クレーム対応のプロが語る「正義を振りかざす怒りは戦争と同じ」【怒り17】
●怒れる女 17
怒りの根本にあるのは孤独や自己肯定感の低さ
――そもそも人はなぜ怒るのでしょうか?怒りの根本にあるものは何ですか?
津田さん(以下、津田): 一つは孤独ですね。誰も自分を理解してくれない、誰からも必要とされていない気がして孤独が怒りに変わるんです。既婚か独身かといった家族構成などとは関係なく、好きなことをしてワクワクしたり、自分で自分の人生を歩んでいる人は孤独になりにくいですね。
また、自己肯定感が低く、自己防衛のために怒る人もいます。
――怒りを掘り下げていくと、親子関係も影響しているとも聞きます。
津田: 怒りの根っこには親子関係の問題があることが非常に多いですね。親が自分を認めてくれなかった、親から言われて傷ついた言葉があるなど、無意識でも心の奥底に残っています。そんな吹き溜まりに溜まった思いが、何かをきっかけに怒りとして現れるんです。
ただし、親も同じ人間です。子どもは「親とはこうあるべきだ」と、つい親に完璧を求めがちですが、もし自分が親だったら果たしてそこまで完璧にできるのか。
もちろん、親にされてつらかったことは無理に忘れなくてもいいですよ。ただ、親を許せない限り自分も許せないんです。そのためにも自分自身の内省をするといいですね。子どものとき親にどうして欲しかったのか、何をされたら嬉しかったのか。親に対しての思いを書き出してみるといいでしょう。内省は早ければ早い方がいいです。そうしないと溜まる一方、後から爆発しますから。
まずは6秒待つ!
――理不尽な発言をされ、怒りたくないのに怒ってしまうこともあります。怒りはコントロールできますか?
津田: 相手が言ったことに対して言い返すのは、立ったまま殴り合ってるのと同じです。どんどん殴り合いが白熱してお互い傷つけあっているだけ。相手をかわすテクニックを身につけた方がいいですね。
アンガーマネジメントでも言われていますが、パッと怒りそうになったら、まずは6秒待ちましょう。頭にくると興奮物質であるアドレナリンが放出して、落ち着いて思考できない状態になるんです。しかし6秒待つとアドレナリンが沈下して冷静になり、同じことを言うとしても言い方が変わってくる。感情はコントロールできませんが、行動はコントロールできるんです。怒ってしまうのは仕方がないけれど、反射的に答えないこと。頭に来ても「6秒!」とすぐ思い出せるように、瞬間的に6秒数えるクセをつけるといいでしょう。
6秒って自分にとっても相手にとっても、意外と長いかもしれません。クレーム対応の研修でも伝えていますが、沈黙は武器・沈黙を恐れるなと言っています。人間の心理として、喋っている人より黙っている人の方が圧倒的に有利なんですよ。ワァってまくしたてる方が一見有利に見えますが、黙っている人が一番怖い。ただ、黙るのと逃げるのとは違うので、瞬間的に怒りそうになったら6秒待つということです。
正論の押しつけ合いによる怒りは戦争と同じ
――怒りをコントロールしながら、人間関係を築く上で大切なことって何でしょう?
津田: 自分と相手は違う人間だと理解することですね。自分の理屈や正義を押しつけず、相手の話もきちんと聞いて受け入れる。怒る人は、相手の考えが自分と違うから腹が立つんです。どうしてそんな考え方するの?そんな行動するの?ってイラっとします。一人ひとり人間が違うのに、自分の常識を当てはめようとするんです。
また、人間関係でトラブルが多い人は、白黒つけたがる人ですね。良いか悪いかはっきりさせたいと思う人。しかし、世の中白黒つかないことだらけで、答えがないものもたくさんあります。それを、正義とはこういうものだ、愛とはこうだと自分の考えを押しつけられたら、お互い苦しいだけですよ。戦争と一緒です。戦争って正義と悪が戦っているのではなく、正義ともう一つの正義が戦っています。どちらもお互いが正義だと思っていて譲り合わないんです。
――ただ、場合によっては怒ってもいいこともありますか?
津田: もちろん言いたいことがあれば言えばいいと思います。我慢せずに伝えた方がいいこともあるし、定期的なガス抜きも必要です。我慢の具合を調節していくことが、大人になるということでしょうか。
●津田卓也(つだ・たくや)さん プロフィール
1965年生まれ・京都出身。1995年ブックオフコーポレーション入社、1997年店長に就任し、年間MVPを受賞するなど数多くの表彰を受ける。2005年(株)Cube Roots設立。人材マネジメントの研修を扱い、特にクレームの研修は好評で国内随一の登壇数を誇る。著者に「どんなクレームも絶対解決できる!」(あさ出版)がある。
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