中村倫也さん、「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」に主演 「仕事がない鬱屈した時期に生きる支えになった『演劇』」

天才音楽家・ルードヴィヒ・ベートーベンの生涯を、彼が綴った音楽とオリジナル楽曲で描く創作ミュージカル「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」が、10月29日から東京公演を始めに、大阪、石川、宮城で上演されます。本作で、主役のルードヴィヒを演じるのは数多くのドラマや映画などに出演する中村倫也さんです。稽古開始前と、まっただ中の2回取材し、本作への思いや歴史上の人物を演じることなどについて中村さんに語ってもらいました。
中村倫也さん、人見知りだった僕「コミュニケーションを取らないと人生、損するな」 【画像】中村倫也さんの撮り下ろし写真

求められるのは“支配力”?

――ミュージカル「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」の初演は、2018年末~2019年の韓国です。今回の日本での公演は、演劇界の鬼才・河原雅彦さんによる台本・演出。河原さんと中村さんは、残酷歌劇「ライチ☆光クラブ」(2015年)以来、7年ぶりのタッグになりますね。

中村倫也さん(以下、中村): 河原さんとはこれまでも何度かご一緒させていただいて、会うたびに「次、何やる?」とラフに話していましたが、まさか前回から 7 年も経っていたとは……。びっくりですね。僕も河原さんも割とふざけた内容の作品をやることが、多かったので(笑)、今作について“真面目なミュージカル”という表現が正しいのか分からないですが、新しいことにチャレンジしていけたらな、と思います。

――河原さんの演出にはどんな印象がありますか?

中村: 河原さんの印象は「すべてのものを面白がる人」。人としての懐も深くて包容力のある方なんじゃないかな。
河原さんは昔から演劇をやる上で「威力」という言葉をよく使われる。さっき少しお話しした時は「支配力」みたいなことを言っていました。今回の作品でも自分に求められることだろうなと思っています。

仕事がない時期が続いていた際に…

――今回のオファーは、「倫也と真面目なミュージカルをやりたい」という河原さんたっての希望だそうですね。

中村: 河原さんが真面目な作品をやりたかったというのは意外でした。「ルードヴィヒ ~Beethoven The Piano~」の話が、河原さんに持ち込まれるというのも……。そして僕を指名してくれたことは嬉しかったですね。
ご存知の方も多いかと思いますが、僕はずっと仕事がない時期が続いていたんです。連続ドラマのゲストに出演しても出番は3シーンくらいしかなくて。自分の実力不足なんですけど、そんな鬱屈している若手時代に「演劇」があったことは、自分の生きて行く支えになったんです。河原さんは間違いなく僕に道を拓いてくれた方です。

僕らのこれまでの歴史もありますから、河原さんから「一緒にやろうぜ」と声をかけていただいたのなら「しんどそうだな」って思いながらも「やるっきゃねえな」と。
ミュージカルって、大体は歌か芝居がしんどいと思うんですけど、この作品は両方トップクラスにしんどいと思うんです。それは決してネガティブなことではなく、表現者として熱量を放出しなければいけない。だから「中村、頑張ってるな」で終わらないように、気持ちを込められる作品作りをしなきゃいけないなと思っています。

“マライア・キャリーミュージカル”になりそう

――公式サイトの河原さんのコメントで「(中村さんに)めちゃめちゃ歌うベートーベンをやってもらいます」とありましたが。

中村: ハハハ、それは困ったね(笑)。でも、今作は韓国版から配役が微妙に変わっていて、歌うパートが増えていると思います。僕は、曲のキーが低いよりも高いほうが得意なんですけど、すごく低いところから高いところにいくような曲もあるので、どうやら“マライア・キャリーミュージカル”になりそうです。

――演じるベートーベンをどんな人物と解釈し、どんなところを大切に演じたいと思われますか?

