石原さとみさん・中村倫也さん

石原さとみさん・中村倫也さん「ひとつの行動が夢を叶える」

5月17日公開の映画『ミッシング』で共演した、俳優の石原さとみさんと中村倫也さん。お二人が身近な人との関係を保つために実践していることや、同世代の読者へのメッセージなどを伺いました。偶然にも生年月日が同じお二人の息の合った掛け合いもお楽しみください。
石原さとみさん・中村倫也さん「人から傷つけられても、人に救われることもある」 映画『ミッシング』で共演 【画像】石原さとみさん・中村倫也さんの撮り下ろし写真

「失った後」のほうがもっとどん底だと知った(石原)

――映画『ミッシング』について、𠮷田恵輔監督は「自分のキャリアの中で最も覚悟のいる作品で、キャストたちはメンタルが削られる芝居の連続だと思う」とコメントをされていましたが、娘の失踪により徐々に心を失くしていく母親の沙織里と、家族の密着取材を続ける地元テレビ局の記者・砂田を実際に演じられてみて、いかがでしたか。

石原さとみさん(以下、石原): もう、削られまくりでした。私が演じた沙織里は、娘がいなくなったことで心が壊れていくので、撮影に入る前から「これは辛いだろうな」と覚悟はしていたのですが……。

例えば、𠮷田監督作品の『空白』は登場人物が亡くなる瞬間も描いているけど、今作に関しては娘の美羽が失踪した、その出来事を描いていないんです。「失う」という出来事が起きた瞬間よりも、その後の方がもっとどん底なんだということを今作で知りました。そのどん底の底からこの物語はスタートしているので、沙織里を演じていて、もうこれ以下はないだろうというギリギリの日々でした。

石原さとみさん・中村倫也さん

中村倫也さん(以下、中村): 僕はすり減るというよりも、芝居をしている中で心苦しい気持ちになることが多かったです。それは沙織里の家族に対しても、自分より仕事ができる後輩に対してもそうですが、砂田は自分の中にあるまっすぐに芯を立たせたい部分を立たせきれていない人。支柱がないとツルだって伸びないでしょう? そのブレがちなものに付随して、よこしまな気持ちや妬ましい気持ち、認めたくない自分の中の淀みや澱(おり)みたいなものを常に内包しながら、周囲の人たちにいい顔をしていたところもあると思うんです。人間ってそういう色々なものが介在している生き物なんだろうなと感じました。

「イラっとする時ほど人に優しく」(中村)

――作中では、沙織里夫婦の温度差についても描かれました。娘の失踪という極限の状況のなかで身近な人との信頼関係が揺らぐこともあると思います。お二人が身近な人間関係において大変なときほど大切なことはどんなことだと思われますか?

石原: 私はまず、話し合いの論点がぶれないように目的を定めることが大事だと思っています。課題解決のゴール地点や、一番の目指すべきポイントに向けてどうしていくのかということを一緒に考えて、気になることは全部話します。

沙織里には豊(青木崇高)という夫がいて本当によかったと思うんです。夫婦もいろいろで、お互い同じ温度で、辛いときは一緒に泣いてくれる人を求める方もいると思いますし、相手が冷静であればあるほど、こちらがいら立ってしまうようなこともよくあることだと思うのですが、二人で一緒に壊れたら元も子もないので、豊が壊れずに側にいてくれたのは本当に心の支えだったなと思います。

『ミッシング』©2024「missing」Film Partners

中村: 僕はイラっとする時ほど、より人に優しくしようって思います。最近は現場とかでちょっとイラッとしそうな時に、斉藤和義さんの「やさしくなりたい」が頭の中で流れるんですよ。

――「優しくなりたい」という言葉は、中村さんから近年よく聞くワードですね。

中村: 今の自分のテーマですね。僕、アンパンマンみたいになりたいんですよ。多分、優しいことは優しいんだけど「もうちょっと他の言い方や伝え方を考えられなかったかな」と、一瞬、思考が停止して後悔することがあるんです。それをなくすにはどうしたらいいかなと考えた時に「より強く、より人に優しく、受け皿を大きくしよう」と思ったことがあったんです。

石原: それは素晴らしい考え方‼

中村: 僕は取材の場などでしょうもない嘘をついたり、ボケたりしていることがちょくちょくあるんです。相手によっては「そういうことしたら嫌われるかな」と不安に思うこともあるんだけど、今日一日さとみちゃんと一緒に取材を受けていて、ちゃんと突っ込んでくれるから、僕は心の蛇口を締めることなく甘えられています。

石原さとみさん・中村倫也さん

「30代は若い! 勇気を出して行動して」(石原)

――telling,読者の中には、お二人と同じ30代でキャリアの重ね方やプライベートの充実など、これからの生き方について悩んでいる方も多いと思いますが、ぜひお二人から前向きになれるようなメッセージをお願いします!

