それってほんとに愛情表現? いき過ぎた束縛、もしかしたら「オセロ症候群」かも

恋愛関係にあるパートナーに対して、誰よりも自分を大切にしてほしい、他の異性とあまり親しくしないでほしい、と思うのはとても自然なこと。しかし、その思いが相手への “過剰な束縛” に繋がってしまうのなら話はまた別。それ、もしかしたら「オセロ症候群」の症状かもしれませんよ。 精神科医・木村好珠先生に、「オセロ症候群」の症状や兆候の見分け方、そして対処法までじっくり教えていただきました。

最大の特徴は「理不尽な束縛」

「オセロ症候群」は、シェイクスピアの四大悲劇の一つ「オセロー」で、妻に激しい嫉妬の念を抱く主人公の名前から命名されました。一般的な症状としては、お付き合いしているパートナーや結婚相手に対して、たとえば「勝手にスマホを覗く」「メールを見る」など、過度な束縛行為をしてしまうことが挙げられます。

大きな特徴としては、「相手が浮気を疑われるような怪しい行動をとっていなくてもやってしまう」ということ。たとえば束縛行為の対象が男性なら、彼の職場の同じ部署に女性がいるだけで文句を言ったり、「会社の飲み会に行かないで」などと言うことで相手の行動を制限したりします。仕事上での付き合いまで制限してしまうと、もちろんパートナーの生活にも大なり小なり支障がでますよね。

ただの嫉妬深い人と何が違うのかというと、「理不尽な束縛で相手を困らせている」というのがオセロ症候群の最大の特徴なんです。

精神科医の木村好珠先生

この行動に心あたりがあるなら、あなたも「オセロ症候群」かも

「オセロ症候群」の可能性が疑われる行動としては、このような例があります。

・スマホを勝手に覗く
・相手のSNSを執拗にチェックする
・1日に何回も電話をかける
・1日に何十回もメールを送る
・すぐに電話の折り返しやメールの返信がこないと不安になって相手にあたる
・「仕事に行ってほしくない」など、日常の行動まで制限する言動
・スマホにGPSをつける

あくまで代表的な例ですが、心当たりのある人はすこし注意が必要かもしれません。

また、こうした束縛をしても、決して安心感を得られないというのも特徴です。たとえば「スマホにGPSをつける」という行為。相手の行動を明確に監視できるから、最初は安心します。でもそれを短いスパンで逐一チェックしていると、たとえば相手が圏外の場所に入ってしまったりして探知できなくなった瞬間にパニックになってしまうんですよ。つかの間だけ安心できても、次から次へとどんどん不安が募るようになってしまいます。

冒頭で、「相手が怪しい行動をとっていなくても疑ってしまう」と説明しましたが、「オセロ症候群」の人にとっては、パートナーの会社の同僚に異性がいる、というだけでも十分「スマホを勝手に覗く」という行為を始めるきっかけになります。発端はどこにでもあって、むしろ自ら無意識にその種を探してしまっているんですね。

患者には「自己肯定感が低い」人が多い

オセロ症候群の原因としては、もちろん全員がそうとはいえませんが、その人が育った家庭環境が大きく関係していることが多いです。たとえば、 男女関係の問題を原因とする両親の離婚などです。過去に経験してきたことは人それぞれですが、オセロ症候群にかかってしまう人たちに共通していると言えるのは「自己肯定感が低い」ということ。誰かに見捨てられてしまうという不安が、相手を束縛するという行為に繋がってしまうんです。

ただ、本人の中では束縛していることをあまりマイナスにとらえておらず、自覚症状がない場合が多いのが実情。あくまでも、相手に対する愛情表現だと思っているんです。だからこそ理解が得られないと「なんでわかってくれないの?」「不安にさせているのはあなたでしょ?」と、あくまでも被害者側の意識になってしまう。これが、「オセロ症候群」への対処を難しくしているところです。

克服を阻む「自覚症状」の壁

オセロ症候群を克服するためには、まずは本人が「愛情表現の方法を間違えていると自覚する」ことが、一番ハードルが高く、一番大切なこと。自分が気が付かない限り、周りの人がどれだけ言ってもわからないものです。まずは自分の行動が異常だと気がつくことが克服への大きな第一歩であると言えます。

しかし、自分自身で「私、オセロ症候群っぽいんです」と精神科を受診する人はなかなかいません。繰り返しになりますが、周りの人に指摘されるようなことがない限り自分では気付けないものなんです。

たとえば双極性障害(躁うつ病)など、根底にほかの障害を抱えている人であれば、そこに対するお薬での治療が可能になってくる場合もあります。ですが、幼い頃から抱えてきた愛着障害などが原因となっている場合、お薬だけで解決することはなかなか難しい。やはりカウンセラーさんとのやり取りを通じて根本的な考え方を変え、先ほどキーワードとして挙げた「自己肯定感の低さ」の改善をしていくことが重要になってきます。

ここで注意したいのが、話をするのはパートナーでも友人でもなく、あくまでも精神科医やカウンセラーのように「専門性が高い人」が望ましいということ。本人はすでに「自分のやり方が正しい」という考えを強く持っているケースが多く、そこに一般の人が介入していくことはかなり難易度の高いことなんです。

「この人、オセロ症候群かも…」と思ったら、どうすればいい?

もし、あなたの友人が嫉妬深く、「オセロ症候群」が疑われるほどだったら、まず「一度、パートナーにあなたのやり方をどう感じているか聞いてみては?」と、提案してみてください。本人はもしかしたら「愛情表現だからパートナーはつらいと思っていないはずだ」と言うかもしれません。それでも、聞いてみるように伝えてください。

結果としてパートナーから「つらいと感じている」と言われても、それで自分の行動のおかしさに気づくことができたら第一歩ですよね。そこで引き返せる人もたくさんいます。ただ、本人が聞く前にパートナーが先立って「つらいです」と言ってしまうと、なんでよ!となってしまう。だからやはり、第三者が早めに声をかけて、当人がおかしさに気づけるような状況をつくることが望ましいと思います。

まずは「オセロ症候群」の知識が正しく広まっていくことが大切

自分が「オセロ症候群」なのかどうか判断するとき、基準になるのは「周りの人が困っているかどうか」。たとえば極端な話、スマホにGPSを入れてもパートナーがまったく気にしていないのなら問題にならないわけです。これを読みながら、もし「自分もちょっと当てはまるかも」と思う人がいたら、一度パートナーに「確認してみる」ということをしてほしいなと思います。

また、周りにそう思われる人がいたときに「この症状、あなたに当てはまらない?」と声をかけてあげられるように、オセロ症候群の知識が正しく広まっていくことが望ましいと思います。パートナーの声に耳をかたむけて、段階を踏んですこしずつ自覚していきながら、少しでも多くの人が克服していけるような環境をつくっていけたらいいですよね。

●木村好珠(きむら・このみ)さんプロフィール
精神科医、タレント。1990年生まれ。2009年、準ミス日本に選出される。芸能事務所に所属しながら2014年には医師国家試験に合格。現在は東北地方の病院に勤務するかたわら、タレントとしても活動。2019年からブラインドサッカー日本代表のメンタルアドバイザーも務める。twitterアカウントは@konomikimura

編集者・ライター。東京生まれ、魚座、花と川が好き。思春期がまだ終わっていません。