中村: 誰もが知る偉大な音楽家なので、そのエネルギーを体現することは、とても大変そうだなと思いつつも、稽古をしながら見つけていこうと思います。
さっき、ふと思ったのは「ベートーベンは、割と子供じみている部分があるな」ということ。

でも幼い頃から、苛烈な音楽教育を父親からされて育ったこともあり、すごく才能があるんですよね。見えているもの、聞こえている音などで、やっぱり常人とは共有できない感覚や、「いわゆる普通の人ではないよな」っていう点は、彼のすごく大事な要素としてあるんじゃないかなと思います。

物語としては、彼の人生がテーマで、出会う女性や弟子との物語ですけど、描かれるのは「圧倒的な何か」なんじゃないですかね。

――今作のために作られた、森雪之丞さんによる日本語訳の歌詞は?

中村: まだ数回しか台本を読んでいないので、分からないところもあるから、今は何とも言えないです(この取材は8月末)。ただ、自分の拙い経験で言うのも何ですけど、ミュージカルのナンバーって、ひとり言か叫びか会話だと思うんです。けど今回は、会話の歌があまりない気がするんですよね。それぞれが「俺はこうだ」と自分の思いを主張したり、すれ違いになっていたりしているのが多いのかな。
この作品の曲のテーマは「慟哭」と「葛藤」が多くて、実はすごいテクニックがいる気がするんですよね。調子が一辺倒にないように、率先して恥をかきながら、喉を壊さないようにフルスロットルで頑張らなきゃなと思っています。

「知ったこっちゃない」というマインド

――昨年の舞台「狐晴明九尾狩」での安倍晴明に続き、今回のベートーベンと、演じる有名人の振り幅が広がっています。誰もが知っている歴史上の人物を演じることの面白さや難しさを、どんなところに感じますか。
中村: 歴史上の偉人って大体がデフォルメされて伝わるものなので、「狐晴明九尾狩」で(安倍)晴明を演じた時も、何も考えていなかったです。だって会ったことないですから。ベートーベンも、彼が生涯で残した作品はみんな知っているけど、実際どうだったのかは誰も……。
僕は台本をもとに掘り下げていくことしかしないし、歴史上の人物と意識するよりも「ここに集まったメンツで良いものを作ったほうがいいじゃん!」っていうノリ。なので、もし “ベートーベンマニア”みたいな人から「それはおかしいだろう!」って杖を振り上げられたら「ごめんなさい」って言います(笑)。

多分、僕は色々なことに対して「知ったこっちゃない」って思っているところがあるんです。よく「エゴサーチしないんですか?」と聞かれますが、したところで「知ったこっちゃねーし」って思うんですよ。そういうマインドで日々生きています。

中村倫也さん、人見知りだった僕「コミュニケーションを取らないと人生、損するな」 【画像】中村倫也さんの撮り下ろし写真

●中村倫也(なかむら・ともや)さんのプロフィール

1986年、東京都生まれ。2005年に俳優デビュー。翌年に「黄昏」で初舞台を踏み、14年に主演舞台「ヒストリーボーイズ」で第22回読売演劇大賞の優秀男優賞。以降、映画やドラマ、舞台と幅広く活動。「仮面ライダーBLACK SUN」(Prime Videoで10月28日配信)、舞台「ケンジトシ」(23年2月~公演予定)を控えている。

舞台「ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~」

天才作曲家・ベートーベンの生涯をドラマチックに描いた創作ミュージカル。韓国のクリエイター、チュ・ジョンファ氏の新作として、2018年末~2019年に韓国で上演し話題を呼んだ。
上演台本・演出:河原雅彦/訳詞:森雪之丞/出演: 中村倫也、木下晴香、木暮真一郎、高畑遼大(Wキャスト)、大廣アンナ(Wキャスト)、福士誠治

公演日程・会場:10月29日(土)~11月13日(日) 東京・東京芸術劇場 プレイハウス
11月16日(水)~21日(月) 大阪・梅田芸術劇場 シアター ドラマシティ
11月25日(金)、26日(土) 石川・北國新聞赤羽ホール
11月29日(火)、30日(水) 宮城・電力ホール

ライター。雑誌編集部のアシスタントや新聞記事の編集・執筆を経て、フリーランスに。学生時代、入院中に読んだインタビュー記事に胸が震え、ライターを志す。幼いころから美味しそうな食べものの本を読んでは「これはどんな味がするんだろう?」と想像するのが好き。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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