『いちばんすきな花』5話

“日陰”にいる友人への「優しいフリ」。主演以外の人物は“悪者”すぎる? 『いちばんすきな花』5話

ドラマ『いちばんすきな花』(フジ系)は、『silent』脚本の生方美久とプロデューサーの村瀬健がふたたびタッグを組む作品。多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠が主演を務めるクアトロスタイルで描かれる。テーマは「男女の間に友情は成立するのか?」。第5話では、佐藤紅葉(神尾)が抱える人間関係の苦悩が浮き彫りになった。
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ゆくえと赤田の再会が示唆するもの

家具や雑貨を取り扱う店で、久々に再会した潮ゆくえ(多部)と赤田鼓太郎(仲野太賀)。赤田は妻の峰子(田辺桃子)とともに、新婚生活に必要なものを買い揃えていた。

ゆくえが言ったように、赤田夫妻が手にしていたものは「ハッピーな買い物かご」。結婚し、夫婦ふたりでソファを見たり、マグカップをペアで買ったり。仲睦まじい彼らを見ながら、婚約破棄されてしまった春木椿(松下)とは何が違ったのか、と考えてしまう。

峰子がお手洗いに立っている間に、話に花を咲かせるゆくえと赤田。つい過去のクセで「カラオケ行く? 先なんか食う?」とゆくえを誘う赤田だが、すぐに間違えたことに気づく。それほど赤田にとっては、ゆくえとの友人関係は自然なもので、結婚を境に途切れるようなものではなかったことを、示唆しているようにみえる。

惜しむようにゆくえと別れたあと、赤田は峰子から「ねえ、分かっちゃった。さっきいた女の人」「元カノでしょ?」と聞かれる。「2人で一緒に幸せになろうね」と重ねられ、赤田は戸惑った様子を見せつつもすぐに峰子と調子を合わせた。

赤田がゆくえのことを、友人の“潮さん”だと峰子に説明しなかった理由は、明確だ。せっかく峰子がゆくえのことを「ちゃんと別れている感じ」の「元カノ」だと落とし所を見つけているのに、わざわざ友人だと蒸しかえすことは、不要な火種につながりかねない。

赤田が峰子のことを、いちばん大切にし、関係性を続けていきたいと願う限り、こうした小さなウソをつき続け、違和感を積み重ねていくだろう。その象徴が、ペアのマグカップと、ハッピーな買い物かごだ。

紅葉が打ち明けた心の葛藤

紅葉が抱える人間関係の苦悩が、閉じた箱からあふれ出すように描かれた5話。高校時代、紅葉が1人でいたクラスメートの篠宮樹(葉山奨之)に声をかけて仲良くなる描写から始まり、大人になった2人が再会するドラマチックな展開へとつながっていく。

絵を描くのが好きだった2人は、高校生当時、描いた絵を互いに見せ合っていた。まさかその後、有名になった篠宮から紅葉へコラボレーションの依頼がくるとは。見ようによってはこれ以上ない劇的な流れだが、紅葉の表情は芳しくない。

なぜ紅葉は当時、篠宮に声をかけたのか。それは、目立つグループにはいるけれど、実情はただ上手く利用されているだけの自分を、直視したくなかったからではないか。誰とでも仲良くなれる“日向”にいる自分が、1人で余った“日陰”にいる人間に優しくすることで、楽になりたかったのかもしれない。だから、「一緒にいるだけでうれしそうに」してくれる篠宮に声をかけたのではないか。

「優しいフリ、放っておけないみたいな、そういうフリして……」と紅葉が篠宮に打ち明けるシーンがある。この過程には、紅葉が抱える見えないエゴが、たくさん詰まっている。

幼い頃、1人でシーソーにまたがっている子がいれば、もう片側に座り、一緒に遊んであげていた紅葉。そんな「優しくする側」にいた紅葉のなかには、自分が上で篠宮が下という明確なヒエラルキーがあるように見える。その階層は、何よりも紅葉自身を苦しめているはずなのに。

ところが、大人になったいまは、篠宮のほうが絵の世界で認められていて、個展まで開く立場になっている。片や、自分はいまだに良いように使われる“パンダくん”で、コンビニでアルバイトをする生活だ。

このまま、篠宮の提案どおりにコラボレーションの話を受けてしまったら、温情を与えていた自分が、今度は“下側”になってしまう。おそらく、紅葉は、自分の葛藤を正直に打ち明けることで、何よりも自分の立場を守りたかったのだろう。それは、篠宮の言うように「勝手な罪悪感で、良い思い出を塗りつぶす」ことにもなるのだ。

心地良い世界の中にある「対立構造」

このドラマには、SNS上でさまざまな意見が寄せられている。しばしば見受けられるのは、メインキャスト4人(ゆくえ、椿、夜々、紅葉)以外の人物を悪者に描きすぎではないか?といった声だ。

確かに、ゆくえにとっての峰子、椿にとっての元婚約者・小岩井純恋(臼田あさ美)、紅葉にとってのアルバイト先の同僚、夜々にとっての勤め先の同期・相良大貴(泉澤祐希)など、対立構造が透けて見える感は否めない。

ドラマの性質上、視聴者は「かわいそうに描かれた人」に感情移入しやすいように思う。このドラマでの「かわいそうな人たち」はメインキャスト4人だと考えると、「それ以外の人物は悪者」という意見が出てくるのは、興味深い。4人をかわいそうな立場に見せるには、彼らを“かわいそうにさせる”悪者の存在が必要だとも捉えられる。

きっと見ようによっては、椿たち4人にも気になる部分はあるのだ。ゆくえは「他者の恋人と2人っきりでカラオケに行く常識に欠けた人」と見られてもおかしくない。椿は「恋人の話を“自分じゃなくても聞ける話”と思いながら聞く人」だし、紅葉は「飲み会をドタキャンした人」で、夜々は「顔だけが取り柄の人」だ。

もしかすると、このドラマは対立関係を濃く描くことで、視聴者に疑問を芽生えさせようとしているのかもしれない。そう簡単に答えは出せないグレーな世界で私たちは生きている、という現実について考えることも含めて。

ゆくえが色違いで用意した4つのマグカップ。4人それぞれがすきな色のマグカップを選ぶことになり、奇跡的に被らず、譲り合う場面もなかった。自分のすきなものを正直に主張していい、傷つく人が誰もいない、気持ちのいい関係。この世に生きるすべての人が、こんな心地良さのなかで生きられたらいい。それでも、そんな世界はどこか歪(いびつ)だと感じてしまうのも否めない。

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『いちばんすきな花』

フジ系木曜22時~
出演:多部未華子、松下洸平、今田美桜、神尾楓珠、齋藤飛鳥、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風 『花』
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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