腸内フローラを整え、目指すは腸美人!ストレスで不調のあなたへ伝えたい「腸」の重要性

新型コロナウィルスの感染拡大により、多くの人が外出を控えている今年。ストレスや運動不足で便秘になる人が増えているそう。ほかにも太りやすく痩せにくくなったり、肌荒れが気になったり・・・。これらの症状は、腸内環境の悪化が影響しているかもしれません。「大腸活のすすめ~腸は自分で変えられる」(朝日新聞出版)の著者で 帝京平成大学教授の松井輝明さんに、お話を伺いました。

腸内フローラの働きと役割とは?

――今年はコロナによる外出自粛での運動不足やストレスから、便秘に悩む人も多いと聞きます。

松井輝明さん(以下、松井): 運動をしないと腸が動きにくくなり、結果として便秘になりやすくなります。便秘になると、腸内環境が悪くなり、大腸の劣化が進みます。そして老廃物がうまく処理できなくなり、肌トラブルや肥満につながるのです。
腸内環境の悪化は、がんなどの生活習慣病や認知症など、さまざまな病気のリスク要因にもなります。

――なぜ腸内環境が悪化すると、トラブルが多発するのでしょうか?

松井: 私たちは、体内で発生した有害な物質の70%を便として排出します。腸内が健康な場合はいいのですが、便秘になると、便がたまったままになる。そして、腸内で腐敗が進み、有害物質が発生します。一部は肝臓で解毒されるものの、有害物質は血液にのって全身へと運ばれ、汗とともに体外に排出される。これが体臭や口臭の原因になるとされています。自分では気にならなくても、意外とまわりから「体臭や口臭がきつい」と思われているかもしれませんよ。

腸内環境を整えることで、便秘が解消されると、消化吸収がよくなることで必要な栄養分が全身に行き渡るようになります。すると肌つやがよくなり、新陳代謝が活発になり、免疫力もアップします。体臭や口臭も自然と気にならなくなりますし、肥満体質も徐々に改善されます。そのためにも、まずは腸内の環境を整えることが大切です。

――「腸内フローラ」という言葉はよく耳にしますが、どのようなものですか?

松井: 私たちの腸内、特に大腸には1000種類、40兆個以上もの細菌がいます、長さ1.5~1.6m、重さにすると1.5~2Kgもの大腸内に腸内細菌が棲んでいます。人の細胞数約37兆個より腸内細菌の数の方が多いと聞くと、びっくりする人も多いんじゃないでしょうか。それらを顕微鏡で覗くと、植物が群生している「お花畑=フローラ」のように見えることから、「腸内フローラ」と呼ばれるようになりました。
腸内の健康のためには、この腸内フローラの細菌バランスが整っていることが大切です。

日和見菌、善玉菌、悪玉菌 腸に潜む細菌たち。

――「腸内フローラ」の細菌バランスが整うとはどういうことですか?

松井: 腸内フローラは大きく分けると、善玉菌・日和見菌(ひよりみ・きん)・悪玉菌に分けられ、それぞれが大腸内で勢力を保ちながら存在しています。この理想的な割合は善玉菌が20%、悪玉菌が10%、日和見菌が70%なのです。

善玉菌は主に、消化しにくい食物繊維などをエネルギー源にして、腸内を活発にする「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」を作り出し、腸のバランスを整え、働きをよくします。消化吸収力、免疫力を高める働きをするのが特徴ですね。これに対して悪玉菌は、タンパク質や脂肪などをエネルギー源にし、腐敗により人間に有害な物質を作り出します。この有害物質が増加し過ぎると大腸の劣化を引き起こし、血液を通って全身に運ばれることで健康にさまざまな影響を及ぼすのです。

日和見菌は、善玉菌、悪玉菌のどちらかが優勢になると、優勢なほうに味方する菌。つまり、悪玉菌が優勢になると、日和見菌は悪玉菌の味方をしてしまう。その結果として腸内環境はより悪化することになります。

――下痢や便秘が起こるのは、悪玉菌の影響なんですね。

松井: そうです。現代の日本では、食習慣の変化などにより、食物繊維の摂取が減少しています。さらにタンパク質や脂質を多く摂るようになったため、腸の働きを整える「短鎖脂肪酸」が不足し、高齢者のみならず若年者の大腸劣化が進行していると指摘されています。

「善玉菌を増やし、悪玉菌を減らすことが重要だ」と言われていた時期もありましたが、検査法の進歩により、今では善玉菌・悪玉菌にこだわるより、多くの種類の細菌がいる方が良い。つまり腸内も多様性を持つ方が体にいい働きをすることがわかっています。人間社会と似ていますね。

腸は考える? 脳と腸の不思議な関係

――ところで、強いストレスを感じると胃腸の調子が悪くなることがありますよね。逆に胃腸の調子が悪いと、脳に悪影響があると聞きます。腸と脳にはどんな関係があるのでしょうか。

