中村倫也さん、人見知りだった僕「コミュニケーションを取らないと人生、損するな」

10月29日から東京、11月16日からは大阪、その後は、石川、宮城で上演されるミュージカル「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」で、中村倫也さん(35)は稀代の音楽家・ベートーベンを演じます。音楽を通じて見えてきたものや、「やりたいことがあっても一歩踏み出せない」人へのメッセージなどを聞きました。
中村倫也さん、「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」に主演 「仕事がない鬱屈した時期に生きる支えになった『演劇』」 【画像】中村倫也さんの撮り下ろし写真

――先日、ミュージカル「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」の稽古が始まったそうですね。中村さんは主役のベートーベンを演じられるわけですが、手応えや、見えてきたものはありますか?

中村倫也さん(以下、中村): 今はまだ最後まで稽古が進んでいない状態なんですけど、自分が目指している方向が見えたというか、「間違ってないな」という実感は出てきました。公演が長く続くことも加味すると、どこまで持っていけるか――。日々、積み重ねている感じです。

――今回は子役の出演もあります。稽古場の雰囲気はいかがですか。

中村: 今回の舞台は子役の歌から始まるんですけど、かわいくてね。自分の出番が来てほしくないと思うくらい(笑)。清らかな気持ちになりますね。芝居で絡むシーンも割とあるので、すごく楽しいし新鮮な気持ちです。

一瞬にしてガラっとその場を…

――以前、この作品について、演出でもある演劇界の鬼才・河原雅彦さんから「“支配力”が自分に求められるだろうなと思う」と仰っていました。“支配力”とは具体的には、どんなことでしょうか? 

中村: 劇場という空間の中で、一つ一つの粒子に至るまでその人の色に染めるように、一瞬にしてガラっとその場を支配する。芯の通った熱量を放出している物体がいると、周りを喰うし、惹き付けられると思うんですよ。

そういうイメージや概念的なことが「支配力」という言葉に置き換わっているのかなという気がします。

――「黄昏」(2008年)で初舞台を踏み、その後は年に2、3本のペースで出演されています。中村さんにとって「舞台」とは?

中村: 感覚的に例えるなら「ホーム」とか「育った場所」とか色々あるんでしょうけど、結局のところ自分が好きでやっているだけだなって思うんです。自分の性格上、好きじゃなかったらやっていないし、自分の役者としての特性みたいなものを考えると、舞台が一番合っているよなって前から思っています。

見終わった人の顔が見える“舞台”

――どんなところが「自分は舞台役者に向いているな」と思われますか。

中村: それは教えないです(ニヤリ)。芝居を見てくれた人が「こういうところが向いているのかな」って感じてくださったり、「いやいや、言うほど向いてないでしょう」って思ってもらったりしても全然いいんです。ただ、自分の中で「向いてるんじゃない?」って思っているだけです。

映像作品をやっていて僕が「さみしいな」と思うのは、見終わった人の顔が見えないこと。舞台はみんなで稽古して本番を迎えて、観客に向けて描いていくので、観た方の抱いた感想や、拍手を受け止める。“ものづくり”としても人間としても健全な気がします。

――今回は音楽家のベートーベン役です。中村さんにとって音楽とは、どういうものですか? 

中村: 車の運転や家事をするときは、だいたい音楽かラジオをかけています。今は懐メロを聴くことが多くて、最近は井上陽水さんがブーム。運転中にかける一曲目は「傘がない」です。(忌野)清志郎さんやhideさんも。僕が生まれる前にできた曲ですが、歌詞は今も通用する世界観だし、サウンドもまったく古さを感じなくて「すげえな」って思います。

僕は小学生の時、お小遣いもらうとよくCDを買っていたんですよ。買ったCDの曲では特に歌詞をよく覚えていて、友達といると「みんな、なんでそんなに歌詞がうろ覚えなの?」って思うことがよくあったんです。小さいころから、歌詞の物語や「詩世界」にフォーカスして音楽に触れていた子どもだったんだなって、大人になってから気づきました。

種火を育てて、形にするのは…

――昨年上梓したエッセイ『THE やんごとなき雑談』(KADOKAWA)の中で、「自分の中の自意識を追い出したい」と書かれていました。

中村: 今日ね、ウンコを漏らす夢を見たんですよ。そういう話ができる程度には、自意識がなくなってきています(笑)。でも、今回の舞台も「やっぱりちょっと照れくさいな」って思いながら稽古しているので、やっぱりまだどこかに残っていますね。

――中村さんは現在、35歳です。20代後半から40代前半のtelling,読者の中には、「やりたいことがあっても一歩踏み出せない」という人もいます。

中村: 今の僕からじゃ想像もできないと思うんですけど、元々、人とまったく話さなかったんですよ。単純に人見知りだったこともあるんですが、ある種の真面目さから。「失礼があってはいけない」という思いがあって。ご飯に誘われても行かなかったし、仕事場でもほとんど人としゃべらなかったんです。でも、楽しい人と出会う機会を得たことで、「こんなに面白い話が聞けるんだったら、自分からコミュニケーションを取らないと人生、損するな」と思って、次の日から人見知りをやめたんです。

20代前半の頃に、そういう「一歩踏み出す」という経験をした結果、色々なノッキングが自分の中で起こって。もちろん失敗もたくさんしましたよ。
でも、恥をかいたり、誰かに責められたり、何かを失ったりすることと天秤にかけても、一歩進んで得るものの方が大きいと思うんです。社会は義務教育じゃないので、「何かやってみたい」と思う種火があるんだったら、その種火を育てて、熱として伝えて形にするのは自分しかいない。
若い頃の失敗は特権だと思っているので、何でもチャレンジしてみればいいんじゃないかな。

中村倫也さん、「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」に主演 「仕事がない鬱屈した時期に生きる支えになった『演劇』」 【画像】中村倫也さんの撮り下ろし写真

●中村倫也(なかむら・ともや)さんのプロフィール

1986年、東京都生まれ。2005年に俳優デビュー。翌年に「黄昏」で初舞台を踏み、14年に主演舞台「ヒストリーボーイズ」で第22回読売演劇大賞の優秀男優賞。以降、映画やドラマ、舞台と幅広く活動。「仮面ライダーBLACK SUN」(Prime Videoで10月28日配信)、舞台「ケンジトシ」(23年2月~公演予定)を控えている。

舞台「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」

天才作曲家・ベートーベンの生涯をドラマチックに描いた創作ミュージカル。韓国のクリエイター、チュ・ジョンファ氏の新作として、2018年末~2019年に韓国で上演し話題を呼んだ。
上演台本・演出:河原雅彦/訳詞:森雪之丞/出演: 中村倫也、木下晴香、木暮真一郎、高畑遼大(Wキャスト)、大廣アンナ(Wキャスト)、福士誠治

公演日程・会場:10月29日(土)~11月13日(日) 東京・東京芸術劇場 プレイハウス
11月16日(水)~21日(月) 大阪・梅田芸術劇場 シアター ドラマシティ
11月25日(金)、26日(土) 石川・北國新聞赤羽ホール
11月29日(火)、30日(水) 宮城・電力ホール

ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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