紺野ぶるまさん「辛いことや悲しいことを“笑い”に変えられるのが、芸人という仕事の魅力」

高校中退や引きこもり生活、母との関係、コンプレックス……。芸人・紺野ぶるまさんが5月に上梓したエッセイ『「中退女子」の生き方』(廣済堂出版)では、これまでの人生が赤裸々につづられています。「R-1ぐらんぷり」や「女芸人No.1決定戦THE W」などの賞レースの決勝常連組でもあるぶるまさんに、「芸人」という仕事についてお話を聞きました。

中退の経験を本にできたら「意味があった」と思えるのかな

――以前から「本を出したい」と思っていたそうですね。それを知った出版社から話があり、『「中退女子」の生き方』に繋がったと聞きました。なぜ本を出版したかったのですか?

紺野ぶるまさん(以下、ぶるま): 高校を中退した頃はめっちゃ時間があったので、よく図書館に行っていたんです。「失敗から立ち直る方法」「本当の自分への戻り方」みたいな啓発本をよく読んでいて。中退直後だったということもあって、そういう啓発本が心に刺さったのだと思います。

芸人になったばかりの頃、青木さやかさんの『34 だから、私は、結局すごくしあわせに思ったんだ』(光文社/2007年)を読みました。ご自身の苦悩を赤裸々に書かれていて、「こんな人もいるんだ」と元気をもらえました。それで、私もいつかそういう本を書きたいなと。自分の経験を書くことができたら、中退したことも意味があったと思えるのかなと、漠然と感じていました。

――あとがきに「当初の企画書とはまったく違う本になった」と書かれていました。元々は、どんな本になる予定だったのですか?

ぶるま: 最初は、がっつり啓発本を書きたいと思っていました。「私のセブンルール」「私をつくる33のこと」みたいな……。でも、自分の立ち位置を見つけられなくて。何万字も書いて、ゲラまできて、ほぼ完成までもっていったのに、「どの目線で、誰に向けて発信するの?」とフワフワしてしまったんです。

「これを出して、つまんないって言われたら嫌だな」と。自分が書きたいものを書いて「つまんない」と言われてもいいけれど、納得いっていないものに対してそう言われたら嫌ですよね。ネタも自分が納得してるものであれば、なにを言われても平気ですが、中途半端に出してしまったものを批判されると傷つきます。そこから思い切り書き直したのが『「中退女子」の生き方』です。

辛いことも悲しいことも「笑い」に変えられる仕事

――以前はモデルを目指していたのに、テレビでくまだまさしさんと鈴木Q太郎さんのネタを観たことがきっかけで、お笑いの世界に飛び込んだそうですね。華やかなモデルの世界からお笑いへ、その方向転換に驚きました。

ぶるま: そもそも本当にモデルがやりたかったら、結果が出なくてもいろいろな方法を考えて続けていたと思います。でもモデルの仕事に手応えを感じることはできていなかったし、あまりワクワクできていなくて。モデルをやっていて、なにが楽しかったのかを思い返すと、「変なことを言って、周りが笑ってくれた瞬間」だったんです。

――芸人になる前から、人に笑ってもらうことに喜びを感じていたんですね。

ぶるま: それはありましたね。小学校のときも、友達といっしょに漫才を披露したり、先生や芸人さんのモノマネをしていました。そういう時間が本当に楽しくて、「この瞬間がずっと続けばいいな」と思っていました。でも、チャイムが鳴ればその時間は終わってしまう。この楽しい時間が続くことはあり得なくて、これは人生の「サブ」なんだ、「メイン」は違うところにあるものだと、気づいていました。

でも、くまだまさしさんと鈴木Q太郎さんは、テレビの中で本当に楽しそうにしてたんです。笑い過ぎて、苦しそうなくらい。それを見ている私もすごく楽しくて、衝撃を受けました。「サブだと思い込んでいたものをメインにしてもいいんだ。こういう仕事があるんだ」……私のやりたいことが、お笑いの世界にぎゅっと詰まってる気がした瞬間でした。

――小学生の頃は、じっと座っていることができない子どもだったとか。そんなぶるまさんが、お笑いを続けられているのはなぜだと思いますか?

