迷いも焦りも「自分を大切にしているということ」 『ワカコ酒』主演・武田梨奈さんの考えるキャリアとは
空手も演技も“礼に始まり礼に終わる”?
――長く空手に励んでこられました。空手の経験が演技で生きている部分はありますか?
武田梨奈さん(以下、武田): 自分の中では、あまり空手とお芝居をつなげたことがなかったんです。けど、みなさんに「こういう所作は空手を習っていたから出たんだね」と言っていただくことがあります。空手で教えていただいた礼儀作法や姿勢が、「生かされているのかな」と感じます。
空手には「礼に始まり、礼に終わる」という言葉があります。お酒を飲むとき、ご飯を食べるときも、「いただきます」から始まり「ごちそうさま」で終わる。「ワカコ酒」での演技とも似ている部分があるのかな。
――ワカコを演じる上で、特に意識していること、大切にしていることはありますか。
武田: 一番に心がけているのは「段取りにならないようにする」ということ。食べる順番や、(お酒と料理がぴったり合わさり、満足した際の)決め台詞の「ぷしゅー」を言うタイミングは、台本で決まってはいるんですけど、「新鮮さ」をいつも大切にし、リアルなおいしさを表現できるように意識しています。
――シーズン1から6年。長く愛される作品に関わってきて、自身の中で変化や成長したと感じる部分はありますか。
武田: 漫画が原作の作品のドラマ化ということで、シーズン1のときは本当に探りながらのスタートでした。監督やプロデューサー、スタッフのみなさんと一緒にワカコを作り上げ、シーズンを重ねるなかで、自分の中でワカコという女性への愛情がすごく大きくなっていきました。これまでは、みなさんに頼ることが多かったのですが、いまは自分とワカコを重ね合わせて、「一緒に演じている」という感覚。長く続ける中で、自分と役とがリンクする瞬間が訪れるということを知りましたね。
――ワカコとご自身で共通点、違う点はありますか。
武田: 1番の共通点は、食べること、飲むことが好きということ。そこに一番、共感しますね。「違うな」って思うのは、ワカコは、ゆっくりと、ひと口ずつ味わうところですね。私は結構ガツガツと食べて、飲んで……となってしまうので(笑)。体育会系なところがちょっと自分にはあります。
――武田さんは来年30歳を迎えられますね。キャリアや結婚で焦ったり、揺れ動いたりする女性は多いと思います。
武田: もちろん考えましたね。私は27、28歳ころに一番感じていました。「30歳は大人の女性」というイメージがあるので、自分が見合う女性になれているのか、なれるのだろうかと……。
ただ、その辺りの年齢で結婚や仕事で、焦りが出るのは不思議なことではないと思います。「考えることは、悪いことじゃない」と29歳になって感じましたね。でも、少し大人になれているんじゃないかと前向きに考えています。しかも、自分のことを考えられるっていうことは、自分のことを大切にしているっていうことだから。
――どんな30代を迎えたいですか。
武田: どんな30歳になるかわからないですけど、楽しみ。焦りはなくなりました。あえて言うなら体のことは考えます。アクション映画をやりたいのですが、体力の限界はいつか必ずあると思います。その焦りというか、恐怖は抱えてはいます。でも恐怖だけで過ごしていても、もったいない。緊張や恐怖を楽しみながら人生を歩んでいきたいと思います。
いままでは与えられたものに一生懸命、応えていくことを心がけてきました。30歳を前にして、なりたい姿、やりたいことが明確になってきたので、それを自分でも発信したい。与えられたものだけではなく、企画したり、提案をしたり、といったこともできたらな、と思っています。
首都圏を飛び出し飛驒へ、新鮮だった撮影
――年末に放送される「ワカコ酒スペシャル」では岐阜県の飛驒地方に行かれたそうですね。
