maroke/iStock/Getty Images Plus
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XXしない女たち #19

賃貸しない女たち “自分の城”を手に入れたい!それぞれの事情

私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「賃貸しない女たち」。長年働いて資金を貯め、「結婚したらマイホーム」という家庭像が薄れ、若い独身女性にも「持ち家」が選択肢として広がりつつあります。マイホーム購入を決めた3名の女性たちに、それぞれの事情を聞きました。
ジェンダーバイアスを持たせない母親たち 同居しない女たち 私たちの“合理的選択”

一人で何もかも決める過程が楽しい

Hさんは、広告会社で働く33歳の女性。昨年、社内の男性と「事実婚」をして、現在2人で都内に暮らしている。

マイホーム購入を検討し始めたのは、28歳の頃だった。「賃貸は、資産として残らないからね―」。Hさんは、就職した頃から親にそう言われてきて、少しずつ住宅用の貯金をするよう金融教育を受けていた。当時は独身で、結婚の予定も一切無かったが、自分が今後快適に暮らしていくための住環境を整えていきたいと2年ほど緩やかに家を探し、気に入った物件を見つけた30歳の時、購入を決めた。

OKrasyuk/iStock/Getty Images Plus
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美術作品を集めるのが好きなHさんにとって、家を購入した一番のメリットは、「自由に家に手を加えられること」。壁を無くしたり、部屋と部屋の間を窓で仕切る「室内窓」をつけたり、床を張り替えたりするリフォームに加え、好きな美術作品を飾るための釘なども壁に打てるから楽しい。

壁紙ひとつ変える時にも、5社ほどのリフォーム会社から見積もりをとったり、ショールームに壁紙の種類を触りに行ったりもした。これまで賃貸に住んでいたHさんにとっては、全てが初めてで新鮮に感じられ、マイホームに住み始めるまでのこうした工程は楽しい思い出だ。

女性の持ち家に、男性が入るのは変?

1年ほど60平方メートル1LDKのその新居に一人で暮らしていた。その後、パートナーができ、スペースに余裕もあったので、賃貸物件に住んでいた彼に引っ越してきてもらった。現在は、Hさんが住宅ローンを返し、パートナーには毎月家賃をもらっている。

独身女性が家を買うことも、女性の持ち家にパートナーが住むことも、まだまだ世の中では“一般的”ではないらしい。家を買った当初は独身で結婚の予定もなかったため、「ずっと結婚する気ないんだ」という反応をされた。その後、Hさんの持ち家にパートナーと二人で住み始めてからも、「旦那さんのこと養ってんだね(笑) 」と言われたりすることもある。「男性が家を買っても、何も思わないだろうに……」。そうちょっとモヤモヤすることはあるけれど、聞き流している。

Sergey Peterman/iStock/Getty Images Plus
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実父の死がきっかけに

次に話を聞いたのは、都内コンサル会社で働くMさん(26歳)。

Mさんがマイホーム購入を考え始めたのは、社会人2年目のゴールデンウィーク頃。1年間働いた自分の源泉徴収票を目にして、「これで信用がついたから、家が買える」と思った。

大学時代、暗号資産などの資産運用にハマったこともあり、「賃貸物件って、我々の家賃でオーナーさんの運用を助けているのかも――」と思うようになっていた。自分で家を購入すれば、ローンを返済した分だけ資産になるのに。その頃、父親が亡くなり、生命保険金との相殺で実家の住宅ローン残高がゼロになって、家は資産として保険代わりになることを身をもって知った。生命保険は掛け捨てでお金が戻ってこないけれど、家賃と同じような感覚でローンを返済していくことが、生命保険の代わりにもなるのは「コスパがいい」と思った。賃貸物件には何かと抵抗もあったと言い、一人暮らしするなら「購入一択」と、実家暮らしから憧れのマイホーム暮らしへ直行した。

家の購入を決める時は、予算の上限があるなかで、「都心で狭い家」か「郊外で広い家」か迷った。まだ20代のうちは都心でもいいか……と思ったが、仕事はほぼ「リモート」で家でも仕事ができる。少し都心からは遠くても、広い家で、自分の好きなインテリアを置いて、夢を叶えようと思った。