ぶるま: 確かに、なんでだろう(笑)。「披露する場」があるからでしょうか。悲しいことや嫌なことがあっても、芸人はエピソードトークにして披露することができます。それで笑ってもらえたとき、その出来事に感謝できるんです。「むしろラッキー」くらいに。

例えば、私は人生で20回以上は露出狂に遭っています。角を曲がったらいる、みたいな。この前なんて、男芸人と話しているのに、私にだけに見えるように露出してくる人がいて。お笑いをやっていなかったら、「なんで私ばっかり」と悲しい気持ちになりますが、芸人をやっていると、これも笑いに変えられます。
今回、本の中で初めて自分の病気のことを明かしました。本来であれば辛い体験ですが、ひとつのエピソードに変えられるのは幸せなことだなと思っています。

――どんな体験もネタとして「おもしろく」変えられるのは、ぶるまさんにとって大きなことだったんですね。

ぶるま: だいぶ大きいですね。私はバイトすら務まらないので、「いたずらに社会に関わっちゃいけない」という思いもあるんです(笑)。歯科助手のバイトをした時も、仕事を全く覚えられませんでした。周りがすごくいい方たちで、薬や器具を説明するノートまで作ってくれました。それを毎日見ているのに、全然頭に入ってこない。「私にはこの仕事はできない」と気づいた時、私の低いスペックの中でも「お笑い」はまだ高いほうだったんだなと。社会に出て迷惑かけるより、「お笑いを頑張ってなんとか食えるようにならなきゃ」と心に決めました。「お笑いを辞める=普通の仕事はできない」から「食えなくなる=死んじゃう」みたいな……そんな勢いでしたね。

――作家さんに「芸人に向いてない」と言われてショックを受けた経験があるそうですね。自分がやりたいことを人に批判されたり、「辞めたほうがいい」とジャッジされて悩んでいる人がいたら、どんな言葉をかけますか?

ぶるま: 「絶対無視したほうがいい」って言います。「向いてる・向いてない」は、その仕事が自分にとって「必要か・必要じゃないか」だと思うんです。おもしろくて見た目もTHE芸人で、いかにも「芸人に向いている」人でも、自分にお笑いが必要じゃなければ辞めていきます。作家に「向いていない」と言われてショックで泣いて、「もう辞めようか」と落ち込んだけれど、そのとき「辞めるくらいなら死んだほうがマシ」と思ったんです。結局11年続けてきているし、向いているかどうかは人が決めることじゃない。その仕事が「必要」かどうかは自分にしか分からないし、「必要」と思えた時点で、すごく向いてると思います。だからこそ、その仕事のために努力ができるし、成功するためにいろいろな方法を考えるのではないでしょうか。

■紺野ぶるま(こんの・ぶるま)さんのプロフィール
1986年9月30日生まれ。東京都出身。17歳のときに高校を中退。21歳で松竹芸能の東京養成所に入り、お笑い芸人の道へ。どんなお題でもすべて「ちんこ」で解く“ちんこ謎かけ"を得意とする。第38回ABCお笑いグランプリ(2017年)」、「R-1ぐらんぷり(17年、18年)」、「女芸人No.1決定戦 THE W(ザ・ダブリュー、17、18、19年)」で決勝進出。「アメトーーク! 」の“高校中退芸人"くくりに出演し、その後、「しくじり先生 俺みたいになるな!!」に“高校中退して大後悔しちゃった先生"として出演。19年4月25日、会社員の男性と結婚を発表。

『「中退女子」の生き方』

著者:紺野ぶるま
発行:廣済堂出版
価格:1,430円(税込)

フリーランス。メインの仕事は、ライター&広告ディレクション。ひとり旅とラジオとお笑いが好き。元・観光広告代理店の営業。宮城県出身、東京都在住。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。