コスパのいい刺激で感情を発散できる。怒りは貧しい人のエンターテイメント
●怒れる女 19
権利侵害を勘違いしている人が多い
――前回は、自分にとって大切なことをクリアにすると、怒る回数が減るというお話でしたが、正直生きてると怒ることって多いと思います。特に女性は、セクハラ・パワハラで不当な扱いを受けたり、痴漢や暴力の対象になったり、社会的に不遇な思いをすることが多いのではと感じていますが。
安藤: 僕にだって理不尽だなと感じることはたくさんありますよ。その中で、怒るべきもの、スルーするものを判断しているんです。
もちろん、自分にとって大切だと思ったことに対しては怒っていくべきだと思います。例えば、ハヤカワ五味さんはフェミニズムの問題について、なにか事件や問題が発生して怒る必要があると、怒りを表明していますよね。ハヤカワさんは自分が大切にしているものが侵害されていることに対して怒っているわけです。だから支持者が多いんですよね。
一方で、本当に自分にとって重要かどうかわからないところに「自ら当たりに行っている」という人はとても多いです。
――具体的にはどういう人のことですか?
安藤: 例えば芸能人の不倫報道について怒る人っていますよね。
――でも、不倫のニュース見て「自分の夫も不倫に走ったらどうしよう……」と不安になる気持ちはわかります。
安藤: それは、事実と思い込みを切り分けて考えることができていませんね。
不倫のニュースとその方の夫が不倫することは、全然関係ない話。あなたの何かが何ら侵害されているわけではありません。アンガーマネジメントでは「事実と思い込みを切り分ける」ことも大事だと考えています。思い込みに引きづられると余計な怒りを生んでしまいます。
「実際に起こったこと(芸能人が不倫したこと)」と「思い込みの部分(夫が不倫する可能性が高まること)」を切り分けることで冷静になれれば、無駄な怒りで疲れることはなくなるはずです。もちろん、不倫された事実があるなら怒っていいんですが、それは現時点では事実ではないわけですから。
無関係な相手への怒りはコスパがいい
――確かに冷静にそう言われると事実と思い込みを混同してしまっていることが元凶だと納得できます。でも瞬間でカッとなっちゃうんですよね……。
安藤: 怒りは湧き起こるのも簡単だし、刺激も強い。芸能ニュースに怒る人たちは、そういうコスパのいい刺激で感情を発散しているんですよ。「怒りは貧しい人のエンターテイメント」なんです。
今は情報がたくさんあるので、怒りの対象の情報が気軽に手に入る。芸能ニュースやネット炎上など、毎日数えだしたらきりがありません。
一方で、普段溜め込んだ自分の身近な出来事に対する怒りを、直接発散すると自分にとばっちりが来ます。例えば夫に不満があって、夫に怒りをぶつけたら、自分が気まずい思いをする。でも芸能人や炎上している人、また店員やマナー違反をする他人など、自分と無関係な人に怒りをぶつけるのって、自分は安全なところにいるまま感情を発散できるんですよね。
――そう言われると、怒っている時って正義感を振りかざして気分が高揚している感覚があるかもしれません……。
安藤: それでいいという人は、そのままでいいと思います。でも、怒るのって疲れるし、自分の人生と関係のない部分にそんな時間を使うのってもったいないと思いませんか?そういう考え方に共感してくれる人は、ぜひアンガーマネジメントを取り入れていただきたいです。
現代人は関心事が多すぎる
――それにしても「怒らなきゃいけない!」「黙っていたらナメられる!」と思うシーンは結構あるなぁと感じているのですが。
安藤: それらがすべて自分の人生にとって大事だと判断するなら、怒っていいと思います。ただ、僕は現代人は関心事が多すぎると思います。そんなにいくつも自分の人生に大事なものって取り入れていけるでしょうか。
僕自身がアンガーマネジメントを実践して感じるのは「怒るべき対象をすくう網の目が大きくなった」ということです。
普段の生活で出会う出来事のうち、自分にとって小さなことは、網の目を通り抜けていきます。自分の人生に関係のないことはスルーできるようになる。本当に怒るべき、自分にとっての重要事項だけが網目にひっかかるようになるんです。
そうすると貴重な時間を、本当に自分にとって大切なことにだけに割くことができるようになるんです。結果、アンガーマネジメントに取り組んだ人は、重要事項にだけフォーカスできるようになり、人生がうまくいくようになっているケースが多いです。
もちろん、これは1つの考え方で、自分の労力を使っていろんなことに対して怒りをぶつけていきたいという考え方も否定しません。ただ、そういうのは疲れちゃうんじゃないかなと思いますけどね。
●安藤俊介さんのプロフィール
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。 怒りの感情コントロール専門家。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会<https://www.angermanagement.co.jp/>
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