伊藤万理華さん「この時期だからこそ、ひとりじゃないと思ってもらいたい」

劇作家の根本宗子さんが作・演出を務める舞台「もっとも大いなる愛へ」が11月4日〜8日、下北沢本多劇場で完全無観客で生配信上演されます。今回の作品は出演者が本番まで一度も顔を合わせず、リモートで稽古を行う実験的な要素も込められているそう。主演を務めるのは、女優の伊藤万理華さん(24)。台本を読んだ時に「これは自分の物語だ」と思ったという伊藤さんに、お話をうかがいました。

今やるべき作品に、当て書きをしてもらった

――今回の公演は劇場から毎日の生配信上演に加え、出演者の稽古も稽古場を用いずすべてリモートで行っているそうですね。「リモート稽古」と聞いた時の感想はどうでしたか?

伊藤万理華(以下、伊藤): 「え、リモート!?」と率直に思いました。最初にオファーをいただいてから稽古開始まで数カ月あったのですが、稽古が始まる頃にはもう少し世間も落ち着いていて、みんなで集まってやるんだろうなと思っていたので。
主宰の根本(宗子)さんからリモート稽古への思いを聞いて、全部受け止めてやるしかないと思いました。

――根本さんからはどんなお話があったんですか?

伊藤: 稽古をリモートでやるというのを逆手にとった実験的企画だということや、毎回本番後に役者たちと行う「ダメ出し」まで配信してお客さんに観てもらうという挑戦の意図を丁寧に説明してもらいました。

――ある男女と、ある姉妹の、それぞれの物語が交差していく作品です。台本を読んでどんなことを感じましたか?

伊藤: オファーを受けた頃のプロットも少し見せてもらっていたので、そこからコロナなどいろいろなことを経てこの台本になったのだと思いながら読んだら涙が出てきました。
いかにこの自粛期間中に根本さん自身が苦しんだのかを、想像ですが、私なりに感じました。自分自身とすごく重なる部分があったんです。私が演じる役だけでなく、ほかの役の気持ちもすごく理解できて「これは、今やるべき作品なんだ」と思いました。

今回の役は当て書き(その役を演じる俳優をあらかじめ決めてから脚本を書くこと)していただいているのですが、私、当て書きで演じるのが初めてなんです。代えが利かない存在ということですよね。だからこそ肩の力を抜いて演じたい気持ちもある一方で、重大な責任を感じています。
でも台本を読んで、根本さんと話しをして、「自分が演じる理由」みたいなものがなんとなくわかった気がして、なかなか経験できないこの機会を大切に演じたいと思うようになりました。

稽古では「力を入れないで」と言われました。せっかく「私の言葉」を想像してセリフを書いてくださっている台本だから、フィルターを通したり、役を作りすぎてしまうよりも自分が素直に思ったかたちで表現したいです。

――今はどんな気持ちで稽古に臨んでいますか?

伊藤: 「私が台本を初めて読んだ時の気持ち」がお客さんにも伝わるといいなと考えながら稽古をしています。なんとなくどんよりし続けているこの状況の中、台本を受け取った当時私自身もダウナーな状態でした。だからこそすごく響きました。「これは自分の物語だ」と思った作品です。お客さんにも、一つひとつのセリフが自分に向けられているような気持ちになってほしいです。
なかなか気持ちを保つことが難しいこの時期だから、「自分ひとりじゃないんだ」と思ってもらえたらうれしいです。

「愛」とは「欲しているもの」

――根本宗子さんのお芝居はセリフ量が多く、特に今回も「言葉を尽くす」ことがテーマになっていますが、伊藤さん自身は「言葉を尽くす」ことは得意ですか?

伊藤: 自分の中でまとまってない状態でしゃべってしまうことが多くて、インタビューなどでも途中で「どんな質問でしたっけ」となることもあるんですけど……(笑)。それだけに、相手に考えが伝わってるのかなと悩むこともあります。その場では会話は成立していたのかもしれないけれど、時間が経ってから「あの時の相手の一瞬曇った表情って……」と考え出して止まらなくなってしまったり。
私の言葉で相手が落ち込まないでほしい、なんとか楽しんでほしいという気持ちがあるから、様子をうかがいながら話している時もあります。みんなそうなのかな。でも、私は過剰な方かもしれません。

――作品のタイトル「もっとも大いなる愛へ」の「愛」という言葉を聞いて今想像するのはどんなことですか?

