パワハラはなぜ起きる?パワハラしやすい人・されやすい人【パワハラ02】
人生の先が見えてしまう不安、嫉妬や自己肯定感の低さがパワハラに
――行為者(加害者)や被害者になりやすい人のタイプや環境はありますか?
大野萌子さん(以下、大野): 行為者(加害者)に多いのは年齢層でいうと50歳前後のバブル世代の方か、40歳前後の方が多いですね。バブル世代は今まで順当にやってきたけれど先が見えてしまったり、行き場が無くなってしまっている方が多いんですよ。40歳前後の方も自分の意図する道にいけなかった方、会社を辞めたくても転職先がなく、このまま居続けるけれど不満がある人も多いですね。40代は人生の午後と言われるように、自分のこれからの生き方を一回振り返るような年齢なんです。不倫や離婚も多い世代。このまま人生が終わってしまうのかなって。
――取材では、女性上司によるパワハラの事例もありました。
大野: 30代は女性同士のハラスメントが多いですね。生き方が多様化した分、独身、既婚、子どもを持つ人も産まない人も。女性って一括りにできなくて様々な考え方や働き方が増え、価値観も多様化しています。お互いを認め合えればよいのですが、なかなか難しく、自分と価値観が合わない人に対してものすごく抵抗感を覚える傾向があるんです。マタニティハラスメントも含まれますが、子持ちの女性に「私はそれくらいで休まなかった」とか「時短をとっているような人に仕事を任せられない」というのは子育て経験のある女性です。
また、子持ちの人からすると、子どもがいない人は時間や精神的に余裕があると認識され、「子どもがいないのになんでやってくれないの?」と怒りを覚えたり、反対に子どもがいない方は仕事に重きをおいている方が多いので、「こんな無責任な仕事でいいの?」と腹立しくなってしまう人もいます。
――では、被害者になる人はどんな人が多いですか。
大野: 穏やか、従順、素直な人、自分さえ我慢すればと思ってしまう人。あとは両極端ですが、仕事ができない人か優秀な人もターゲットになりやすいです。優秀な人に対しては、行為者(加害者)が自分の存在を脅かすような脅威を感じるんですよ。自分より上手いプレゼンをした、資料を作っていたと、自己肯定感の低さから嫉妬することもあります。また、ちょっとした認識の違いが、不信感を生むことがあります。
例えば、上司が「後で、この資料作っておいてね」と30分後くらいのつもりで指示したが、部下は今週中で良いと思ってしまい、なかなか提出せずにトラブルになるようなケースです。
具体的なやり取りをしない典型例ではありますが、そんな一つひとつのコミュニケーション不足からフラストレーションがたまり、徐々にパワハラに繋がっていくことが非常に多くみられます。
それ、パワハラですか?指導ですか?
――最近はどのようなパワハラが多いですか?
大野: 精神的暴力や人間関係の切り離しが多いですね。たとえば、上司が作為的に書類のハンコを押してくれず、自分に負荷をかけてくる。社内の昇格試験の日にわざと出張を入れて昇格試験を受けさせないようにする。または理由も分からず書類の書き直しを何度も命じ、理由を聞いても自分で考えろと教えてくれない。さらに2重ハラスメントのケースも増えています。過剰なクレームをつけてくるお客さん、いわゆるモンスターカスタマーから理不尽なことを言われたとする。お客さんが100%正しいとは限らないのに、企業側でフォローする体制が全然できておらず、全部責任を押し付けてくるケースです。
――中にはパワハラと指導との境がわかりにくいこともあります。
大野: 行動を怒るのではなく、人格否定が入るとパワハラになります。「ウソをつかないで」というのは事実に対して言っていますが、「ウソつき」と言ったら人格否定なんですよ。事柄に対して注意喚起しているのか、人物を否定しているのかで違ってきますね。
――みんなの前で叱責するのはパワハラになりますか?
大野: 叱責の内容によります。みんなが守らないといけないルールや決まり事、共通で認識している事柄ならみんなの前で言っても基本パワハラにはなりません。ただ響き渡るような声で叱責されるとパワハラの要件となる「精神的暴力」に値する場合もあります。または、明らかに理不尽だなというような内容や、事前アナウンスや共通認識がない状態で強くいうこともダメですね。
一方、パワハラにあたらないケースも多く、中間管理職の人にはもっとはっきり言っていいとお伝えすることもありますし、下の人たちに対しては、これはパワハラではないと伝えることもあります。指導とハラスメントを明確に分けていく必要がありますね。
パワハラにどう対応する?
――パワハラを受けにくいタイプというのはありますか?
大野: 人にサポートを求められる人はターゲットになりにくいですね。こんなこと言われちゃったよって周りに相談できたり、周りを味方につける能力がある人です。行為者(加害者)側も、周りが「え?」という態度をとるとやりにくいというか。人に話すことによって「それはパワハラじゃないか?」と周りが気づいてくれたり、ここに相談したらいいよと情報をくれたりする。そういった意味での社交性、コミュニケーション能力がある人は、問題が大きくなる前に鎮火させられるんです。仕事ができる人は自分で何とかしようとしたり、こんなことで相談してどうする?って思ってしまう人が多いです。
また、自分のことを理解できる人って人のことも理解できるんですよ。そういう意味では自己理解も大切だと思います。
――パワハラ被害に遭ってしまったらどうすればいいでしょうか?
大野: パワハラはどんどんエスカレートすることが多いです。被害者が動揺している姿を見て行為者(加害者)は優越感を覚える傾向にありますから。場合によっては相手からの攻撃を無視してもいいと思うし、理不尽なことをされたらはっきりと違和感を伝えてもいいでしょう。ただ、そこには感情を持ち込まないことがポイント。事実だけを述べた方がいいですね。
また、無理に関係修復を望む必要もないです。一度関係性が悪くなると、そこからもとに戻すのはすごく難しい。逆に離れた方がいいです。関係修復にエネルギーを使うより、どれだけその人と接点をなくせるか考えてみる。場合によっては部署異動や席替えをしてもらう。それができない場合は、間に人を挟んでみたり、なるべく直接関わらないようにする。
ゼロから関係を作るより、ダメなものをゼロにするのはすごく大変なんです。真面目な人ほど抱え込んでしまいますが、1人で何とかしようと思わずに、まずは人に話をしてみることが大切です。
(次回に続く)次回は弁護士の立場から見たパワハラについてお送りします。
●大野萌子(おおの・もえこ)さん
法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャー(R)資格認定機関)代表理事。産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとして経験を生かし、コミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を担当。現在は内閣府、防衛省など官公庁をはじめ、大手企業、大学等で年間150件以上の講演・研修を行っている。
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