Drazen Zigic/iStock/Getty Images Plus
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「転勤妻」のリアル! 突然の引っ越し、孤独、キャリア断絶、子育て……その悩みと解決法

もし夫が転勤の多い職業だったら……? 夫の赴任先について行き「転勤妻」となることも多いのが現状でしょう。「海外などに住めて楽しそう」という声も聞こえてきそうですが、転勤妻本人たちからすると、人間関係やキャリアの断絶や、子育てや住まいに関して悩むなど、深い葛藤があるといいます。転勤族の妻のためのコミュニティ「kinocom(キノコム)」による電子書籍『転勤妻サポートBOOK』の発行にあわせ、転勤妻たちに特有の悩みや解決法について伺いました。
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転勤の多い夫の職業って何?

まずはこれから婚活をする女性が知っておきたい、転勤の多い夫の職業について。kinocom代表の山口由香子(通称名:きのこ)さん曰く、「製造メーカー、金融、商社は転勤が多い印象」だそうです。

山口さんの夫もメーカー勤務で、現在は2児を連れてベトナムに駐在しています。出会いは、もともと大学の先輩だった夫が卒業後に山口さんの地元である香川県に配属となり、再会して交際に発展。26歳の時に結婚しました。

結婚当初は香川県で育児に明け暮れ、働きたくても入れられる保育園がなく、もどかしい日々を過ごしていたと言います。そんな時に夫のベトナム転勤の話があり、家族で移住することに。その後、自分と同じように転勤を機にキャリアに悩み孤独を感じている人のための居場所を作りたいと、転勤族の妻のためのキャリアコミュニティkinocomを設立しました。

アオザイを着た山口由香子さん
アオザイを着た山口由香子さん=本人提供

孤独感で3週間泣き続け

一方、生まれも育ちも北海道というゆうきさんも、夫は全国転勤がある製造メーカーの営業職。彼が北海道に赴任中に、マッチングアプリで出会いました。その後、彼の東京転勤が決まり、それに合わせて婚姻届を提出し、東京移住をすることになったのです。

心のどこかで「東京に憧れがあった」というゆうきさんですが、結婚や引っ越しの様々な手続きの忙しさから解放された瞬間、友達のいない見知らぬ土地で孤独感に押しつぶされ、心を病んでしまいました。ベッドの上で3週間泣き続け、すがるようにネットを検索しているとkinocomを発見。山口さんをはじめとした同じ境遇の転勤妻たちに励まされて、現在はフリーランスでライター業などをしながら生活しています。

東京暮らしを始めたゆうきさん=本人提供
東京暮らしを始めたゆうきさん=本人提供

転勤妻が直面する悩みとは

転勤先で、妻の身に起こる苦難は「物理的な面」と「精神的な面」の両面にあるといいます。

物理的な苦労としては、「会社からの転勤宣告が直前1カ月前に言われることもあり、急いで引っ越し先の家を決めて、今の家を退去し、役所で諸々の手続き……などをこなさなければなりません。同時進行で、荷物のパッキング作業もあるので、またいつ転勤になっても大丈夫なようにと、気づけばミニマリストになりました」と、ゆうきさん。

海外転勤になった山口さんは、「車を売ったり家具や家電を処分したり、新居の家具や家電の新調もしなくてはなりません。また、子どもの転園・転校の手続きもあります。語学の壁もあるので勉強もしつつ、翻訳アプリも手放せません」と、子連れ海外転勤の苦労を明かします。

長期的な生活設計が立てにくい

精神的な苦労も様々あります。ゆうきさんは「友達がいない土地なので、ゼロから人間関係を作っていかないと、地元の生活情報も得られませんし、何より孤独です。仕事も探さなくてはなりません。私の場合は、前職は引っ越しにより辞めざるを得ず、東京で新しい仕事を探すにも、また転勤になって退職せざるを得ない可能性もあるので、在宅やリモートでできる仕事を探しました」と、話します。

これには山口さんも大いに共感しながら、「日本にいる両親や親戚、友人らと年に1度くらいしか会えないし、駐在先から帰国する友達を見送る時はとても寂しいです。インスタで日本の友達同士がランチをしている投稿を見ると、羨ましく思うこともあります」と打ち明けます。

二人は、「またいつ転勤になるかもわからないので、将来設計ができないことが大きな悩み」と口をそろえます。家を買うことや現地で仕事に就くことは難しく、資産形成やその運用にも影響します。子どもの教育面を見ても、いつ転校になるかわからないので教育計画が立てづらいですし、長期的な人間関係やコミュニティの構築も課題になってきます。

