好きを仕事にしなくても、仕事を好きになる技術さえあればいい
●本という贅沢77『楽しくなければ仕事じゃない』(干場弓子/東洋経済新報社)
炎上したくないからおそるおそる書くんだけど、私は、女性は綺麗な人が好きだ。いつも綺麗な人のところにくんくん寄っていく。友人はもれなく綺麗な人ばかりだと思う。
この場合の「綺麗」は、生まれつきの顔の造作を示しているだけではなく、「生き生きとしている人」「エネルギー値の高い人」という言葉がしっくりくるかもしれない。
女も30を過ぎると、生まれ持った顔立ちの美しさを、エネルギー保持量が凌駕していく。同窓会にいくと、容赦ない下克上を目の当たりにする。幸せそうな人、人生楽しんでそうな人から、もれなく綺麗だ。
一方、私の周りには、仕事が嫌いな人がいない。仕事が好きすぎていろいろ崩壊しかけている人はいるけれど、仕事が嫌で嫌でできればやめたいという人の話を、とんと聞いたことがない。取材でそういう人の話を聞くことはあるけれど、友人にはいない。今現在仕事をしていない人の場合は、人生が好きそうだ。人生が嫌で嫌でできれば人間やめたいという人も、友人には思い当たらない。
最近、この事象A(=周りの人がみんな綺麗)と事象B(=周りの人がみんな仕事が好き)は、相関関係があるのではないかという気がしてきた。
綺麗な人は仕事(人生)が好き。もしくは、仕事(人生)が好きな人は綺麗。
きっと、綺麗でいる技術と、仕事を好きになる技術は、似たところに本質があるんじゃないか……。そんな仮説を持ってきた。
ところで出版業界に、とても綺麗な女性社長がいらっしゃる。
ご存知ないと思いますが、出版業界は、編集長くらいまではかろうじて女性がいるけれど、社長ともなると、すみずみまでおじさんだらけです。
ときどき「出版業界がタッグを組んでAmazonに申し入れ」みたいな会合があって、全員の集合写真が掲載されると、首相官邸の赤階段で撮影される閣僚組閣の写真なみに、男だらけ、黒ずくめ。
そんな中、いつも紅一点、美しくすっと立ってらっしゃる女性がいらした。それが、本書の著者である、干場さんだ。黒ずくめの集団の中で、そのオーラは格別だった。ディスカヴァー・トゥエンティワンという出版社を率いてらっしゃる。
30代も半ばになるころ、自分が生涯出版業界で生きていくのかなと思った時、まだ会ったこともない干場さんの存在は、遠いところで心の支えだった気がする。あんな綺麗な人が、おじさんたちの中で、画期的な販路を作り画期的な商品を作って生きているのか。きっと強い人なんだろうな。いじめられたりしないんだろうか。いや、逆にモテモテだったりするのかな。しかしすごいな、このオーラというか、迫力。どんな人生を送ってらっしゃったんだろう。
って、思っていた私。ならびに、出版に関わる数多くの干場さんファンが、一瞬でとびついた書籍がこちらになります。『楽しくなければ仕事じゃない』。
いやー、よかった!気持ちよかった!
この本は、若い世代がとりつかれている呪いの言葉、それは例えば
「好きを仕事にする」だったり
「ライフワークバランス」だったり
「キャリアプラン」だったりを
ばっさばっさ、切れ味のいい刀で斬ってくれるんですよ、これが。「はじめに」から「おわりに」まで、ずっとずっと気持ちいい(そして途中一箇所泣く)。
たとえば、こんな感じ。
だいたいが、「自分が生まれてきた理由を考える」なんて、なんかすごい巨大なエゴを感じる。そんなたいそうなもんか、おまえ! とつい突っ込みたくなる。
そんなの偶然に決まっているじゃないか。
イモムシとか野良猫とどこが違うのか?
図々しいにもほどがある。自意識過剰なのにもほどがある。
あなたが生まれてきたことに理由はない。悪いけど。
でも、あなたが今日も生きていることには、理由がある。
それは、あなたが生きていることで、救われている人、将来、救われるかもしれない人がいるからだ。
愛情たっぷり、ちょっぴり自虐、ノリツッコミありの、ほんのり色気。
気持ちいい。あまりに気持ちいいので、出版記念イベントまで行ってお話を聞いてきた。干場さんて、すごくハスキーなのね。声が色っぽい。だから、この本を読む人は、ぜひ秋吉久美子さんが仕事モードになったときのような声をイメージして読んでほしい。
そして最初の命題に戻るのだけれど、やはり、
①仕事を好きになったり楽しくしたりすることと
②それができる人が綺麗で輝いていること
の本質は同じなのだろうな、と思った。
この本を読むと、好きも楽しいも綺麗も、ただそこにあるものではないことがわかる。干場さんは、「好きになる力」を取り戻す練習をすれば、今ある仕事を(人生を、自分を)好きになることができるという。
これって、救いが半端ないよね。
「好きを仕事にしろ」と言われたら、天啓を受けていない自分には無理だと苦しくなっちゃうけれども
「好きは練習次第だから、どうせなら好きになれば?」と言われたらめっぽう救われる。
そして、仕事で身につけた「好きになる力」は、きっとあらゆる方向に波及していくのだろう。
どうせだったら好きなほうがいいし、楽しいほうがいいし、綺麗なほうがいい。干場さんみたいに。
この本の英語タイトルが、No Fun, No Workではなく、No Work, No Funである意味が、あとからじわじわくる。
名言金言てんこ盛り。私のbest干場さん語録は、メモに書いたから、ビビッときたら、ぜひ本で読んでみてね。装丁とレイアウトが素敵だから、この本は紙で買うのがおすすめです。干場さんのライダースが、これまた、かっこいいんだ!
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干場さんが代表をされているディスカヴァー・トゥエンティワン社では、いろんな編集者さんとお仕事をご一緒させていただきました。どの方も、楽しそうに仕事をされている方ばかりです。社長がどんなにいいことを言ってらしても、社員が不平不満だらけの会社って残念な気持ちになるけれど、こちらの会社は、気持ちのいい人ばかりで、気持ちのいい本がたくさん出ているんです。
telling,の皆さんにおすすめなのは、シリコンバレー在住の同世代の著者さんが書かれた『いまこそ知りたいAIビジネス』(石角友愛さん)。私が昨年、もっとも刺激を受けた著者さんです。とくに「おわりに」が大好き。三日月マーク、ぜひチェックしてみてください。
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それではまた来週水曜日に。
佐藤友美さんのコラム「本という贅沢」のバックナンバーはこちらです。
●『三体』(劉 慈欣/早川書房)/半径5メートル以内で一喜一憂している人生にカンフル!
●『読みたいことを、書けばいい。』(田中泰延/ダイヤモンド社)/なぜ私はこの本が嫌いなのか。嫌いだと思い込んだのか。
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