「恋人だから仕方ない」は危険信号。自覚症状のない「デートDV」被害に要注意

性暴力というと、見ず知らずの他人に突然、危害を加えられることを想像するかもしれません。しかし、実は女性の5人に1人の女性が恋人間の暴力、いわゆる「デートDV」を経験しているという調査結果もあります。デートDVの特徴や対策について、ウィメンズセンター大阪(大阪市阿倍野区)の代表を務める原田薫さんに話を聞きました。

デートDVって何?

――DVというと、パートナーから身体的暴力を振るわれることのように思うのですが、デートDVとはどんなケースを指すのでしょうか?

原田薫さん(以下、原田): DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、配偶者や事実婚のパートナーなど親密な関係にある者の間で起こる暴力のことです。殴る、蹴る、つねる、つばを吐きかけるなどの身体的暴力も含みますが、心理的暴力や性的暴力であることも多いのです。

DVの防止や被害者の保護のための規定を定めたDV防止法では、もともと恋人間の暴力である「デートDV」は対象になっていませんでした。2013年に法改正で、配偶者や元配偶者、内縁関係にある者からのDVに加え、同居中や同居していた交際相手からのDVも対象に加えられました。

――具体的にはどんなかたちで被害に遭う人が多いのでしょうか。

原田: デートDVは、気づかない間にスモールステップでやってくることが多いです。加害者の男性は特に普段から変わった人とは限らず、一見魅力的な男性であることもしばしばあります。

スモールステップというのは、たとえば、付き合い始めた頃に「毎日メールしてね」とか「いつでもそばにいるからね」ということを言われたとします。それは、友人から見たら「いいな、愛されている証拠だよ」と思えるかもしれません。

しかし、他の用事で会えない時などに、「自分を最優先にしない」と言ってふてくされたり、怒ったりするところから次第に行動がエスカレートしていき、しょっちゅう携帯に電話してきて、あなたが今どこで何をしているのかチェックする、怒った時に物にあたる、「汚い」「バカ」など、人を貶めるような言い方で呼ぶといった「デートDV的な態度」に変わっていくことがあるのです。

「デートDV的な態度」は、「優しさ」とセットになっていることが多いのも特徴のひとつです。加害者は攻撃的な態度や行動を起こした後、謝ってくることも多いのです。意地悪で嫌な態度の時もあれば、すごく優しい時もある。一応、反省しているかのように振舞うので、被害者は恐怖と安堵を繰り返すことになります。やがて被害者は、加害者の舌打ちや視線の動きひとつで「ビクッ」とするようになってしまいます。

愛していたらセックスしないといけないの?

――真綿で首を絞められるように加害者にコントロールされていくのですね。性的な暴力にはどう結びつくのでしょうか。

原田: 大好きだから抱きしめたい、キスしたいというところから、「セックスしよう、付き合っているんだからいいよね」と、微妙に強引なやり方にシフトチェンジしていきます。男性側がきちんと避妊をしてくれないケースも多いです。

その時に2人で話し合って互いに相手のことを理解し、避妊ができるのなら問題ないでしょう。しかし、「好きだから我慢してセックスする」「赤ちゃんができたらこわい、でも嫌われたくない、付き合っているし……」といって不本意ながら従わされてしまっている場合、それはデートDVだと思っていいでしょう。

不本意なセックスをした結果、私たちの所に相談に来る半数以上の人が妊娠しています。周囲の人に相談しても、「付き合っていたら当たり前だよ、みんなセックスしているよ」と言われてしまう2次被害もあります。

――「恋人だから多少の無理は仕方ない」、とあきらめてしまう女性も多そうですね。

原田: 恋愛関係=束縛という思い込みがあるのも事実で、「ちょっと強引な性行為もOKかな」と思う女性もいます。しかし、愛しているから何をしてもいいというものではありません。

どんなに親しい人でも、自分がセックスしたくないのであれば、毅然と振舞う必要があるでしょう。ただ、それが知らず知らずのうちに、じんわりできなくなっていくのがデートDVです。本人たちが、デートDVだと気づかないこともあります。

「自己責任」という神話が生む2次被害

――なぜ被害者は逃げられないのでしょうか。

原田: 逃げようと思えば逃げられるのに逃げない、結局のところ自己責任なのでは、という周囲の間違った思い込みや偏見が神話のように根強く信じられていますが、2次被害につながります。こうした神話は、暴力を振るう側にとって好都合なんです。

被害者は「自分が悪かったんだ」という罪悪感と「自分のせいだ」という自責感にさいなまれます。このような状況が続くと、逃げようとする自発的な行動すら起こらなくなるという学習性無力感に陥り、これが被害者をさらに孤立させるのです。自分だけで抱え込まず、早めに周囲の知人や、支援団体の窓口などに相談するようにしてください。

――デートDVに陥らないために、どのようなパートナーシップを結べばいいのでしょうか。

原田: お互いを大事にするために、互いに相手の意見や気持ちを尊重し、したくないことは「したくない」とはっきり言えるような信頼関係意を築くこと。自分も相手も大事にする関係性を築くことが大事です。

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●「第3回 ガールズフェスティバル」
2019年10月5日(土) 13:00~16:30
大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター)1階 パフォーマンススペース
毎年10月「国際ガールズデー」にちなんで開催。世界にたったひとりしかいない大切なあなた自身。女性の心やからだ、そしてセクシャリティについて知り、感じ、守り、表現できるためのヒントをお届けするイベントです。
お問い合わせ:ウィメンズセンター大阪事務局 06-6632-7011

「難しいことを分かりやすく」伝えるをモットーに医療から気軽に行けるグルメ、美容、ライフスタイルまで幅広く執筆。医学ジャーナリスト協会会員