松井: 脳は身体や心の働きの中心。そして腸は第二の脳と呼ばれています。実は腸には、脳に匹敵する神経細胞が存在しています。この細胞神経が、脳と連携しながら胃腸の働きを自律的に調整しているのです。このように腸と脳が、神経系を中心として内分泌・免疫因子を介してやり取りするのを「脳腸相関(のうちょう・そうかん)」といいます。

脳に強いストレスがかかると、お腹の調子が悪くなることが典型例ですね。逆に、お腹の不調が脳の働きにも影響します。お腹の調子が悪いと元気が出ないのは、こうした理由によります。

最近、お腹の症状を訴えるのに内視鏡などの検査をしても病変が見つからない病気が世界中で増えています。このような病気を「機能性胃腸症」と言い、主な原因はストレスです。この「機能性胃腸症」は、脳腸相関の代表的な疾患の1つです。新型コロナなどで、気づかないうちに過度のストレスが脳にかかることで、お腹の不調が続いている人も少なくないでしょう。

腸内フローラが“強いストレス”で「悪化」

――ストレスが影響しているんですね。

松井: 腸と脳は、私たちが思っているよりもずっと強いつながりがあります。腸は、感覚神経・運動神経の一つである「迷走神経」や、ホルモンを通じて、脳と密接にやりとりをしています。ストレスを感じたりなどすると、交感神経が優位になって腸の動きが悪くなり、不眠や便秘になります。こんなときは、ストレスを和らげるために好きな音楽を聴いたり、テレビをみて笑ったり、電話やSNSで誰かとコミュニケーションを取ったり、運動をしたり――。ストレスを少なくする生活を送ることが大切です。

腸活でダイエット!腸内細菌「デブ菌」と肥満の関係

――最近「腸活ダイエット」が注目を集めています。腸内細菌は肥満にはどのように関係しているのですか。

松井: 肥満と腸内環境は明確に関係しています。「そんなに食べていないのに、体重が落ちない」「体重が増える一方」という人は、腸内の菌バランスが良くないのかもしれません。さきほど話した腸内の「日和見菌」。この日和見菌には、痩せている人の腸内に多い「ヤセ菌」と、太っている人にたくさんある「デブ菌」があることがわかってきました。「バクテロイデス門」と呼ばれる「ヤセ菌」の細菌が多いとやせた体型になり、反対に「ファミキューテス門」という「デブ菌」が多くあると太った体型になりやすいのです。ちなみに、「ヤセ菌」は善玉菌に、「デブ菌」は悪玉菌につきやすい性質を持っていることもわかってきました。

腸内フローラを移植すると――

肥満と腸内細菌の関係についてのある研究では、双子姉妹の腸内フローラを無菌マウスに便移植する実験が行われました。2匹のマウスの食事の量と運動を同じにして観察したところ、やせ型の姉の便を移植したマウスの体重に変化はなかったものの、肥満気味の妹の便を移植したマウスは肥満になりました。つまり、同じように生活をしていても、そもそもの腸内フローラによって、太りやすくなっている可能性があるのです。

――「デブ菌」と「ヤセ菌」の違いで体形が変わるんですね。

松井: 幸いなことに日本では、海藻や穀物を多く摂取されてきており、「ヤセ菌」が優勢です。だから適切な食生活を続ければ、肥満になりにくく健康な大腸を保ちやすい。しかし、最近の日本人の食生活は欧米化しています。また若い女性を中心に過度なダイエットをする人も。これらは私たちの腸内に多くの「デブ菌」を増殖させることにつながります。

サプリで腸内フローラは整う?

――「腸内フローラを整えるサプリを摂取すればいい」という話もありますが、効果はありますか?

松井: 食生活の欧米化などで食事だけでは十分な効果が出ない場合を考えると、腸内環境を整えるためのサプリを上手に活用するのも手です。サプリも色々な種類が出ていると思いますが、重要なのは継続すること。私たちの腸内細菌槽は2週間で替わります。そのため、サプリを飲むことで整ってきた腸内環境が、すぐに止めると元の腸内細菌槽に戻ってしまいます。それを考えると、食事の補助としてサプリを飲む場合は継続すること。そして大切なのは肉中心の欧米式の食事から、穀物類や海藻類を中心とした日本人本来の食事に戻すことが大切です。

おすすめの食べ物とは?…「食」で整える

――具体的にどんな食事にしたらいいですか?

松井: 腸内環境を整えるために大切なものの一つは食物繊維です。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2020年版)では、女性18 g以上、男性21 g以上(ともに18~64歳)を食物繊維の1日の摂取目標量として定めています。しかし現状は1日で食物繊維は14g前後しか摂られていません。とりわけ10~40歳で摂取量が少ないと報告されています。

――意識して摂らなければいけないですね。

松井: そうです。水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の理想的な比率は1対2。そして食物繊維は人の消化酵素で消化されないため、消化も吸収もされずに大腸に届いて作用します。

水溶性と不溶性、双方の食物繊維をこの食品で!

