「自分らしさを取り戻すには、周りの声を遮断する時間を作ること」山口紗弥加さんが見つけた、自分の真実の欲望とは

11月18日よりテレビ東京ほかで放送が開始されたドラマ『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』。離婚後、ひょんなことからマッチングアプリをはじめた38歳の主人公がそのめくるめく世界にハマっていく記録をコメディタッチで描いた作品です。主人公の松本チアキを演じるのは、女優の山口紗弥加さん(40)。自身にとっても転機だったという「38歳」の頃について、お話をうかがいました。

体力のいった「夜の営み」のシーン

――まず、撮影を終えて、現在の心境を教えてください。

山口紗弥加(以下、山口): 疲れました……。もう本当にヘトヘトです。この作品に入る前に「持っているもの全てをさらけだす」と決めていました。命を使い切ろうと。それは果たせたなという感じです。

――演じていて印象的だったシーンはどこですか?

山口: やはり男性陣と“営む”シーンでしょうか。こんなにも体力が必要なのかと。汗だくになって相手の俳優さんと「こうしたらきれいに見えるんじゃないか」「こうした方が勢いがつくんじゃないか」と試行錯誤しながら場面を作っていきました。他の作品ではあまり見かけないような、可笑しみをもったラブシーンになっていると思います。
ラブシーンって、意外と滑稽で、そんなに神秘的なものじゃない(笑)。そういう「生っぽさ」を交えて描けたらいいねと制作陣と話していました。目指したのは「あ、そういうのあるよね」というリアル感と「そんなのアリ?」のフィクションとの境目。そこを楽しんでいただけたらうれしいですね。

(C)「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」製作委員会

――山口さんが演じたチアキはどんな女性ですか?

山口: 40代という人生の本番を目前にして、急に不安感を持ってしまった迷える子羊、です(笑)。大袈裟にいうと…日々を生き抜くために、ちょっとした“心の潤い”や幸せ探しをしているような女性です。
38歳ってとっても不安定な年齢。もうアラフォーなんだけど、ギリギリ30代で、40代を迎える心構えもできていないし、30代にしがみつきたくもある。女性としての幸せだったり、自分にとっての仕事、家族のことなどをもう一度見つめ直してみる年齢なんだと思います。
チアキ自身もまさにそうで、そういう時期に大親友からマッチングアプリを紹介され、未知の世界が広がっていくという大冒険記です。
私は共感どころか、心臓をグサリグサリ、何度突き刺されたかわかりません(笑)。チアキの言葉、選択が、恐れながらもなんとか前進していた38歳当時の私を見ているようで…いつのまにかチアキに没入していました。いま感じている疲れは、全力で演じた証だと信じています。

ドラマの中盤、チアキにとってのひとつの転機が訪れます。
その場面は、やっぱり自分の人生の主役は自分だと、この命を使い切る覚悟で生きていこう。人生を、愉しむ。と誓った瞬間だととらえ、演じました。

38歳は、苦しい年だった

――山口さんご自身も38歳は人生の岐路だったとか。具体的にうかがえますか?

山口: 38歳になる少し前、女優として、私に何が表現できるんだろう、していけばいいんだろう、そもそも私は何かを伝えることができているのか、そして私に今更何かを求めてくれる人がいるんだろうかという思いが巡っていました。私の仕事は代わりの人がたくさんいる。それは代役を引き受けた経験から痛いほどに理解していて。いかにおもしろがってもらえるか、ということに悩み、実は本当に苦しかった。
やりがいや生きがいというものを見失いかけていた時期のような気がします。

そんな時にドラマ『モンテクリスト伯』で“毒妻“の役をいただきました。
今までどこかで「この役だったらここまで。これ以上はやりすぎだ」とブレーキをかけていた保守的な自分がいましたが、そういうものを一回取り払ってみて、いけるところまでいってみようというのが、ひとつの目標だったんです。
そんな思いで演じてみたら、共感してくださったり、おもしろいと言ってくださる方が現れて、世界が少しずつ広がって、次々と新しいドアが開いていきました。
その結果、38歳ではじめて、連続ドラマの主演のお仕事をいただきました。

必死に足掻き続けて、諦めなかったら、光ってみえてくるものが必ずある。何かを見つけることができると知ったのが38歳。その時の自分をチアキに投影しています。

――チアキはマッチングアプリがきっかけでスイッチが入り、かなり奔放に男性との交流を楽しむようになります。そのようなキャラクターを山口さんは率直にどう思われましたか?

山口: 表面的には奔放な姿に映るかもしれないですが、もともとチアキの男性経験は元夫だけだった。長い結婚生活も経て、気づけば30代後半だった…ということなので、未体験のめくるめくときめきに、無邪気にはしゃいでいるだけなんだと思うんです。就職氷河期世代に育って、自由が効かないなか現実になんとか折り合いをつけて生き抜いてきた人が、マッチングアプリを通して自分のことをきれいだとか、かわいいとか褒められて、わかりやすく認めてもらい、求めてもらって。きっと誰の中にもある、承認欲求を満たされる喜びを知ってしまったんですよね。
そこから、ちょっと浮ついた時間が流れていくんですけど。いろんなことを我慢したり諦めてきた人って、どこかで「たががはずれる瞬間」があってもおかしくないと思うんです。罪を犯しているわけでもあるまいし、それくらい許してあげてよ、って思っちゃう。私もチアキの気持ちがすごくわかります。

(C)「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」製作委員会

――ただ奔放に楽しく、というわけではないということですね。

山口: チアキがなぜ年下男子ばかりを選んでいるかにも理由があります。同年代だとその先に結婚を意識してしまって、相手に何か重たいものを背負わせてしまうかもしれない。けれど、年下ならそういうこともないだろうし、相手が自分に期待することもない。“責任を負わせない”というチアキなりの気遣いがあったのではないでしょうか。
奔放に遊んでいるように見えて、実はいろいろなものを守りながら、互いに傷つかないよう配慮したりという感情は持ち合わせているんですよ。
自己責任、自業自得の世界で、きちんと自分の意思で選択して遊んでいる、そういう女性だと思って演じています。

(C)「38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記」製作委員会

自分の真実の欲望を受け入れて

――telling,は20代後半~30代後半の女性向けのwebメディアです。キャリアや結婚、出産など、周りの人と足並みが揃わなくなる中で、自分らしくいつづけるために、山口さんが心がけていることを教えてください。

山口: 周囲の声を遮断する時間を作る。一切の連絡を絶って、自分自身の欲求に正直になる時間を作る、それだけです。この作品でひとつテーマになっている「自分の奥底に眠る真実の欲望」を知って、受け入れることはとても大切な行為だと思います。
そのために情報をシャットアウトする。それでも心がざわつくようなら一切をシャットダウンすることも、私にとっては必要です。

――ひとりで考え込むと、煮詰まったりしてしまわないでしょうか?

山口: そういう時は、外に出ます。私は神社が好きなんですけど、境内をぐるぐる散歩して森林浴をしているだけでもすっきりするんですよね。研ぎ澄まされる感じ。
煮詰まった時は自然の中に身を置くようにしていますね。

――最後に、作品の見どころを教えてください。

山口: 人の一生の数十年分を3カ月という短い時間にぎゅっと凝縮したような作品です。
私の身体の内外で起こっている変化なども全部生々しく映っていると思うので、たとえば、目がくぼんでいくさまなど、高揚する気持ちに反して消耗し疲弊していく姿まで、あますことなく観ていただけたらうれしいです。

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。