テレ東×漫画家、真船佳奈さん「番組制作で培った、つまらないものを面白くする力は誰にも負けない」

telling,で漫画連載をしている現役テレビ局員の真船佳奈さん(32)。会社員として働くかたわら、Twitterなどで漫画を描いて人気を集めています。副業をすることで広がった可能性や、控えている出産というライフステージの変化をどのようにとらえているのか聞きました。

もともと漫画家を目指してたわけではなかった

――テレビ東京の社員として働きながら、漫画エッセイ「オンエアできない!」(朝日新聞出版)などを描いている真船さん。1月からは同作を原作としたアニメの放送も始まりました。そもそもテレビ局に入社して、なぜ漫画家に?

真船佳奈さん: 昔から人を笑わせるのが大好きだったから、面白いものがつくりたくてテレビ東京に就職しました。アニメ局を経て、社会人3年目から制作局でバラエティーの番組作りに携わるようになったんです。

番組制作では上手くいかないことや、変な仕事ばかりで、カルチャーショックを受ける日々。もともと何でもメモする癖があって、「こんなに変で面白い毎日を忘れないように」って絵日記みたいなものを描き始めました。

ボールペンで描き殴ったような、漫画の体をなしてない絵だったのですが、プロデューサーの佐久間宣行さんが面白がって、TwitterやInstagramで発信してくれたんです。たまたま見た出版社の方が声をかけてくださって……あれよあれよと書籍化が決まり、2017年に「オンエアできない!」が出版されました。そこから色々なWeb媒体に声をかけてもらって連載させてもらうようになりましたね。

――目指していたわけではなかったのですね。アニメ局や制作局、そして編成局とテレビのコンテンツに絡む仕事をしながらの副業。同僚の目が気になったことは?

真船: 「漫画ばかり読んでたらアホになる」と言われて育った世代なので、「漫画を描くこと自体が『ふざけてる』と思われるんじゃないか」って気持ちはありました。副業をやっている以上は、本業をしっかりやらないといけない、と。

テレビの仕事に関連して漫画を求められても、「仕事中に遊んでる」と思われたくなくて隠れて描いてたこともありましたね。

落ち込んだ時期を経て、勉強の日々

――やめたくなるような時期はなかったのですか?

真船: 2冊目の「オンエアできない! Deep」を出版したのが2020年3月で、ちょうどコロナが国内で本格的に広がり始めた時期。書店が開いてなかったので、思うように販売数が伸びませんでした。

1冊目の反響が大きかったから、その落差にショックを受けたんですよね。「描いても誰にも読んでもらえないなら意味ないじゃん」って、漫画家をやめたくなりました。
世間も、初めての緊急事態宣言が発出されて「この先の日本はどうなっちゃうんだろう?」という雰囲気。生活はガラッと変わってしまったし、毎日泣いてましたね。

そんな中でも売れてる漫画家さんもいて。上手くいってる人をSNSで見ては「なんでこの人だけ」って嫉妬していました。コロナのせいにしたかったけど、関係なかったんです。

落ち込んだり嫉妬したりしてみても、結局何も解決しなかった。「今できることをやろう」って徐々に思うようになりました。

それまではテレビ局での仕事を題材にした作品ばかりでしたが、漫画家としてやっていきたいなら、他のテーマも描けるようにならないといけない。そう考えるようにもなって、やっぱり続けたい気持ちがあるのだと気づきました。漫画教室に通って基礎を学ぼう、SNSでの発信力をつけようと決めて、実行したのが2021年。

ここで踏ん張ってなかったら、漫画家として活動を続けていなかったかもしれません。

――漫画教室に通いSNSでの発信についても勉強を重ね、さらなる飛躍を目指したのですね。

真船: これまでプロの漫画家さんが見たらびっくりするような、基本ができてない描き方をしてたんですよ。運良くとんとん拍子でデビューしたから慢心もあったし、「基本的なことを今さら聞くのは恥ずかしい」というプライドもありました。でもそんなこと言っていられないので、二つの教室に通って、長編に初めて取り組んでみたり、日常をコミックエッセイにしてみたり。イラストをアニメーションにする勉強もしましたね。

Twitterやブログに投稿するSNS漫画も、昨年は「1日1漫画は絶対にアップする」という目標を掲げて発信しました。

最近では、書籍化の話の時に出版社の方がフォロワー数をすごく気にされることも多いんです。本を買ってくれるのはフォロワーさんというファンのみなさんなので、日頃からSNSを「ファンを見つけるツール」として積極的に活用しなくてはと思いました。悪阻(つわり)がひどくて休んだ時期もありましたが、毎日発信するようになってからニュースメディアが拾ってくれたり、インタビューの依頼が来たりして。SNS全体でフォロワーさんが3万人も増えました。