Mさんが購入したのは、郊外にある2LDK・73平米のファミリータイプマンション。当時付き合っている人はいなかったが、いつか、誰かと一緒に住む時も、引っ越さずに一緒に住めるくらいの広さを条件に物件を探した。しばらくして、そこに彼と二人で住むようになり、いまでは住宅ローンは全てMさんが払う代わりに、彼が生活費などを支払っている。出費の割合は、Mさんのほうが断然多いが、あくまで家はMさんの資産だし、借金もMさんのもの。そこには、他人のお金を入れたくない気持ちが強いと言う。

mapo/iStock/Getty Images Plus
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合理的なMさんは、いずれ将来は購入した家を売ることも考えていて、リノベーションはしたものの、どんな人の好みでも家具でも合いそうな無難な白壁などを選んだ。5年後、10年後、節目があるタイミングで、買い替えることも見据えている。

家族への“資産”として

最後に話を聞いたのは、Tさん(31歳)。都内企業でマーケティング業務に携わっている。

広島県出身のTさんは、大学から東京に上京し、就職して数年は、会社と同じ最寄り駅のいわゆる超都心の「狭くて高い」賃貸物件に暮らしていた。仕事が忙しくなっても、睡眠時間だけは確保したいという入社前の願望からだった。

社会人5年目の頃、会社で仲の良い同期がマンションを購入し、「そういう選択肢があるんだ」と気づいた。確かに家賃を払うよりも資産形成になるかも、と一人用のマンションを探し始め、そのタイミングで、現在の夫との付き合いが始まったのだが、「せっかくなら二人で住めるところに」と、広めの2LDKの家をTさん名義で購入した。彼には家賃という形でお金を入れてもらい、結果としてローンは二人で返していくことにした。

その後、Tさんは妊娠し、新しい家族を迎えるためにそのマンションは売り、現在は新たに戸建を購入したばかりだ。夫も地方出身で、一軒家で育ってきたからか、「子育てをするには一軒家」という選択が二人にとっては自然だった。元々Tさん名義で購入していたマンションは、購入した時の値段より高く売れたため、戸建を買う資金を上積みできた。

Tさんが家の購入を決めた理由は、やはり夫や家族に残せる資産になることが大きいという。「もし急に交通事故に遭って私が死ぬことになったとしても、『家を買っているし、少しは彼や子どもの役に立ったなと思えるかも』と妄想したりする」――とTさんは笑った。戸建は、これから産まれる子どもや、もしかしたら孫たちの資産になるかもしれない。

Halfpoint/iStock/Getty Images Plus
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博報堂キャリジョ研プラスは今年3月、未婚・既婚問わず20-40代の女性150名を対象に「マイホーム購入に関する調査」を実施した。「マイホームを購入したい」と答えたのは22.7%、「少し購入したい」は14.7%、両者を合わせると4割弱の女性たちに購入への希望が見られた。購入したくない(22.0%)、あまり購入したくない(11.3%)の合計を上回っている。年代別で見ると、20代女性のうち約半分が「マイホームを購入したい/少し購入したい」と回答した。

博報堂キャリジョ研プラス「マイホーム購入に関する調査」グラフ1
博報堂キャリジョ研プラス「マイホーム購入に関する調査」グラフ1

また、「マイホームを購入したい/少し購入したい」と回答した女性たちに、「マイホームを購入したい」理由を尋ねたところ、トップは「自分の家を持ちたい」で、“所有”へのこだわりが見て取れる。次点以降は、「老後の安心のため」「安心感や満足感のため」「将来の資産になる」などが僅差で続いた。

博報堂キャリジョ研プラス「マイホーム購入に関する調査」グラフ2(複数回答)
博報堂キャリジョ研プラス「マイホーム購入に関する調査」グラフ2(複数回答)

マイホームを購入したいと思ったきっかけは、結婚や出産などライフステージの変化や、周囲の友人などのマイホーム購入が多かった。また、「猫と暮らすための家が欲しい」「広いキレイな家に住みたい」など願望的なきっかけがある一方で、「騒音トラブルがない環境が欲しい」など、住んでいる物件の課題がきっかけになったという声もあがった。

調査でも、マイホーム購入に関して、若年女性層も強い関心があることが明らかになった。賃貸とマイホームの比較は金銭面のおトクさでしばしば語られてきたが、それだけでなく家族への想いや、暮らしへのこだわりを追求する女性たちの姿も見えてきた。中高年男性層だけでなく男女とも幅広い年齢層にとっての選択肢として広がりつつあることを実感した。

ジェンダーバイアスを持たせない母親たち 同居しない女たち 私たちの“合理的選択”
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1995年生まれ。雑誌・新聞の広告メディア領域を経験したのち、PRプラナーとしてクライアントの情報戦略、企画に携わる。だれもがハッピーに生きる社会を目指して、キャリジョ研での活動や日々のプランニングに邁進。大好きなのは高知県、もんじゃ、夏。