介護の未来を担うミレニアル世代の本音を語る座談会! 介護職を通して見えた、目指したい生き方と働き方、そして日本の姿
【参加者】
●ファシリテーター
高瀬比左子さん…介護業界を元気にしたい、イメージを変えたいという思いのもと、「未来をつくるkaigoカフェ」を立ち上げる。http://www.kaigocafe.com/
●参加者
三島栞さん…新宿生まれ新宿育ち。介護スタッフとして働いたのち、現在は生活コーディネーターとしてフロント業務を担当している。
佐々木有貴子さん…和歌山県出身。介護スタッフとして働くかたわら、介護×美容の「チームW」を結成し、シニアが主役のファッションショーなどの活動をしている。
渡部真由さん…介護スタッフとして働く新入社員。大学ではコミュニティデザインを学び、「福祉と地域」に関心を持った。
大塚沙歩さん…広告会社で採用や求人広告の提案営業を経験後、デイサービスを運営する会社に転職。自社で人事や広報を担当している。
◆新卒で介護業界に入るために、家族の反対を乗り切った⁉
高瀬:みなさんが介護業界で働こうと思ったきっかけは?
渡部:私は大学で地域づくりや地域活性の勉強をしていましたが、その時に地域と福祉で何かできないかなと思ったのが、介護業界で働くきっかけでした。もともと、友達から相談されることが多いので、人に関わる仕事にも興味がありました。
高瀬:大学での学びは、その後の仕事でどんなふうに役立ちました?
渡部:大学では、人との関わりや関係性の作り方を大きく学びました。それが今、介護で携わるお年寄りとの関係性を築くのに役に立っています。
高瀬:人と人とが関わるという意味で、福祉もコミュニティデザインも一致しているということですね。三島さんは?
三島:私は大学のころに趣味で棚田めぐりをしていたのですが、中山間地域には高齢者が多くて、介護に興味を持ちました。でも家族に反対されるかもしれないので、内緒で老人ホームに就職しました。
一同:家族に内緒で⁉(笑)
三島:はい、事後報告でした(笑)。介護は一般的には、大変な仕事にも関わらず待遇もあまりよくないというイメージがありますよね。両親には「そこまで介護に関わる必要あるの?」と言われましたが、次第に「やりたいならいいんじゃない?」と言ってくれるようにもなりました。
渡部:私も家族に介護業界で働くことを反対されましたが、介護の仕事について知ってもらうために、インターンのたびに話したり、大学で行われた講演会に誘ったりして、説得しました。
◆転職やパラレルワークで進んだ介護業界、そのきっかけは?
高瀬:大塚さんは転職組ですよね。転職前は、何をされていたのですか?
大塚:私は大学生のときに「よさこい」の社会人チームに入ったのがきっかけで、モノづくりに携わりたいと思い、新卒では広告会社に入社しました。求人広告の営業として約2年間働いているなかで、人と直接関わることが楽しいと感じていました。
高瀬:それがなぜ介護業界に転職したの?
大塚:前職のクライアントのなかに今の会社があったんです。営業担当として採用のお手伝いをさせていただいているとき、お誘いを受けて入社しました。「介護だから」というよりも、この会社だったらいい経験が積めるかなと思って。
高瀬:介護にこだわってはいなかったのですね!
大塚:そうですね。転職してからは人事や広報を担当するようになって、最初はその仕事が利用者の方やスタッフのためになれているのかと悩んだ時期もあります。でも次第に、間接的ではあっても、自分の仕事が現場の環境づくりに貢献できていると感じられるようになりました。
高瀬:佐々木さんは介護スタッフとして働きながら、介護とメイクを掛け合わせる取り組みもしているそうですね。
佐々木:美容と介護のコラボレーションとして、チームWという活動をしています。リハビリ病院やデイサービスでイベントを行ったり、お年寄りをモデルにしたファッションショーを開いたりしています。若い人たちに「こんなにカッコいい介護の仕事もあるんだよ!」と伝えることで、介護職に入るきっかけが作れたら…。あとはいずれ、おばあちゃんたちにとって「一年に一回、あのランウェイを歩きたい」という目標になれたら、歩く練習を頑張れる方も増えるかなと。
高瀬:ファッションショーに対して、リアクションはありましたか?
佐々木:マニキュアを初めて塗ったというおばあちゃんがいて、喜んでもらえました。帰りの車で「興奮して眠れない!」と言ってくれた方もいたみたいです。「思い出に残った」と言ってもらえると嬉(うれ)しいですね。
◆マイナスのイメージがプラスに変わった理由とは…
高瀬:介護業界に入る前はどんなイメージがありましたか?
大塚:私は高校まではずっと獣医師になりたかったので、医療関係に興味がありました。それもあって、もともと介護に対してネガティブな先入観はなく、私の中ではずっと「介護=医療」というイメージがあります。
高瀬:業界に入ってから、その印象は変わりましたか?