――やはりフォロワー数が大事なのですね。

真船: 「テレ東の漫画家」を名乗っているから、テレ東好きがフォローしてくれることもあります。でも、やっぱり漫画が面白くないと、本当の意味でのファンになってくれる人なんていないのかな、と。

アニメ化によって、テレビ局員であることと漫画家であることはミックスされた部分がありますが、漫画家としての今後の活動は私個人の力。「テレ東にいるから大丈夫」ではなく、個人として力を伸ばしていかなければならないと考えています。

「私だからできる仕事」増やしたい

――本業のお仕事で収入は安定していると思いますが、それでも漫画家を続けるモチベーションはどこにあるのですか?

真船: 私ってプライドが高くて、恥ずかしいことや失敗したことを笑い飛ばさないとやっていけないんですよね。出来事を正面から受け止めるより、誰かに笑ってもらったほうが救われる感覚が昔からありました。
だから嫌なことが起きたときに「絶対漫画にしよう」って頭の中で構成を考えるんです。「笑っちゃいけないけど笑えますね」って人に言われて初めて、自分の中で消化できる。私にとっての漫画は、共感してほしくて愚痴を言う女子会の場と似てるかもしれません。

先日、悪阻をテーマにした漫画を描いたら、たくさんの妊婦さんが反応してくれました。コメント欄がまるで交流の場のようになっていたんです。今、コロナの影響で妊婦さん同士が交流できる場がなくなっているから、私をはじめ孤独感を抱えている人も多いみたいで。

人とつながることが難しい時代に、私の漫画がきっかけでコミュニティができるって、こんな嬉しいことないじゃないですか。求めてくれる人がいる以上は、やめちゃダメだなって。

――本業でも副業でも、真船さんだからこそできることがありそうですね。

真船: 本業の仕事が私よりできる人はたくさんいるし、絵が上手い漫画家もいっぱいいます。でも、漫画を描く時に、つまらない出来事を面白く表現してみたり、笑えるものに例えてみたりするのは得意。これはバラエティー番組の制作に携わる中で鍛えられた力で、面白さへの執念は他の漫画家に負けません。

今後は、漫画を原作としたドラマや、コラボしたバラエティー番組をやってみたいな。今までのテレビ局員ができなかったやり方で、「真船がいなかったらできなかった」という仕事を増やしていきたいですね。

“戻る場所”がある人は強い

――テレビ局の仕事も漫画家としても、多く求められていることと思いますが現在、出産を控えています。プライベートの変化はどのように捉えていますか?

真船: 出産後はしばらく漫画の更新ができなくなりそうで、不安はあります。

でも、会社の先輩に言われたのは「出産はものの見方がすごく変わるから、それを楽しんでね」ということ。今まで経験できなかったことを通して、また違ったジャンルの作品が描けるようになるのは楽しみです。

離れていくフォロワーや忘れちゃう人もいるだろうけど、それを取り戻していく過程もきっと楽しいんじゃないかな。

――妊娠・出産をすることで「仕事を諦めなければならない」と悩む人も少なくありません。そうした女性にメッセージをいただけないでしょうか。

真船: 親私の親世代は、子どもを産むと「お母さん」に専業するのが一般的だったと思います。実際私の母もそんな一人で、私は子どもながらに「お母さんはお母さんをやめたくなったりしないのかな?」「自分も子どもを産んだら、お母さんでい続けなきゃいけないのかな」と思っていました。
まさに今、私も「お母さん」になろうとしていて、子どもに早く会いたい気持ちの反面、「今まで好きだったことを諦めたりしなくちゃいけないのかな」という不安もあります。

でも、「諦めなければならないかもしれない世界」があるということは、いま“頑張っているもの”があるということ。
それは子どもができても、境遇が変わっても、言い換えれば“自分が戻れる場所”なんだと思うんです。子育てができることはとても幸せなことだけれど、子どもから少し離れたくなったり、「お母さん」の世界だけになっていることに対して恐怖を覚えたりする瞬間って、子育てをしていたらきっとある。

そういう時に“自分が自分になれる場所”があるって、すごく心強い。だから“諦めなければならない何か”がある人は、別の世界も楽しめる人なんじゃないかな。

私も「漫画」という世界にたまに寄り道しながら、頑張りたいと思っています。

■テレビアニメ「オンエアできない!」

■BSテレ東で日曜深夜1時5分~、テレビ東京で月曜深夜2時30分~
■原作:真船佳奈「オンエアできない!」(朝日新聞出版)

1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。