これらの悩みは、多くの転勤妻が直面する問題。kinocomでは、同じ経験を持つメンバー同士でアドバイスしたり、励ましたりしているそうです。

Hakase_/iStock/Getty Images Plus
Hakase_/iStock/Getty Images Plus

転勤妻ならではのメリット 

このように転勤妻には多くの苦労がつきものですが、メリットもあると言います。

ゆうきさんは、婚活中に今の夫と出会った際、「国内の主要都市に転勤がある会社だ」と聞いていたので、もし転勤になったとしても東京・大阪・福岡などの都市部になるという条件は、都会暮らしに憧れがあったゆうきさんにとってポジティブな要素となっていたのだそうです。

実際に夫が東京転勤になり、夫とともに引っ越したゆうきさんは、「テレビやSNSで紹介されているようなオシャレなカフェなど、最新のトレンドが一番に入ってくるのが東京! 話題の場所にすぐに行けるのがとても楽しいです」と、今では東京ライフを満喫している模様。まだ子どもはいないですが、「地元に比べて子育て環境が充実していて、学校や習い事などの選択肢が広いなと思います」と、感じているそうです。もっとも、転勤先が都市部でない場合は、状況はまた異なるかもしれません。

ベトナムに転勤となった山口さんは、「自分では行かないであろう場所に行けることは、好奇心旺盛な自分に向いていたと思います。ベトナム生活は4年目になりますが、まだまだ毎日が旅行気分! 行ったことのない飲食店でローカルフードを発見するのも楽しいですし、飽き性な自分にはこの転勤妻ライフは合っていたともいえます。また、今住んでいるホーチミンは治安が良いのも幸いですね」と。

そして、転勤を経た二人に共通するのは「メンタルが強くなった」こと。見知らぬ土地でも孤独を感じてクヨクヨせずに、まずは知り合いを増やして現地の情報を得ようと、インターネットやSNSを駆使して、どんな場所やコミュニティにも飛び込んでいくといいます。もとは人見知りだったとしても、「人と繋がらないと生きていけない」という場面もあるのだそう。山口さんがベトナムに転勤になった時は、コロナ禍で外出禁止令が出ていた時期もあって、「地元の情報がないと食料すら手に入らない」という局面もあり、友達との情報共有はとても大事な生命線だったそうです。

こうした急な転勤にまつわる変化にも適応していくことで度胸や経験値が増し、自然とメンタルが鍛えられていくのでしょう。そんな姿は、夫からしても、家庭を築く上でとても頼もしいことだと思います。

ベトナムの街中で=山口さん提供
ベトナムの街中で=山口さん提供

転勤族の子どものメリット・デメリット

では、転勤族の家庭に生まれた子どもにとっては、メリットやデメリットはどうなのでしょうか? 二人の子どもをベトナムで育てている山口さんに伺いました。

「メリットとしては、転園・転校した際に、突然クラス全員初対面の人と人間関係を構築していかなければならないという経験を、子どもの頃から学べることです。すぐに馴染めるものなのか、どうやったら仲良くなれるか、また世の中には色々な人がいて、多様な価値観がその土地ごとにあることを知ることができるのが大きいと思っています。この学びや訓練は、社会人になってからも必要なスキルでありコミュニケーション力だと思うので、役に立つであろうと期待している部分です。うちの子どもは1歳から海外に出ているせいか、違う言語や人種など、新しい環境に入っても動じないですし、その土地土地に色々な人がいて価値観の違いがあること、多様性といったことについてもスッと受け入れられています。語学の面でも、日本語圏外の世界を肌で感じられることもメリットでしょうか」とのこと。

その一方でデメリットとしては、「新しい環境で馴染めず、受け入れてもらえなかった場合に起こりうる、いじめやトラウマを抱えることが心配の種です」。今はまだ山口さんのお子さんにそういったことは起こっていないそうですが、メリットと表裏一体の部分なので、気になっているといいます。

転勤族の子どもにとって避けられない“転校”やそれにまつわる人間関係は、メリットにもデメリットにも、どちらにも作用し得ることのようです。

周囲を見てみると、子どもが小学校に上がるタイミングで、夫が単身赴任になるケースも多いとのこと。子どもの教育計画も大切なことですから、その都度夫婦でしっかり話し合い、家族にとってベストな環境づくりをしていくことが常に求められているのだと思います。

ilona75/iStock/Getty Images Plus
ilona75/iStock/Getty Images Plus

転勤妻の仕事の見つけ方

転勤妻の仕事探しについてもお伺いしました。

ゆうきさんは、「もう二度と転勤によって仕事を辞めたくないという思いから、どこでも働ける仕事をしようと思いました。その結果、現在はライティングやカウンセリングといった仕事をしています」と、夫の転勤を経て、一つの仕事に執着することなく、今の自分の環境に合った仕事を見つけていくスタンスに変わったといいます。