伊藤: 「欲しているもの」です。友達や恋人や家族、人間関係といってもさまざまなかたちがありますが、そんな中で、ちょっとしたことを気にかけ合ったりすることも「愛」だと私は思います。
日本語の「愛」ってすごく重く感じられる言葉ですが、でも、特に今の時期、大小を問わずみんなが欲しているものではないでしょうか。少しでもそれを感じられた時に、安心できるものだと思います。

――伊藤さんは女優業以外にも、漫画家やデザイナーとコラボした個展を開くなどアートの場でも活躍しています。アートの世界で活動をしようと思ったきっかけを教えてください。

伊藤: 単純に「物作り」が好きで、職人やクリエーターの方の仕事をそばで見るのも好きなんです。お仕事を拝見してもその方の全てを理解できるわけではないけれど、その道のプロへのリスペクトがあるので、いろんなお話を聞いてみたかったんです。
そのためには一緒に何かを生み出すのが早いと思って、大好きなクリエーターの方とコラボを試みました。

――活動を通してどんなことを感じましたか?

伊藤: クリエーターとキャストが同じ目線でいられることが理想だということです。キャストはクリエーターから与えられたものをただ待って一方的に受け取るだけでなく、クリエーターの方のことをよく知って表現することが誠意なのだと感じました。何を考えてこの作品を作ったのか、どうしてこうしたのか……表面的な部分だけじゃないところに触れて深く理解したいと思っています。

年齢にとらわれず、期待に応えていきたい

――telling,はミレニアル世代向けのメディアです。伊藤さんは20代後半に向けて、どのように活動していきたいですか?

伊藤: あまり年齢にとらわれず、自分にできることをやっていきたいです。自分が観る側になった時も、年齢を考えずに作品を観たいです。役者はいろんな人になれることが魅力だから、その時その時に、私にこの役を、と考えてくれた方の期待に応えていきたいです。

――何歳までにこうなっていたい、というものはあまりないですか?

伊藤: そうですね、今は流れに身を任せて、いただいたいい縁を大切にしたいです。どうしても先のことを考えすぎたり、逆に過去を振り返ってうじうじしてしまうこともあるのですが、今をきちんと生きられていないと未来には繋がっていかないから、今やれることをやりたいと思います。

――ずっとそういう考え方だったのですか?

伊藤: いえ、そういう性格じゃないからこそ、自分にそう言い聞かせています(笑)。でも、大きな決断はいつも自分で選択している気はします。その度胸はあるのかも。「不安だ不安だ」と言いながらどこかで「大丈夫」と自分に声をかける。その繰り返しです。

●伊藤万理華さんのプロフィール
2017年、乃木坂46を卒業し女優として活動する一方、雑誌『装苑』での連載、PARCO展を2度開催するなど、クリエイターとしての才能も発揮。
2020年10月にはパルコ劇場初の配信演劇『仮面夫婦の鑑』朗読編に出演。
同月開催の東京国際映画祭で主演映画『サマーフィルムにのって』が特別招待作品にエントリーされるなど多岐に渡り活動中。

衣装協力:KOTONA スタイリスト:和田ミリ ヘアメイク:高橋稚奈

現在肩書き無し。30歳の夏、港区での彼氏との同棲を解消、同時に8年マネージャーとして勤務した芸能事務所を退社する。ライター業ではお笑いやサブカルチャーに関するコラムをwebサイトに寄稿など。
写真家。1991年、東京都生まれ。お酒とアニメと女の子をこの上なく愛している。 多摩美術大学卒後、作品制作をしながらも、フリーランスフォトグラファーとして、幅広く活動。 被写体の魅力を引き出すポートレートを得意とし、アーティスト写真や、様々なメディアでインタビュー撮影などをしている。