武田: 東京都内で回る居酒屋さんでは、仕事など日常に触れながら、ワカコが自分を見つめ直してお酒を飲む、たしなむという話が多かったです。今回は飛驒地方に行って、そこで出会った方々との交流や、そこで生まれた感情を表現することが多かった。色んな人たちとお芝居する時間が多く、新鮮な撮影でした。
――酒蔵にも訪れたということで、印象に残っていることはありますか。
武田: 酒蔵を12蔵回らせていただいて、本当にたくさんの日本酒を頂戴しました。今回はアドリブも重視。台本に加えて、自分で気になったことを酒蔵の方に聞いて、そこで生の声を聞かせてもらう――そういったやりとりも撮影しました。なので、ドキュメンタリーに近くなっていますね。
印象に残ったのは、酒蔵の方に「『ワカコ酒』は日本酒界の救世主だ」と、すごくうれしいお言葉をいただいたこと。若い世代はフルーティーなもの、甘いものなど飲みやすいお酒を好むことが多く、なかなか古くから伝わる日本酒を飲む機会がなくなっているそうです。酒蔵に来る人の中にも日本の若い人は、なかなかいないと伺いました。ドラマを通じて日本酒の歴史や、良いところを広めていってほしいと言っていただきました。
――プライベートでも、一人飲みやスナック巡りをしていると聞きました。いまはコロナの感染拡大で難しい面があると思いますが、どんなふうにお酒や食事を楽しんでいますか。
武田: テイクアウトやお取り寄せをすることが増えましたね。色んな地方のお酒や食べ物の“お取り寄せ”をするようになったんです。
愛媛県宇和島市のアンバサダーを私は務めているのですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で需要が大きく落ち込んでしまい、宇和島の鯛がたくさん余ってしまっているというお話を聞いたんです。そこで、たくさん取り寄せて「宇和島の鯛を食べてもらいたい」と思い、家族や友人に送りました。とても喜んでくれて、うれしかったですね。
コロナ禍で改めて気づかされたのは、おいしいものをおいしくいただけるのは、提供して下さる方のおかげということ。生産者や飲食店の方々への感謝の気持ちを感じましたね。
伝えたいのは“やらない後悔”より・・・
――武田さんはtelling,の読者と同世代です。やりたいことが見つからなかったり、踏み出せなかったりする方も多い。メッセージがあればお願いできますか。
武田: 私の場合は、やりたいことに対してはすごくまっ直ぐ。それでも、なかなか踏み出せない場合も。気後れする時には自信がなかったり、周りからどう思われるか考えてしまったり――。年齢を重ねて、そういう感情が芽生えることもあります。でも、決めるのは自分。後悔のないような選択をしたいなと常に思っています。
例えば一人飲み。私はよく友人の女性に「一人飲みをしたことなくて、怖くてできないんですけど、どうしたらいいですか」と聞かれます。私もワカコを演じる前はやったことがなかった。でも実際に足を踏み入れてみたら……「こんなに楽しいんだ」ということを知ることができた。
何事も一歩踏み出してみて「違ったな」と思えば、やめることももちろんできます。ありきたりな言葉にはなってしまうんですけど、「やらない後悔より、やって後悔した方が自分の中で納得がいく。一緒にがんばりましょう、と同世代の女性には伝えたいですね。
●武田梨奈(たけだ・りな)さんのプロフィール
1991年、神奈川県生まれ。2009年、映画「ハイキック・ガール!」のオーディションで主演に抜擢。10歳で空手道場に入門し、琉球少林流空手道月心会黒帯。主な出演作に、ドラマ「ミラー・ツインズSeason1」(フジテレビ系)、映画「三十路女はロマンチックな夢を見るか?」(2018年)、「いざなぎ暮れた。」(2020年)など。
「ワカコ酒スペシャル 飛騨酒蔵めぐり」
前編 12月29日午後11時~「飛騨牛とろける旅の夜」
後編 12月30日午後11時~「奥飛騨温泉ほどける心」
BSテレ東で2夜連続放送、NTTぷらら「ひかり TV」で独占配信