カイロプラクター(37歳)

父の死、病、離婚……。つらい経験もいつか自分の強みになる

カイロプラクター(37歳) 初対面では笑顔が印象的でした。「もう一度、お目にかかれますか?」と、お願いすると快諾。彼女は金沢生まれ、金沢育ちなので、情緒あふれる「にし茶屋街」にあるカフェで待ち合わせました。「いろんなことがありました」とのこと。ストレートな語り口に引き込まれます。話題が豊富で、時間はあっという間に過ぎてしまいました。

人って誰かに受け入れてもらえる時間がないとダメなのかも

「つらい経験」って、努力してもできないじゃないですか。それが、いつか自分の強みになると思うんです。

石川県内の4年制大学を卒業した後、介護福祉士になりました。介護職に就いて最初の夜勤の時、認知症の方から丸めた便を「どうぞ」って手渡されたんです。汚い話ですよね。ごめんなさい。ホントに、ごめんなさい。でも、聞いてください。私、びっくりしたけれど、受け取ったら、泣いて喜んでくれました。人って誰かに受け入れてもらえる実感がないと、ダメなのかもしれません。

13年間、介護の現場にいて一昨年、辞めて起業しました。カイロプラクティックや、バランスボールを使った運動の指導をしています。仕事の内容は「介護予防」です。といっても、介護の現場から完全に離れたわけではなく、週に3回、3時間ずつ高齢者をお風呂に入れるお世話もしています。ご高齢の方の話を聞くの、好きですから。

運動をしたら、寝たきり予防になるって思いますよね。でも、その運動ができない人がいるんです。腰痛などがあったり、筋力が落ちてしまっていたりすると、難しくなってくる。高齢者ばかりではありません。産後の女性は若くても動けなくなることがあります。

つわりが大変。でも「子どもは、もういい」とは思わなかった

私もそうでした。25歳で結婚し、26歳で長女、32歳で次女、35歳で長男を出産しました。妊娠のたび、つわりで約10キロ体重が減って入院し、その後20キロぐらい増えてしまいます。この繰り返しで、筋力がぐんと落ち、脂肪がついてしまいました。

つわりになると、まったく起き上がれないんです。水を飲むのもつらくって……。体力が落ちるから、1週間に1度シャワーを浴びることさえしんどかった。白い点滴って、したことあります? 普通は透明ですよね。でもたくさん栄養を体に入れなくてはいけないから、白いんです。大変でしたが、「子どもは、もういい」とは思わなかったなあ。今も育児を負担だとは感じないですね。

長女はもう11歳。「娘の方がしっかりしているなあ」と思うことがあります。例えば、「いじめはいけない」とか「差別はだめ」なんていう本を読んだら、自分の考えを話してくれる。私も学ぶことができます。毎晩、長女と1日の「反省会」をするんですけれど、「私がお母さんならこうするな」なんて言われています。

21歳の時に父が自死し、当時大学3年生だった私はアルバイトで学費を稼ぐことに。24歳の時には、子宮頸がんの前段階である子宮頸部異形成が見つかりました。幸い、治療しないでも消えましたが、「結婚して早く子どもを産んでおきたい」って思ったのです。

夫は友人の紹介で出会い、1年間付き合って25歳で結婚。10年後に離婚しました。つらいときは「もう少し待ってみよう」と思います。時間が経てば、辛いと思っていた経験もありがたいと思えるようになり、自然と次の道も見つかったんです。

関わってくれる人が多いことで「生きることに意味がある」

つらい時、必ず誰かが周りにいて、相談に乗ってくれたんです。年上の女性の友達が多かったですね。自分に関わってくれる人が多いことで、「生きることに意味がある」と思えたような気がします。「関わり」って大事です。

介護職に携わったことで、それを知ることができたかも。社会的地位の高い方でも、身体が動かなくなったり、認知症になったりすると、スーッと人が離れていくのを見ました。そういう高齢者の話は「しっかり耳を傾けよう」と思って接します。

20代の女の子から相談を受けたりすると、「それも、いいんじゃない」と、まず受け入れるようにしています。それから自分の20代のころの体験を伝える。女性って、スタイルとかファッションとか生き方とか、「みんなと同じにしなくちゃ」「ちゃんとしなくっちゃ」って思っちゃうんですよね。私もそうだったから。「他人軸」で生きて、「優等生でいなくちゃ」って。今は「自分の心の声を大事にした方がいい」って思います。

生まれてからずっと金沢に住んでいます。金沢が好きです。今、高齢の方がたくさんいる地域に住んでいます。だから介護予防、ちょっと頑張ってみようと思っているんです。

石川県金沢市の「にし茶屋街」にて

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。