石原: もし漠然と「前に進みたい」と悩んでいるのであれば、今の環境を変えるのもいいんじゃないかな。あとは「何か毎日がつまらないな」と思っているなら、映画を見るのもおすすめです。30代になると、体調も変化してくるし、色々な出来事を乗り越えていくのに勇気が必要になってくる年齢ではあると思うんです。でも、まだ若いですから! 勇気を出して行動に移して、自分のいる環境と世界を変えていくと、いつか何かが変わるかもしれないですよ。

――7年前に石原さんが𠮷田監督に出演を直談判した行動が、今回の作品に繋がったこともそうですね。

石原: 𠮷田さんの作品と出会った時、私の中では「発見した」という感覚でした。確実に自分の気持ちが動いて「私を変えてくれる」と思ったから行動に移して、その結果、今こうして夢が叶いました。ひとつの行動によってこれだけの幸せを得られるということを私は身をもって体験したので、みなさんもぜひ勇気をもって行動してみてください。

中村: 今の話を聞いていて、僕の答えが出ました。みなさん、さとみちゃんのファンになったらいいんですよ。こんな真面目に聞き手の質問の意図を汲み取って、ベストな回答をしてくれる人はいないです。この人の背中を追いかけて写真集などの書籍を買い、過去のインタビュー記事を読み返せば、きっと生きる元気をもらえるでしょう。

石原: それはありがたいですけど(笑)。

中村: 僕から言うとすれば、頑張れ! この一言ですかね。僕、この手の質問に対する答えにいつも悩むんですよ。だって、人によって悩んでいることは違うから。

石原: でも、悩んでいることって意外とみんな一緒だと思うよ。やっぱり人間関係と健康面のことが多いんじゃないかな。

石原さとみさん・中村倫也さん

中村: 健康については下手なことは言えないけど、人間関係は「自分が変えればいいじゃん」って思うんです。人間関係で悩むのって、大体が自分に変える力がないからでしょう? 変える力がないなら、その環境も含めて変えたらいいと思うわけで。自分の生きやすい環境を自分で整えられる力を手に入れれば、そういう悩みもきっとなくなると思うんです。だけど、もっと大きな社会構造があったり、自分がそこまでしたくなかったりするわけじゃない。

石原: あとは自信のなさもあるよね。自分を変える力を得るためにはどうすればいいのかな?

中村: 死ぬ気になって、泥水を吸ってでもやり抜く目的を持つ。ほら、僕はこういう風に現実を突きつけることしか言えないんですよ。

石原: そう? 私はいいアドバイスだと思うよ。

中村: じゃあみなさん、石原さんと僕のファンになってください(笑)。

【石原さとみさん】
ヘアメイク:猪股真衣子
スタイリスト:宮澤敬子(WHITNEY)

ドレス(アキラナカ/ハルミ ショールーム)
トップス(スタイリスト私物)
サンダル(チャールズ&キース/チャールズ&キース ジャパン)

【中村倫也さん】
ヘアメイク:Emiy
スタイリスト:戸倉祥仁(holy.)

シャツ、ジャケット、パンツ (KIMMY/Sakas PR)

●石原さとみ(いしはら・さとみ)さんのプロフィール

1986年生まれ。東京都出身。2003年、映画「わたしのグランパ」でデビューし、その後ドラマ「アンナチュラル」(18年/TBS系)、映画「そして、バトンは渡された」(21年)など数々の作品に出演。現在NHK「あしたが変わるトリセツショー」MCを務め、ドラマ「Destiny」(テレビ朝日系)、映画「ラストマイル」(24年夏公開)に出演。

●中村倫也(なかむら・ともや)さんのプロフィール

1986年生まれ。東京都出身。近年の主な出演作に、ドラマ「ハヤブサ消防団」(23年/テレビ朝日系)、映画「沈黙の艦隊」、「劇場版 SPY×FAMILY CODE: White(23)など。現在、「ザ・バックヤード 知の迷宮の裏側探訪」(NHK Eテレ)にナレーション出演中のほか、書籍「THE やんごとなき雑炊」が発売中。2024年劇団新感線44周年興行夏秋公演いのうえ歌舞伎「バサラオ」(7月〜10月公演)に出演予定。

石原さとみさん・中村倫也さん「人から傷つけられても、人に救われることもある」 映画『ミッシング』で共演 【画像】石原さとみさん・中村倫也さんの撮り下ろし写真

■「ミッシング」

出演:石原さとみ、青木崇高、森優作、有田麗未、小野花梨、小松和重、細川岳、カトウシンスケ、山本直寛、柳憂怜、美保純/中村倫也
監督・脚本: 𠮷田恵輔
5月17日(金)全国公開
配給:ワーナー・ブラザース映画
©︎2024「missing」Film Partners

ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。
出版社写真部、東京都広報課写真担当を経て独立。日本写真芸術専門学校講師。 第1回キヤノンフォトグラファーズセッション最優秀賞受賞 。第19回写真「1_WALL」ファイナリスト。 2013年より写真作品の発表場として写真誌『WOMB』を制作・発行。 2021年東京恵比寿にKoma galleryを共同設立。主な写真集に『海へ』(Trace)。