パワハラに遭ったらどう動く?弁護士に聞く、具体的方法【パワハラ03】
●パワハラ110番 03
パワハラの基本6つの型を知っておく
――パワハラが発生する会社では、パワハラ被害者が休職や退職をしても、また次のターゲットに移るだけと聞いたことがあります。
笹山尚人さん(以下、笹山): そうですね。被害者Aさんが退職したら次はBさん、そして新しく入ってきたCさんと続くことが多いです。その職場がストレスフルな状況なので、人の弱点をあげつらわないと自分たちの平衡感覚を保てない。その職場で力の保有者から見て、自分なりのモラルなのか、職場のゾレン(あるべき姿)なのか、こうあるべきだといったものから外れる人を、はじいてしまうのでしょうね。でも、人間は枠にとらわれることはできない。必ず気にくわない人が出てしまうんです。
――パワハラ被害に遭ってしまったらどうすればいいですか?
笹山: まず予備知識としてパワハラ6類型は覚えておいた方がいいでしょう。
笹山: パワハラ6つの類型とは、以下のとおりです。
- 身体的な攻撃・・・暴行・傷害
- 精神的な攻撃・・・脅迫・名誉棄損・屈辱・ひどい暴言
- 人間関係からの切り離し・・・隔離・仲間外し・無視
- 過大な要求・・・業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
- 過小な要求・・・業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
- 個の侵害・・・私的なことに過度に立ち入ること
笹山: これらをまとめて、2019年5月に新たに成立したハラスメント防止法*1ではパワーハラスメントについて、「優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、就業環境を害するもの」といった考え方を整理しました。
*1「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が可決したことによって成立した、改正労働施策総合推進法など(施行は2020年以降の予定)。
笹山: これらを知った上で、自分に起きたことがパワハラに当たるのではないかと考えてみましょう。必ずしも確信が持てなくとも、疑問を覚えたら、その疑問に感じた今起きている事実を書き出してまとめることを始めてください。医師も弁護士も、何が起こっているか現場で見ているわけではありません。話を進める上で、複雑な人間関係を全部ひもとかないとハラスメントの判定はできないため、第三者がビジュアル的に想像できるような詳しい情報が必要です。
2つ目に相談です。会社内の窓口や、第三者窓口(弁護士、各都道府県にある労働局など)に通報し、パワハラに相当する可能性をある程度ジャッジしてもらいます。
弁護士に依頼した場合、まずは加害者や会社の顧問弁護士と交渉を始めます。ここで解決しない場合は、労働審判や裁判に進み裁判官が対応。労働審判ではある程度紛争性が高くなりますね。
社内の相談窓口は、うまく機能しているところは多くないように思います。窓口の人はたいていその会社の部課長級の人や経営者、つまり上の人と繋がっていることが多いんです。通報しても事実が確認できないとかそれはハラスメントではないとか言われてしまい、加害者に正当化の口実を与えてしまうことも。結果的に第三者機関に頼らざるを得ないケースもありますね。
ただ、今回パワハラ防止法が成立したことで、全国の労働局が窓口になるでしょう。現状は労働局が話を聞いても積極的に動くことはほぼないです。しかし、今回の法律改正で労働局長に斡旋権限がついたため、会社に対して一歩踏み込んだ提案ができるようになります。
弁護士費用や期間ってどれくらいかかるの?
――弁護士の先生にパワハラ相談をした場合、一般的にどれくらい金額が掛かりますか?
笹山: 私のケースで言うと、40、50万円くらいだと思います。弁護士費用としてトータルで考えると決して安くはないですね。
――裁判に勝っても黒字になるとは限らないのでしょうか。
笹山: 何をもって勝ちと言えるかにもよりますが、職場の改善をしたい、ハラスメントがない環境にしたいと考えた場合、金銭的には赤字になると考えた方がいいです。会社からハラスメントの慰謝料が支払われる場合、まず100万円は超えないでしょう。超えるとしたら、相当悪質なハラスメントのケースです。
一方、退職が絡むと少し変わってきます。再就職支援のような要素がプラスされて黒字にはなるかもしれない。退職と引き換えにはなりますが、自分の気持ちを納得させるために弁護士は十分な選択肢としてあると思います。
――期間はどれくらいかかりますか?
笹山: これも選ぶ手段によりますが、交渉や労働審判だと数カ月~半年くらいのイメージです。本裁判になると1年は確保した方がいいですね。私のところに相談に来て裁判まで進むのは、7割くらい。交渉か労働審判か裁判か、何かしらの形で進むことが多いです。中にはセカンドオピニオン的にいらっしゃる方もいますが……。
* * *
(次回に続く)
費用面と時間的な負担。弁護士に相談するより“泣き寝入り”をせざるを得ないケースも多いのでは…。後編ではそのあたりの実態と、この5月に新たにパワハラ防止法が通ったことによる今後への期待、さらに、パワハラに遭ってしまった方に伝えたいことをお聞きしています。
●笹山尚人(ささやま・なおと)さん
1970年北海道生まれ。第二東京弁護士会所属。青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働運動を中心に扱い、活動を行っている。著書に『人が壊れてゆく職場』(光文社新書)『労働法はぼくらの味方!』(岩波ジュニア新書)、共著に『仕事の悩み解決しよう!』(新日本出版社)『フリーターの法律相談室』(平凡社新書)などがある。
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第5回吉本騒動でも話題、なぜパワハラに遭ってしまうのか?【パワハラ01】
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