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パパゾン炎上を考える

今週、1人の夫が妻に感謝を込めて贈ったプレゼント「パパゾン」が、Twitterなどで炎上しました。「コメントそのものにも、ネットの反応にも気持ち悪さを感じた」と語るのは、会社員として働くTさん(33歳)。「気持ち悪さ」の正体について、Tさんがコラムを寄せてくれました。

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「パパゾン」のツイートが炎上した。

そもそもパパゾンとは、家族や親しい人に贈る宅配便。
妻ゾン、ママゾン、アネゾン、など贈り主+ゾン(amazonのゾン)をつけて呼ぶ。

今週、このパパゾンが大炎上していた。理由は3つ。
①感謝するお金が安い(家事、育児込みで1万円)
②「外出」「無断外出」「帰宅遅延」という名目のペナルティで、もともと低い「給与」が差し引かれている
③モラハラのかおりが漂っていて、生理的な気持ち悪さが沸々とこみ上げる

多くの人が、このツイートを批判している。私も、「気持ち悪い……」と思った。

なぜ、妻は喜ぶのか

断っておくが、投稿した妻とパパゾンを送った夫を責めるために、この文章を書いているわけではない。私は、数年前、この妻と同じ状況に置かれていて、家事を手伝わない夫に感謝されると、とても喜んでいた。
軽い気持ちでアップし、ちょっと嬉しかったであろう妻の心情がわかるし、このツイートに怒る人たちの気持ちもわかる。でもそれだけではなく、「気持ち悪い」と思った。その気持ち悪さについて、ちゃんと考えてみることにした。

ーーもし数年前、私がパパゾンをもらっていたら、きっと喜んでいただろう。
当時、夫は、気が向いたときに子どもと遊び、週に数回、洗濯だけをしてくれていた。

共働きだった私たちは、結婚当初は「家事は折半しよう。朝ごはんは夫、妻は夕食をつくる」といった具合に、家事を分担するとりきめをした。
が、そううまくいかない。
料理も掃除も洗濯も苦手だった夫は、みそ汁の出汁の取り方を説明した時点で「できない!」と激昂した。

こういうやりとりが続き、私はそのうちあきらめた。
「こんなにキレられるくらいだったら、自分でやったほうがマシ」。

年を重ねた今なら、円満な家庭を築くために、夫マネジメント(夫に辛抱強く要望やスキルを伝えて成長してもらう)を頑張らないと、不満がたまって家庭は崩壊するとわかる。
そもそも相手選びから間違っていた、とわかる。でも、当時20代半ばだった私は、全部よくわからなかった。ただ、目の前のトラブルを避けたかった。

 「せめて、ありがとうと言って」

もう少し分担を試みようとする夫婦もいるだろうし、最近は家事分担が当たり前という意識をもった男性も増えている。ただ、私の夫はそうではなかった。世の中の多くの妻がそうであるように、家事リテラシーの低い夫に日々疲弊していき、「夫の家事への期待」も「夫への期待」そのものも、下がっていった。期待値が下がっているだけに、「家事をしていることに感謝してくれた、うれしい」というマインドが醸成されていった。

結婚して1年後には、「私が全部家事はやってもいいけど、せめて『ありがとう』と言って」と、切実に願っていた。「これはおかしい」と、ありがとうを決して言わない夫を目の前にして、やっと気づいた。

傲慢な夫が気に入らなければ、
①別れる
②夫に変わってもらうよう努力する
③あきらめる

妻は、どれかを選んで、生きていく。それは、周りがとやかく言うことではなく、自分が決めることだ。

私が選んだ選択肢は①別れる、だった。
黙って従うこともできない。夫婦関係を改善するための熱意と愛情も、結婚数年でなくなった。後悔は、ない。

そうやって離婚した後、こんなことを言われた。
「君の我慢が足りない。自分の幸せばかり考えていないで、ちゃんと話し合ってもっと子どもの将来や感謝の気持ちをもつべきだったのに。最近の働く女性はワガママだと思う」

出産のときにお世話になった、数回会った産婦人科医のことばだ。姓が変わった私の保険証を見て、そう言ってため息をついた。

夫婦の数だけ、夫婦のかたちがある

私は、パパゾンの一連のツイートを見て、産婦人科医のこの言葉を久しぶりに思い出した。

パパゾンの投稿をした方が、夫にどんな気持ちを抱いているかはわからない。
でも、夫婦の数だけ夫婦のかたちがある。

「もっと対等な夫婦関係を築くべきだ」
「夫がダメ。上から目線にもほどがある」
「日本はこれだから男女平等が広まらない」

批判するのも、正論を言うのも簡単だ。
自分の不満を、このツイートに便乗してぶちまけるのも簡単だ。

自分の経験と重ねて、何か言いたくなる気持ちもわかる。そう、今回私が書いたように。
でも、面と向かって言われて傷つくのと同じように、ネットの中の言葉にも、きっと傷つく人がいる。パパゾンの夫の給与明細と同じくらい、当事者を知らない外野がネットを介して批判を浴びせるのは、デリカシーがないと思う。

私が、今回の”パパゾン炎上”に感じた気持ち悪さは、きっとこれだった。
令和になった今も、対等とは考えにくい夫婦の存在が露呈したことへの悲しさと、周りのコメントの傲慢さ。

面と向かってその言葉を言えるかどうか、ちょっとだけ考えてから書き込んでくれるような、ほんの少しの気遣いがある人が、もう少し増えたらいいのに。

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