食物繊維のうち、海藻類や大麦・納豆などに含まれる「水溶性食物繊維」は腸内の善玉菌のエサになり、腸活に重要な短鎖脂肪酸をつくります。一方、キノコ類やキャベツ・レタスなどに含まれる「不溶性食物繊維」は便の量を増やしますので、腸の掃除に役立ちます。だから食事では、双方をバランスよく摂ることが重要です。納豆、オクラ、わかめ、なめこ、レタスなどを使ったサラダや、キャベツ、大麦とキノコを使用した使ったリゾット等々――。食事で意識して摂取するようにします。

腸内を活性化させるためにヨーグルト?

――ヨーグルトも摂ったほうがいいですか?

松井: 腸活のためには、乳酸菌やビフィズス菌が入っているヨーグルトを積極的に摂取したほうがいいですね。ただ、ヨーグルトならどれでもよい、というわけではありません。一人ひとりの大腸に生息する菌は千差万別。相性のよい菌を摂取し、効率よく活性化させることが大切です。

目安としては、2週間同じヨーグルトを食べ続けて、おなかの調子がよいという手応えが得られれば、そのヨーグルトは自分の大腸に合っていると考えることができます。それを食べることを習慣にすれば、大腸内で短鎖脂肪酸が効率よくつくられ、大腸劣化の予防につながります。たとえ菌が、胃酸や胆汁で死滅したとしても、死菌が腸内の常在菌の餌になったり、腸内環境を酸性側に変えてくれたりして、善玉菌の生活しやすいい環境になる。つまり、悪玉菌の過剰な増殖を抑えることができるのです。

「腸内フローラ」の検査方法は?

――年齢によってどのように変化しますか?

松井: 一般に加齢に伴って腸内環境が悪化。善玉菌(ビフィズス菌)が減少し、悪玉菌が増加します。バランスが崩れると、腸の老化につながります。最近は生活習慣の乱れが影響し、実年齢より腸年齢が高いという人も珍しくありません。逆に、長寿と言われている人の腸内細菌槽には、若い人と同じくらいのビフィズス菌があることが知られています。腸年齢を若く保つことは、健康寿命を延ばすことにもつながります。そのためにも、自分の腸内環境を知っていくといいですよ。

――腸内フローラを検査することはできますか?

松井: 自分の腸内細菌についてより詳しく知りたいのであれば、消化器内科などで検査を受ける方法もあります。保険適応外ですので1回3万円前後の費用がかかりますが、健康にとって有用性の高いデータが得られるでしょう。通常40兆個以上ある腸内細菌が自分にはどのくらいあるか、種類はどうなっているかなどを調べることは、健康維持のためにも大切です。万病のもととなる大腸劣化を放置しないようにしましょう。

今こそ、腸内環境を見直すべき

――腸内環境は、思った以上に健康に影響を与えるものなんですね。

松井: たとえば「便秘くらいたいしたことはない」と思う人もいるかもしれませんが、新型コロナで便秘になりがちな今こそ、腸内環境を見直すチャンスです。高齢化が進む中、健康で長生きするためには、腸内環境を良い状態に保てば、肥満を防ぎ、便秘の改善にもつながるなどの好影響があります。腸内環境が整えば、肌の調子も整ってくるでしょう。

繰り返しになりますが、大腸劣化を予防・改善するためには、善玉菌を増やして「短鎖脂肪酸」を増やすことが重要。そのためには食物繊維を摂取することが最も効率的です。‟やせ菌”といわれる善玉菌そのものを摂取することも有益ですが、その際に食物繊維を一緒に摂取しないと、善玉菌を増やすことができません。腸内を活性化させるためにヨーグルトを食べ、食物繊維を多く含んだ大麦や海藻類、キノコ類、などを積極的に摂ることで、大腸劣化を防いだり、改善したりしましょう。

20代、30代のうちから意識して腸内環境を整えておくことはとても大切です。腸内環境が整うと、体全体が健康的になってきます。

※編集部注
日本人と欧米人の腸の長さは同じだが、便の量は平均で日本人が200g、欧米人は150gとされる。ちなみに50年前の日本人の食物繊維量は一日約20gで、当時の便量は400g。現在の食物繊維量一日12g前後だ。便量は食物繊維の摂取量で決まるという。

●松井輝明(まつい・てるあき)さんのプロフィール
帝京平成大学教授。日本大学医学部卒業。医学博士。日本大学板橋病院消化器外来医長、日本大学医学部准教授を経て現在、帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科 健康科学研究科 健康栄養学専攻長 教授。日本消化器病学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医、産業医。消化器一般、機能性食品の臨床応用を専門に研究。著書に「大腸活のすすめ~腸は自分で変えられる」(朝日新聞出版)など。

大腸活のすすめ 腸は自分で変えられる 日本人の大腸は「劣化」している!

著者:松井輝明

定価:1430円(税込)
発行:朝日新聞出版

明治大学サービス創新研究所客員研究員。ミリオネアとの偶然の出会いをキッカケに、お金と時間、行動について真剣に考え直すことに。オンライン学習講座Schooにて『文章アレルギーのあなたに贈るライティングテクニック』講座を開講中。