のんさんが演じる31歳独身“おひとりさま”「人間のすべてが愛おしく思える」。18日公開『私をくいとめて』

31歳独身の“おひとりさま”女性を描いた映画『私をくいとめて』が12月18日から、「ヒューマントラストシネマ渋谷」など全国で公開されます。脳内に相談役「A」が存在する会社員・黒田みつ子(31)を演じるのは、多方面に活動の幅を広げる女優で「創作あーちすと」のんさん(27)。映画の魅力や役作りで工夫したことなどを聞きました。

脚本読んでワクワクした

――おひとりさまライフに慣れすぎたみつ子が、林遣都さん演じる年下の営業マン・多田くんに思いを寄せるというストーリーです。大九明子監督の脚本を初めて読んだとき、どのように感じましたか?

のんさん(以下、のん) :シリアスなシーンでも皮肉なユーモアがにじんでいて、どうやって解釈しようかなって、ニヤニヤしながら読みました。みつ子って、自身のいいところも悪いところも全部さらけ出しているんですよね。そのすべてが愛おしく思えて、人間のだめな部分も肯定できる。そんな作品だなって感じました。

――「多田くん、どう思ってるのかな」など、まるで独り言のように脳内の相談役「A」と会話しているシーンが多かったですね。脚本の時点で、不安はありませんでしたか?

のん : 不安はなくて、むしろ楽しみでした。みつ子とAのやりとりがすごく面白かったので、楽しんでやりたいな、とか、どうやって自分なりに表現しようかな、とか。広がりがあって、ワクワクしましたね。

みつ子と一緒で、感情を表に出すのが苦手

――のんさんと、みつ子の共通点を教えてください。

のん :ひとりになった時に浮かれたり、喜んだり、思いっきり落ち込んだりしてすごく開放的になるのに、誰か人がいるとめちゃくちゃ抑え込む。平気なフリをするところが、自分と似ていると感じました。最近は薄れてきたけど、もともと「喜んでいるところを見られたくない」みたいな気持ちがあって、ポジティブな感情を表に出すのが苦手なんですよね。

――ちょっと意外な感じがします。恥ずかしいんですかね。

のん :そうですね…「なんでかな」って考えてみると、思い当たることがあって。昔、学校の給食の時に、みんなしゃべらないで食べることに集中してて。すごく静かな中でカチャカチャと音だけがしている。「おいしい」とか言わなくて。地域性だったのかな。
だから「かわいい」みたいに相手を褒めるようなことを言うのが、恥ずかしい。友達と罵り合うようなコミュニケーションをして、それが「仲良し」みたいな感じでした。そういう環境で育ったからか、浮かれたり、喜んだりという感情を表に出すことに照れるんですよね。
みつ子とは状況が違うかもしれないけど、自分の中のその部分は役作りの“とっかかり”になったのかなと思いました。

――相違点はありましたか?

のん :みつ子の方が、うまいこと感情を隠していると思いましたね。あとは、会社に勤めてOLとして働けているところが、私とは違って。尊敬してる部分です。私はアーティストとしての道しかできない気がしているので、会社に勤めてしっかり働けるというのはとてもあこがれます。

“おひとりさま”を楽しむ感覚も大切に

――役づくりで工夫したことはありましたか?

のん :みつ子の拭えない痛みはどこにあるのか。台本や、綿矢りささんの原作を読みながら、探していました。大九監督が書いたみつ子のセリフとその裏にある感情を、原作を読みながら解釈したりして。あとは、みつ子が好きそうな雑誌を買ったり、カフェの本や旅行の本も読んだり。おひとりさまを楽しむ感覚を持つことも、大切だと思いました。

――自分なりにこだわったシーンはありますか?

のん :映画の後半、ホテルの廊下で感情を爆発させるシーンがあるのですが、結構慎重に演じました。大九監督からは、「Aを殺しに行くような、Aに仇を取りに行くような感じで向かっていって」と言われていたので、それも大切にしつつ。
感情が「うわー」ってなっているところって、人に見せられない部分じゃないですか。だから、あまりエキセントリックな感じになりたくなかった。みつ子って、感情が爆発してるのさえ、かわいく見えるタイプなはずなのに、悲惨なかたちで表に出ちゃうシーンなんですよね。見ている人が「みつ子、分かるよ」って共感してくれるような、かわいげのある爆発の仕方をしたい。自分なりにそう考えて演じました。

――映画を見る人に伝えたいことを教えてください。

のん :「もしかして私はみつ子かもしれない」と思う人は、この映画を見ると気持ちが解消されるかもしれません。みつ子が代わりに感情を爆発させてくれるので(笑)。今まで人に隠していた部分を認められるようになったり、愛おしく思えるようになったりする作品だと思います。この映画が、あらゆる選択に迷っている女性たちの背中を押し、その女性たちが自分を肯定するきっかけになれば嬉しいです。

●のんさんのプロフィール
1993年生まれ。兵庫県出身。肩書は「創作あーちすと」。アニメ映画「この世界の片隅に」で主人公・すず役で声の出演。2017年には音楽レーベル「KAIWA (RE) CORD」を発足。歌手、芸術家など女優業以外の活動にも力を入れている。

『私をくいとめて』

原作:綿矢りさ「私をくいとめて」(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
監督・脚本: 大九明子
出演: のん、林遣都、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり/橋本愛
配給:日活
12月18日(金)公開

1989年、東京生まれ。2013年に入社後、記者・紙面編集者・telling,編集部を経て2022年4月から看護学生。好きなものは花、猫、美容、散歩、ランニング、料理、銭湯。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。