「こっち向いてよ向井くん」
「こっち向いてよ向井くん」Huluで配信中 ©ねむようこ·祥伝社フィールコミックス/NTV

【結婚観を考えるドラマ5選】向井くん、コタツがない家、逃げ恥……。令和のいま、結局「結婚」ってなんですか?

「あなたが幸せなら、それでいい。」――。結婚情報誌『ゼクシィ』(リクルート)が2023年12月に打ち出した新たなキャッチコピーだ。創刊30周年を迎え、同性カップルを広告に起用したことが話題となった。恋愛、結婚。生きていくうえで、多くの人が経験し、否が応でもぶつかるテーマでもある。結局のところ、結婚とはなんなのだろう。寒さが深まるこの季節、恋愛や結婚をテーマに据えたおすすめのドラマ5作品を見ながら、あらためて「結婚観」について考えてみたい。

結婚=幸せなのか?

■『こっち向いてよ向井くん』
赤楚衛二主演のラブコメドラマ『こっち向いてよ向井くん』(2023・日テレ系)。結婚をめぐって、印象的な持論をもつ女性が二人登場する。赤楚演じる向井悟の妹・武田麻美(藤原さくら)と、向井の元恋人・藤堂美和子(生田絵梨花)だ。

麻美は武田元気(岡山天音)と結婚し、すでに既婚者である。しかし、実家に仮住まいする二人が新居のマンションを探したり、結婚に伴う各種手続きが発生したりすることで、麻美は少しずつ「結婚」という制度そのものに懐疑的になっていく。

第2話では、結婚することで姓を変えるにあたり「なんでこっちばっかり面倒な手続きを踏まないといけないわけ?」と麻美が不満を漏らす場面がある。確かに、運転免許証やマイナンバーカードなど、姓を変更する必要のある書類は多い。

麻美は、元気のことが嫌いになったわけでも、他の人を好きになったから離婚したいと思っているわけでもない。結婚することで他者からの扱いが変わることや、制度によって夫婦関係が定義づけられることに不満を抱いている。麻美はこのことを「私と元気の間にノイズが混ざっているのが嫌なの」と表現した(第3話)。

世間に広く認知されている「理想の夫婦像」や「家族像」があるとして、その像に近づいていくことに喜びを感じる人と、疑問を持つ人がいる。麻美の場合は後者だ。自分たち夫婦がどんどん、一般的な「幸せ夫婦」になることを良しとしない。結婚にまつわる諸手続きを進めることで、自分らしさがそがれていくのを怖がっているように見える。

向井の元恋人である美和子も、結婚に対して疑問を抱く一人だ。10年前に別れた元カレである向井と再会した彼女は、中途半端な関係を続けながら、結婚とは何か?を考え始める。

その引き金を引いたのは、おそらく彼女の父親からの一言だ(第6話)。独身生活を楽しんでいる、美和子のおばのことを「孤独で、悲しいよな」と話すのを聞き、明らかに彼女の表情は硬くなった。

結婚していたら一人前で幸せ、独身だったら寂しくて不幸、といった構図は、時代が変わっても根強い。既婚か未婚か、はプロフィールでしかなく、幸福か不幸かの判断指標にはならないはずだ。結婚しているから幸せとは限らない、と知っているはずなのに、なぜ人生の“To Doリスト”の最上位に結婚が君臨していると感じてしまうのだろう。

semenovp/iStock/Getty Images Plus
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なぜ男性は結婚を怖がる?

■『コタツがない家』
安易に性別でくくるのはナンセンスだが、女性側の結婚観が強く出た『こっち向いてよ向井くん』と比較する形で『コタツがない家』(2023・日テレ系)を紹介したい。このドラマには、パートナーとの結婚に二の足を踏む男性・徳丸康彦(中川大輔)が登場する。

カフェバーでアルバイトをしながら建築士を目指して勉強中の康彦は、パートナーの八塚志織(ホラン千秋)と同棲(どうせい)中。志織は康彦と結婚したいと考えているが、康彦には結婚願望がない。しかし、志織のことは好きで、長く一緒に暮らしたいと思っている。

なぜ、志織のことが好きなのにも関わらず、康彦は結婚したいと思わないのか?  そのヒントが第6話にて明かされる。一時的に同棲を解消した康彦が、アルバイト先の店長に胸中を漏らすのだ。「結婚はめちゃくちゃ怖い」「結婚する前と後で、見えている世界が劇的に変わりそうで」と。

続けて第7話でも、主人公の深堀万里江(小池栄子)の夫・深堀悠作(吉岡秀隆)に「実際、結婚したらやれなくなること増えません?」「好きな時間まで飲んだり遊んだりできなくなるとか」と口にしている康彦。つまり、結婚することで責任が増したり、自由な時間が減ったりすることに対して「怖い」と言っているのだ。

これは、いわゆる「マリッジブルー」のように思われる。パートナーとの付き合いが長くなるにつれ射程圏内に入ってくる結婚、そしてそれに付随する責任や縛り、不自由さが「恐怖」なのかもしれない。

本当に結婚してもいいのだろうか。結婚したほうがいいのだろうか。結婚するとしたら、別の相手のほうがいいのではないだろうか。そもそも結婚とは、なんのためにするものなのか?