またベトナム移住後にプロコーチやキャリアコンサルタントの資格を取得し、kinocomの運営をはじめとしたキャリア支援をしている山口さんは、「リスキリング(新たに学んで仕事の知識やスキルを習得すること)もできるし、転職もできる時代です。キャリアが途切れたら自己肯定感が下がってしまう人もいますが、環境に合わせて仕事を見つけていくのもいいかと思います。実際、女性はまだまだ育児や家事などを一手に担うことも多いですからね。私自身は、場所や環境を選ばないリモートでできる仕事を優先しました」。多くの転勤妻を見てきた山口さんは、「仕事だけじゃない人生」という、より大きな観点を強調していました。仕事と家庭に関する考え方、価値観は人それぞれではありますが、選択肢を広い視点から考えることは大切なようです。

転勤妻に必要なスキルと心得

「転勤妻って大変そう…」というイメージを抱く読者も少なくないかもしれません。生き生きとインタビューに答えてくれたお二人に、転勤妻として生きていくために必要なスキルと心得を聞いてみました。

夫の転勤で東京に住むゆうきさんは語ります。「最も大事なスキルは、ポジティブさだと思います。転勤によって環境が変わることはもうどうしようもないので、自分のマインドを変えるしかありません。とにかく何でも楽しむこと」

maruco/iStock/Getty Images Plus
maruco/iStock/Getty Images Plus

「私の場合は、当時交際していた夫の転勤を機に、引っ越しとあわせて入籍し、転勤妻になった直後には落ち込んだこともありました。しかし、“自分の選んだ道を後悔したくない”との強い思いがあり、この選択が正解だったというストーリーにするために、転勤妻を楽しみ、“ここに住んだからこの人と知り合えた”とか“可愛いカフェを見つけた”というような、どんな小さなことでも幸せを見つけることを心掛けています」。常にポジティブ思考でいることの大切さを強調していました。

また、知り合いを増やす方法として、「たとえば美容院やネイルサロンを新規に予約する時、年齢が近く話が合いそうな女性スタッフをあらかじめリサーチして、指名して行くこともあります。実際、お店で施術してもらったスタッフさんと仲良くなって、ランチへ行ったこともあります」とも。どんな出会いもつかむ思いで行動していることがわかります。

ベトナム在住の山口さんは、「行動力が大事。ずっと引きこもっていては何も始まらないので、とにかく自分から一歩を踏み出すことです。失敗したっていいから、“人生のネタになった”くらいに軽く捉えて、人生の長いストーリーの中で面白い出来事だな、と思うことですね。それから、やっぱり今の時代はSNSを駆使して、転勤先の情報を得て、コミュニティを見つけていくことも大事です。人は一人では生きていけないのですから」とアドバイスします。

ベトナム・ハノイの街並み=山口さん提供
ベトナム・ハノイの街並み=山口さん提供

「転勤妻サポートBOOK」を創刊

転勤妻として様々な苦難を乗り越え、今回のインタビューに答えてくださった山口さん、ゆうきさん。二人をはじめとするkinocomメンバーである転勤妻9名が著者となって、電子書籍『転勤妻サポートBOOK』を、2024年2月28日に発売しました。本書では、転勤による孤独や不安を乗り越えて今よりさらに充実した、Happyな毎日を過ごすための内容がぎゅっと詰まっています。

これから転勤妻になりそうな人や悩みがある転勤妻に読んで欲しいと言います。「転勤妻になって良かった!」と言えるよう、山口さんやゆうきさんのように転勤妻として生きる人生を謳歌したい方に役立ちそうです。

■『転勤妻サポートBOOK』

形式:Kindle版
著者:kinocom 
価格:499円(税込)

「未婚の母」を選んだ女性たち それぞれの深すぎる理由 バツイチも婚活の視野に入れるべき? 離婚歴のある相手と結婚するメリット&デメリット
一般社団法人日本合コン協会会長。東京ママパーティー主宰。唎酒師。 数々の合コン・婚活パーティーやママイベントの運営に携わり、恋愛心理やコミュニケーションに精通する恋愛アドバイザーとして活動中。 著書は6冊。一児の母。