大塚:「暮らし」「生活」という存在になり、よりプラスなイメージに変わりました。「医療」は治すことを目指しますが、例えば認知症は必ずしも治さなきゃいけないものではなく、要介護でもその人がありのままの自分で幸せに生活していけることが、介護の目指すところなんだなと感じたからです。
渡部:以前は正直、未知の世界で触れちゃいけないものだと思っていました。でも、インターンを経験する機会があって、そのとき介護も結局は人と人との関わりだということに気づいて以来、マイナスのイメージはすっかりなくなりました。
◆祖父の入院で感じた「こんなことをされたら嫌だ」という思いが今も支えに
高瀬:介護の仕事が好きだと実感したターニングポイントはありますか?
三島:「看取り」を経験したことが大きかったです。人を最期まで見届けられる仕事は改めてすごいと思いました。初めて経験した時は親戚も看取ったことがなかったので泣いてばかりで、なかなか立ち直れませんでしたが…。
高瀬:それでも辞めようとかは思わなかったのですね。
三島:何回か経験するうちに、その人が最後に幸せな人生だったと思えるように、私たちがサポートしているのだから、悲しむ必要はないと思うようになりました。
高瀬:その経験は、三島さんの人生にも影響を与えましたか?
三島:はい。一日一日を大切に楽しもうと思えるようになりましたね。それと、私も自分の将来、たとえば結婚や出産について悩む日も多いのですが、人生の大先輩である利用者の方々との対話を通して学ぶことはとても多いです。
渡部:私は大学に入学したことですね。コミュニティデザイン学科に進学してよかったのは、ほかのデザイン分野よりも誰に向けて何を設計すればいいかが、よりはっきりしていたことです。例えば、高齢者の孤独死が多いという課題があって、そこを解決したいとしたら、地域のおじいちゃんおばあちゃんと他の住民がつながれる仕組みを作るとか。そういう具体的なモノづくりや仕組みづくりといった、「デザイン」を必要としている人の顔が見えやすいことが自分には合っていました。あとは、祖父が亡くなったのも大きな転機になっています。
高瀬:おじいさんはどんな存在だったのですか?
渡部:大好きな存在でした。元気だったのに、入院してから姿が変わっていくのを見て、ショックでした。そのとき、お世話をしてくださるお医者さんや看護師さんに「私の好きなおじいちゃんのことをもっと知ってほしい」と思った経験が、今の仕事のスタンスにつながっています。「あの時、おじいちゃんはこんなことをされて嫌そうだったな」と思うことはしない、と決めて仕事をしています。
◆利用者が最後を過ごす場所を快適に整えてあげたいという想い
大塚:私は、自分の仕事内容(人事・広報)が利用者の方のためになっているのかがわからなくて、すごく悩んだ時期があって…。ある時、半身にまひのある利用者の女性のお手洗いの介助をさせていただいたのですが、その方が「自分で自分のこともできないなんて、私はゴミみたいね」とおっしゃったんです。でも数日後、その方から亡くなった大好きなご主人の思い出を聞いたとき、「ゴミみたい」と言ったときとはまったく違う、幸せそうな顔をされていて、最後に「思い出さえあれば幸せに終われる」とおっしゃったのが印象的でした。その時に私は、この方たちが最後に過ごす場所が快適であるように、よいスタッフを採用して整えてあげたい、と思いました。これが大きな転機になりましたね。
高瀬:佐々木さんは2人のお子さんを育てながら仕事をされているんですよね? 育児経験が仕事に役立っている部分はありますか?
佐々木:介護をするときに「この方は何を思って、こういうことを言ったのかな?」など、深く掘り下げるようになりました。美容面から相手をじっくり観察することで、皮膚の状態やトラブルにも気づきやすくなって、気づいたことを看護師さんに伝えることもあります。忙しい毎日なので、子どもたちに申し訳ないと思うことも…いずれは美容のレクリエーションなどでデイサービスに入って、1日に2~3時間くらいの勤務で働けたらいいなと思っています。
高瀬:介護職は多様な働き方があるのも魅力ですよね。
◆多様な働き方がある介護職だからこそ、目指したい女性像がある
高瀬:皆さんがこのまま働き続けるとすると、まだあと30年以上あります。どんな女性として人生を過ごしていきたいですか?
大塚:母が憧れの女性です。専業主婦なので、学校生活で悩んでいた時は家に帰ってきたら必ず話を聞いてくれたり、「お帰り」と言ってくれたりすることが、私にとってはすごく大きかったんですね。
高瀬:子どもができても仕事は続けたい?