『こっち向いてよ向井くん』の麻美や美和子、『コタツがない家』の康彦。それぞれの結婚に対する向き合い方を比べてみると、スタンスの違いが見えてくる。

どちらかというと前者は、結婚することで変化する、自分たち夫婦の関係性に主眼を置いている。対して後者は、世間という第三者の目や自分自身の生活の変化を気にしている。これは『こっち向いてよ向井くん』での麻美のパートナー・元気も同じだ。

確かに、結婚には責任が伴う。軽い気持ちで交わしていいものではない。しかし、その責任は立場など関係なく、夫・妻それぞれが等しく負うものではないだろうか。どうしても、男性が女性に対して「責任をとって結婚する」といった構図になりがちだ。本来は、お互いが了承したうえで交わす契約が「結婚」であり、責任や不自由がどちらか片方に偏るものではないはずである。

maroke/iStock/Getty Images Plus
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意識したい「普通のアップデート」

■『逃げるは恥だが役に立つ』
新垣結衣&星野源W主演と、その後の実生活での二人の結婚も話題となった『逃げるは恥だが役に立つ』通称『逃げ恥』。2016年にTBS系で放送された大人気ドラマで、2021年には「ガンバレ人類!新春スペシャル!!」と題した作品も放送された。その中では、森山みくり(新垣)と津崎平匡(星野)の結婚後の様子や、みくりの妊娠・出産、新型コロナウイルス流行の影響についても描写されている。

事実婚関係にあったみくりと平匡が籍を入れるにあたり、選択的夫婦別姓を視野に入れつつ「どちらの姓をとるか」を話し合うシーンがある。そのほか、男性の育休取得や、二人の子どもの名前を決めるときにふと出る「生きていく中で性別が変わる場合もある」といったセリフなどは、現在でも新鮮に受け取れる。

本編にも出てくるキーワード「普通のアップデート」は、令和に生きる私たちこそ意識していかなければいけない。恋愛観や結婚観のアップデートは、終わりがないものだから。

itakayuki/iStock/Getty Images Plus
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結婚を前提にしない恋愛の行方

■『持続可能な恋ですか? ~父と娘の結婚行進曲~』
『持続可能な恋ですか? ~父と娘の結婚行進曲~』(2022・TBS系)のテーマの一つに、「結婚を前提にしない恋愛」がある。上野樹里が演じる主人公・沢田杏花は、将来、自分のスタジオを持つという夢を持つヨガインストラクター。結婚よりも、仕事や夢の実現に時間を使いたいと思っているタイプだ。

「リクルートブライダル総研」の調査によれば、2023年、未婚者のうち20代男性の約半数、20代女性の約3割が「交際経験がない」という。恋愛の価値観が変化している過渡期に差し掛かっているのを感じる。恋愛や結婚が、絶対的な「幸せの証拠」だったころもあったのだ、と懐かしく振り返る時代が、すでにきているのかもしれない。

このドラマには、30歳を過ぎても結婚する気がない娘を心配する杏花の父・沢田林太郎(松重豊)に、独身の整形外科医・日向明里(井川遙)が「結婚って、しようと思ってするものなんですかね?」と言うセリフも登場する(第2話)。恋愛や結婚よりも大切なものがあるかもしれない。パートナーが欲しい、どうしても結婚がしたいと思う自分に気づいたら、あらためて「なぜなのか?」と問うてみるきっかけになるドラマだ。

yamasan/iStock/Getty Images Plus
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夫婦だから、わかり合えるとは限らない

■『婚姻届に判を捺しただけですが』
とある目的を遂行するため、偽装結婚をする二人が登場するドラマ『婚姻届に判を捺しただけですが』(2021・TBS系)。結婚願望がない大加戸明葉(清野菜名)は、デザイナーの仕事に邁進(まいしん)しつつ「別に、一人が不幸ってことはないでしょ」と言いながら独身生活を謳歌(おうか)していた。そこから、百瀬柊(坂口健太郎)と偽装結婚をするに至る顛末(てんまつ)やドタバタ劇がおもしろいラブコメドラマである。

明葉の祖母・大加戸初恵(木野花)の柊へのセリフに「夫婦なんて、わかんないからいいんじゃない?」がある(第3話)。偽装結婚であるがゆえに、当初は共同生活さえ上手くいかない明葉と柊。しかし、たとえお互いのことを熟知していたとしても、夫婦生活がスムーズに進むかは別の話だ。

そもそも、「相手のことを理解する」とはどういうことだろう?  長年連れ添っていても、意外な面が見えてくることがある。近い存在だからこそ、打ち明けられないこともある。「わかった」と思った次の瞬間に、遠い存在に思えてしまう……。そんな関係こそ「夫婦」なのかもしれない。

時代が変わったからといって、恋愛や結婚観も自動的にアップデートされるわけではない。根気よく相手を観察し、対話を重ねていくことが大切だ。しかし、そうと頭でわかってはいても、難しいときもあるだろう。「結婚」をテーマにしたドラマをパートナーと一緒に見ることも、夫婦関係を見直すきっかけの一つになるかもしれない。

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
私らしい“結婚”