俳優・ピアニストの松下奈緒さん、40代手前に思う「夢は言葉に出すことで叶えられる」
ピアノは空気のよう
――3歳からピアノを続けています。松下さんにとってピアノはどんな存在なのでしょうか?
松下奈緒さん(以下:松下): ピアノは私にとって、もはや空気のような存在です。俳優になる前はピアノ一筋で、ずっと音楽に囲まれて生活していました。何の根拠もなく、自分は音楽の道に進むんだという夢を持って、ずっと一緒に歩んできました。ピアノが何か言葉を発するわけではありませんが、常にそばにいてくれるという安心感があります。
――これまで、「やめたい」と思ったことはなかったのでしょうか?
松下: 子どもの頃は、みんなが部活をしている中で私は家に帰ってピアノを弾いていましたので、何度もやめたいと思いました。でも、「やめて何をするの?」と考えたら、やっぱり私にはピアノしかないと思ったんです。わりと早い段階で気づきました。だから、自分に何もなくなるのが怖くて、やめられなかったというのもあります。
子どもの頃はピアノを好きな時もあれば嫌いになる時もありましたが、やめなかったから今があります。そう思うと、続けてきたのはいい選択だったな、と。誰かに言われたわけではなく、自分で決めたからこそ、続けてこられたのだと思います。
――ピアノ一筋の生活に、俳優の仕事も加わりました。
松下: 子どもの頃から好きだった音楽と演技を両方やっていきたいと思ってきて、それが叶ったのが今の状態です。俳優と音楽、両方をやっていくには物理的な時間の問題など、大変さはあります。でも、今回の映画『風の奏の君へ』のように、俳優と同時に作曲や演奏にも携わらせていただけたのは両方をやってきたからこそだと思います。
20年くらい音楽とお芝居をさせていただいていますが、どちらか1つではなく2つあることでうまくバランスがとれている部分もあります。これから先も両方続けていくことが私の目標です。
去年よりは今年、という生き方を
――松下さんは今39歳です。40代になることに焦りや葛藤を感じる人も多い年齢ですが、どう捉えていますか?
松下: 冗談で年齢をネタにしている分にはいいのですが、深刻に捉えてしまうと何も進まなくなってしまいます。何歳だから「こうでないといけない」「これをしなければいけない」と、自分自身では思わないようにしていても、そういった世間の声に飲まれてしまいそうになることもありますよね。だから、「自分は自分」と思って、あまり年齢は気にしないようにしています。
とはいえ、やっぱり体力はどうしても20代の頃に比べると落ちてしまいます。ただ、何かを失えば、また何かを得ることもあるでしょうし、ネガティブにならず、前向きに「これからどうやって年齢を重ねていこうかな」と考えたいと思っています。
――年齢とともに、プライベートの過ごし方にも変化はありましたか?
松下: 自分の時間を大事にできるようになりました。20代の頃は自分の時間を削ってでも仕事に没頭することもあり、それが楽しかったし幸せを感じていました。でも年齢を重ねて余裕が出てくると、自分に戻ってインプットする時間も必要だなと感じます。
――理想の年齢の重ね方は?
松下: ピアノとお芝居を20代から長く続けてきて、やはり年齢とともにクオリティを上げていきたいという思いはあります。去年より今年、と質を高めていく。そんな年齢の重ね方をしていきたいですね。
――映画にドラマに、演奏に作曲に活動の幅を広げてきた松下さん。やりたいことが見つからない、なかなか一歩が踏み出せないと悩む読者にぜひメッセージをお願いします。
松下: 自分で「これをやるんだ」と、まずは決める勇気を出すことから始まるのだと思います。人に言われて決めるのではなく、自分で何か1つこれをやるんだ、と決められたら、たとえ失敗しても、ムダではなかったと思えるはずです。
また、「言霊」にすると力を持つというのはあると思うので、実現するのは無理だと思うような夢も、口に出してみることが大事だと思います。私自身、夢を口に出すことで、叶えられてきたのかなと思っています。
●松下奈緒(まつした・なお)さんのプロフィール
1985年生まれ、兵庫県出身。音楽好きの両親のもとで3歳からピアノを始める。東京音楽大学卒業。2004年、俳優デビュー。その後、話題作に多く出演する。また、ピアニストとしても活動し9枚のオリジナルアルバムを発表している。
出演:松下奈緒、杉野遥亮、山村隆太(flumpool)
監督・脚本:太谷健太郎
原案:あさのあつこ「透き通った風が吹いて」(文春文庫)
製作:「風の奏の君へ」製作委員会
©2024 「風の奏の君へ」製作委員会