中村獅童さん、40代でがんを経験。50歳になり余計なものがそぎ落とされ、「今が一番充実している」
――昨年9月に50歳になりました。
中村獅童さん(以下、獅童): 「40歳になるのは嫌だな」と漠然と思っていましたが、50歳になるときは特に何も感じませんでした。「超歌舞伎」や、絵本『あらしのよるに』の歌舞伎化や、その朗読など、これまで自分が温めてきたこと、やりたかったことを次々と形にできているからかな。2023年に公開予定の映画は、無名だった時代から、「いつかは絶対一緒に仕事をしたい」と思っていた監督にお声がけいただきました。今が一番充実していると感じています。
――40歳になるときは「嫌だな」と思ったのは?
獅童: 若い頃は老いることに怖さがあった。でも、今は老いを楽しめるようになりました。若い頃は将来のことをいろいろと思い描き、夢を持ち、悩んだり苦しんだりすることも多い。年を重ねると、思考も変わっていきます。今でも夢は持っているけど、無駄なことにエネルギーを使わなくなりました。腹をくくれるようになったこともあり、考えても仕方ないことには気力も体力も使わない。年を取って、余計なものがそぎ落とされたのかな。
人生一度きりというのは、人間すべてに平等
――40代では肺腺がんも経験しました。考え方の変化に影響していますか?
獅童: 関係あると思います。人生で起こったことは今に影響している、いいことも悪いこともすべて。それを受け止めなければ、今も未来もない。
人生観は変わったというほどではないにせよ、病気は、生死について考えるきっかけにはなりました。遅かれ早かれ、人はいずれ死んでいく。人生一度きりというのは、人間すべてに平等なこと。その中でいかに人生を充実させていくか、それは自分次第ということに改めて気づいたと思います。
感情が薄っぺらいと、簡単に見破られてしまう
――しわや白髪が増えるなど外見上の変化もあり、年齢を重ねることに不安を感じる女性も多いです。
獅童: 性別に関係なく、人の内面は外見に表れるよね。いい年齢の取り方をしている人は、内面が人相になり、美しさに繫がる。
役者も、自身を磨くことで内面が人相になり、いい芝居に繋がっていきます。演じていない時間の過ごし方や、人生観や思想の洗練のさせ方は、いつも意識している。感情が薄っぺらいと、観客の方には簡単に見破られてしまう。
若い時に外見が綺麗でちやほやされていた役者も、内面が薄っぺらければ、面白みがなくなっていくものだと思います。
――やりたいことがあっても、なかなか一歩を踏み出せない人もいます。アドバイスをするとしたらどんなことでしょうか。
獅童: 踏み出さなければ、世界は変わらない。調子がいいときは、自然といいイメージが湧く一方で、うまくいかない時は、失敗するイメージばかりが膨らんでしまう。そんな時は動かないほうがいいと思います。
僕だって失敗は怖い。歌舞伎座で2000人のお客様の前で演技をするなんて恐怖でしかない、誰も助けてくれませんから。だけど、人生は1度きりだと思うと、怖いことはないと思えるようになるものです。
中村獅童は無名役者のままだったかも…
――獅童さんは勇気を出して一歩を踏み出したから今があるのですね。
獅童: オーディションを受けることで、チャンスをつかんできた人生だから。動かなければ何も変わらないということを、身を持って知っています。一晩にしてこんなに景色が変わるのかという経験もしました。動いていなければ、中村獅童はいまだに無名役者のままだったかもしれません。
年老いたときに「あのときこうしておけば…」という後悔をしたくない。やるだけやって失敗したのだとしたら、納得もできるはず。
病気を経験したからかもしれませんが、様々な瞬間や出会いを大切にしたいと思うようになっています。その時その時のチャンスや転機を大事にしながら生きていけば、チャンスはみんな平等に巡ってくるのではないかな。つかめない人は、それに気づいていないだけ。踏み出してみれば、違った人生を味わうことができると思います。
●中村獅童(なかむら・しどう)さんのプロフィール
1972年、東京都生まれ。歌舞伎俳優。屋号は萬屋(よろずや)8歳で二代目中村獅童を名乗り、歌舞伎座で初舞台。映画「ピンポン」(2008年)では風間竜一(ドラゴン)を演じて、新人賞5冠。映画やドラマに出演する一方、デジタルと歌舞伎を融合した「超歌舞伎」では、バーチャルシンガー・初音ミクと共演するなど幅広く活躍している。
■木下グループpresents『新作歌舞伎 ファイナルファンタジーX』
出演:尾上菊之助、中村獅童、尾上松也、中村錦之助、坂東彌十郎、中村歌六ほか
企画:尾上菊之助
脚本:八津弘幸
補綴:今井豊茂
演出:金谷かほり、尾上菊之助
原作・協力:スクウェア・エニックス