大塚:はい。家でも仕事ができたり、時短で働いたり、今はいろいろな働き方があると思うので。でも環境を求めるからには、それなりにスキルを上げたり、必要とされるようなものを見つけたりしないと。やりたいことを言っているだけの人ではなくて、ちゃんと努力している人はすごいと思うし、私もそうなりたいです。
渡部:私は、芯はあるけどしなやかな人、柔らかい人になりたいと思っています。自分の中にひとつ、これだけは貫きたいっていう芯を持ちながらも、それを押し通すのではなく「こういうやり方もあるよね」としなやかに生きている人になりたいです。
三島:私も芯がある女性は素敵だなと思う。ケアの仕事は正解がない分、現場だとほかの人に意見を合わせて同調しやすいんですが、同調してばかりいると誤った方向にいってしまいがち。私はそれが苦手なので、芯を持っていたいと思っています。
◆「歳をとるのがすごく楽しい」と思える国にするために、介護の現場から変えていきたい
高瀬:最後に、これからの夢や目標を教えてください。
大塚:介護業界について、正しい情報を発信できるようになりたいです。介護業界の魅力に気づいていない人の中にも、介護業界が合っていて、楽しく活躍できる人は絶対にいるので、うまくマッチングしたらお互いにとって幸せな結果につながるのに、間違った情報やイメージばかりが伝わってしまうのはもったいないことですよね。
渡部:私は、人生の閉じ方や自分の老い方をフラットに考えられるようになりたいです。できれば、ほかの分野にいる人と一緒にそれを考えていけるといいですね。「人生会議」や「終活」のようなキーワードは世の中に広まっていますが、今は関心のある層にしか届いていないと思うんです。
高瀬:実現に向けて、具体的なイメージはありますか?
渡部:カルチャーと福祉や看取りを組み合わせられれば、若いうちから人生の閉じ方や老い方について、楽しく考えられるんじゃないかと思います。そういう提案を仕事にできたら、最高です。
佐々木:確かに、歳をとるということに対してマイナスなイメージが多いですよね。私は美容の力で「この国は歳をとるのがすごく楽しいな」と思える国に変えていきたいです。
高瀬:ファッションショーは続けていきたい?
佐々木:はい。ファッションショーをやったのは、人生を諦めているお年寄りの方たちの中に眠る、楽しさや喜びを呼び起こしたい気持ちからでした。いずれは各地で呼んでいただいて、地域の活性化ができるといいですね。さびれた商店街の洋服屋さんに衣装提供してもらって、お孫さんとおばあちゃんが一緒に歩いたりして。
三島:私の今の目標は、社会福祉士の資格を取ることです。介護をするには高齢者のことだけではなく、障がい者などについても知らないといけないと感じています。
高瀬:将来的な目標はありますか?
三島:資格を取って会社でも学ぶことがひと通り終わったら、おしゃれな古民家で福祉カフェをやりたいです。中山間地域で多世代の交流ができればいいですね。福祉用具や福祉のパンフレットを置くのはもちろん、介護保険の申請方法をサポートできるような空間も作りたいです。
高瀬:場所の力は大きいとカフェを開催していて私も感じます。おしゃれでリラックスできる場所だとまた行きたいと思えるし、介護に直接関係していない人も来やすい場になるのではないかと思います。多世代交流ができるような場で介護を身近に感じてもらう機会が増えていけば、だんだんとイメージも変わっていきますね。超高齢社会の中心を担っていく介護の仕事の奥の深さややりがいは、今日の対話の中で再発見できたこともありますし、発信できることはまだまだありそうです。今日はありがとうございました。
<プロフィル>
高瀬比左子さん
※「NPO法人 未来をつくるkaigoカフェ」代表。介護福祉士・社会福祉士・介護専門員。ケアマネジャーとして働きながら「未来をつくるKaigoカフェ」を主宰。介護業界でケアマネジャーとカフェのパラレルキャリアを実践しながら、介護の未来や専門性、新しい働き方を発信している。http://www.kaigocafe.com/
本プロジェクトは介護のしごと魅力発信等事業(福祉・介護に対する世代横断的理解促進事業)として実施しています。(実施主体:朝日新聞社・厚生労働省補助事業)
- 介護のしごとの魅力を多面的に知る!朝日新聞のKAI-Go!プロジェクト
- 理学療法士の知見からパラアスリートを支える道(まるごと大学スポーツメディア「4years.」)
- 50歳で介護業界に転身 プロが語る「介護の魅力」とは(50代以上のアクティブ世代のみなさんを応援するwebメディア「Reライフ.net」)
- 閉ざされがちな介護業界を変えていく、注目の働き方「パラレルキャリア」とは?(認知症当事者とともにつくるwebメディア「なかまぁる」)
- 子どもと一緒に働く!介護業界で注目される、新しい働き方(「働く」と「子育て」のこれからを考えるプロジェクト「WORKO!」)
- 福祉への恩返し 障害者支援施設の若きヒーロー(30~40代の知的好奇心旺盛な男性に届けるwebマガジン「&М」)
- 「福祉・介護のしごと」魅力発信サイト「KAI-Go!」。朝日新聞が運営する世代別Webメディアの介護に関する記事を集約。日本で起きている福祉・介護の課題に、型にはまることなくアイデアあふれる取り組みを始めている人や、いきいきと働く現場の声を紹介します。
- 日本全国の福祉・介護に関する情報が集まる福祉・介護情報プラットフォーム「ふくしかいご.jp」はこちら。