【祝・壇密さんご結婚】愛されるのではなく、愛させる。「主語が自分」の女性は美しくエロく蜜の味
●本という贅沢60『エロスのお作法』(壇蜜/だいわ文庫)
引き続き、今月の読書テーマは「大人の女」です。
「大人の女」という言葉から連想するのは、しなやかな柳。吹く風にゆらり大きく揺れるけれど、決して折れたりしない。
あるいは、夜空の月。太陽によって照らされる位置が変わり、見せる姿カタチは変わるけれど自身は丸いまま。
つまり、一見、相手に身を委ねているように見えるけれども、自分自身は明け渡さない。
誰かのことを心地よくしながらも、人生の舵を自分で切っている女性。
それが、私が思う、「大人の女」のイメージ。
おぎゃあと生まれてきた時、赤ちゃんには自分の欲求しかなくて、自分が心地よくなるために笑ったり泣いたりして、自分の意志を伝える。
だんだん大きくなるにつれ、集団行動なんか学んじゃったりすると、自分の意志ばかりを主張するのはむしろ自分に不利益だと気づき、人は人の声に耳を傾けることを知る。
もう少し人との関わりが密になってくると、好かれたい想いや愛されたい気持ちで、人は自分を殺して相手を優先する。
恋愛が絡むととくに、尽くすことと媚びることの境界線が曖昧になり、この気持ちが愛なのか自己犠牲による陶酔なのかもわからなくなる。
彼のためを思ってとった行動なのか、彼を好きな自分を思いやってとった行動なのか、だんだんわからなくなっていく。
あるいは、その「誰かのために生きた自分」の反動で、自分をガッチリ守ろうとする時期もあるかもしれない。自分らしさにこだわり、それを揺らがせるものから、自分をかたくガードする。
そんなアレコレを経て、余計なこだわりを削いで、不要な贅肉を落とし、かたさもとれてしなやかに、すくっと立ったときが、「大人の女」の仲間入りではないかと思うわけです。
そして、壇蜜さんは、そんな「大人の女」そのものだと感じたのが、この一冊。
壇蜜さんがなぜ、殿方に愛されるのか。
ご本人曰く、「独りよがりな意見書」として上梓したのが、この本だと、な。
殿方に愛される秘訣が、ドキっとする言葉とともに、これでもかと並んで、女としてノックアウト感半端ないのですが。
なにに一番心をうたれるかというと、
壇蜜さんは
愛されるのではなく、愛させる。
選ばれるのではなく、自分を選ばせる。
自分の身体でさえも、見られるのではなく、見せる場所を選んで、見せる。
尽くして尽くして、可愛がられて愛でられるのだけれど、どの瞬間も、主語を決して、自分から相手に渡さない。
柳のように、月のように、相手に好きにさせながら、自分の存在は侵食させない。
それは、「はじめに」に書かれたこんな一文からもわかる。
殿方は、とってもかわいくて愛すべき生き物。頼るべきものであり、愛でてお願いをきいてもらうものです。
そんな殿方に褒められたり優しくされたりすると、女性はますます美しく艶やかになれます。
あー、こんなふうでありたい。
こんなふうに自由にしなやかに生きていきたいなあ。
誰かに憧れる感情を、久しぶりに抱いた、いとも素敵な本でした。
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文庫本におさめられている、壇蜜さん直筆の編集さんへのお手紙が素敵です。文庫本で読む良さって、こういうところ。
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(この記事は、2019年7月10日にリリースされたコラムの再録です)
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
●『三体』(劉 慈欣/早川書房)/半径5メートル以内で一喜一憂している人生にカンフル!
●『読みたいことを、書けばいい。』(田中泰延/ダイヤモンド社)/なぜ私はこの本が嫌いなのか。嫌いだと思い込んだのか。
●『夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘』(中川淳一郎/星海社新書)/やればできる子なんですと言い続けて、はや何歳になられましたか