王女のような苦境に陥ってしまうのです。

こうしたケースを減らしていくためには、まず「カサンドラ症候群」の知識が社会に正しく広まっていくことが大切になります。少しでも知っていれば、悩んでいる人に「あなたのパートナーは、もしかしたらアスペルガー症候群なのでは?」などと問うことができますよね。自分を責めてしまう、という状況からその人を守ることができるかもしれません。

アスペルガー症候群を含む発達障害については、最近、社会全体の認知度も高まってきて、以前より「カサンドラ症候群」に陥った人の苦しみが理解されやすくなってきたと思います。さらにもう一歩進んで、大切な人との最適なコミュニケーションのかたちを見つけやすい世の中になっていくといいですね。

●木村好珠(きむら・このみ)さんのプロフィール
精神科医、タレント。1990年生まれ。2009年、準ミス日本に選出される。芸能事務所に所属しながら2014年には医師国家試験に合格。現在は東北地方の病院に勤務するかたわら、タレントとしても活動。2019年からブラインドサッカー日本代表のメンタルアドバイザーも務める。twitterアカウントは@konomikimura

編集者・ライター。東京生まれ、魚座、花と川が好き。思春期がまだ終わっていません。

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