マッサージ師→放送作家→ソムタム屋。転がる人生の中でつかんだライフワーク

昨秋、都内に日本ではまだ珍しいソムタム専門店をオープンした牛窪梨花さん(28歳)。ソムタムとはタイの定番料理の一つである青パパイヤのサラダで、青パパイヤは近年、栄養価の高いスーパーフードとして注目を集めつつあるそうです。きびきびとした様子で店を切り盛りする牛窪さんですが、実はマッサージ師や放送作家など、様々な職業を経験してきました。現在妊娠10カ月のプレママでもある彼女に、仕事の転機や人生観についてお話を聞きました。

マッサージのお客さんから舞い込んだチャンス

大学を出て金融業界に就職したのですが、会社員として与えられた仕事をするより、自分主体の仕事がしたいと思って、2年で退職しました。次は自分のやりたいことをやろうと決め、まずは手に職をつけよう、と思ってマッサージ師になりました。

といっても、実はマッサージの仕事をしながら自分の本当にやりたいことを見つけよう、お客さんとのつながりのなかで次の仕事のチャンスをつかもうと思っていたんです。

お店では朝から夕方まで働いていたのですが、時間帯のせいもあって、面白い仕事をしているお客さんが多いんですね。マッサージ中ってリラックスできるから、そういう時にお客さんに仕事のことを聞くといろいろ話してくれて。その中にラジオやテレビの放送作家をされている方がいて、その人の話を聞いていて興味を持ったんです。自分もぜひやってみたいと思いました。

もちろん、経験はまったくありませんでしたが、放送作家は打ち合わせが多く、その場をなごませるのも仕事のひとつだと聞いて、私は人と話すのが好きだからできるのではないかと考えました。台本の書き方は入ってから学ぶことができるから、とその人に誘っていただいて、フリーランスの放送作家としてラジオ局やテレビ局で活動を始めました。

初めて放送作家の仕事をした日の記念写真(牛窪さん提供)

ラジオ局ではさまざまなジャンルの番組を担当しました。マッサージ師をしていた時には自分の名刺がなかったのがちょっと辛かったのですが、放送作家になって、自分が何をしているのかを自信を持って言えるようになったことに喜びを感じました。

放送作家時代は、朝から夜までとにかく起きていましたね(笑)。同じ日に複数の局で番組を担当することもあり、移動の合間に喫茶店で台本や企画書を書いていました。忙しかったけれど充実していました。

「ネタ作り」に訪れたタイで、青パパイヤとの運命の出会い

お店を開くきっかけになったのは、番組改編で自分の担当番組が半分くらい終わって、時間が空いたことです。ちょうど自分の作家としての専門性を高めたいと思っていた時期でもありました。どのジャンルにしようかと考えた時に、業界ではめずらしい女性作家である強みを活かしたいと思い、もともと好きだった料理を専門にできたらと考えました。

作家時代、小尾渚沙アナウンサー(左)の誕生日に差し入れたお寿司ケーキ。(写真は牛窪さん提供)「早朝の番組にも関わらず、いつも手料理の差し入れをして下さいました」(小尾さん)

そこで、会議のネタにもなるだろうし、まずは自分で海外の料理教室に行ってみようと考え、タイに行くことにしました。

タイの現地の料理教室では、青パパイヤのサラダであるソムタムや、イエローカレーなどの定番料理を教わりました。まずみんなでタイの市場に出向き、その場で先生から食材の説明を聞くんですね。初めて見る食材も多く、「ああ、あの何とも言えない味わいってこれで出来てるのか」と、自分にとって新鮮なことばかりですごく楽しかったんです。

その後、ラジオ番組の会議でのネタの提案のために青パパイヤについて調べたら、栄養価が高くて美容や健康にすごく良い食材であることがわかって。これはもっと日本に広めるべきだと強く思いました。

日本にはタイ料理店はありますが、ソムタムの専門店はまだなかったんですね。これはチャンスだと考え、お店を開く決意をしました。それからは、ソムタムについてより深く学ぶために数回タイへ行きました。ソムタムが有名な東北部のイサーン地方に行って現地のソムタムを食べたり、現地の人に作り方を教えてもらったり。そして2019年9月、構想から半年で開店までこぎつけました。

お店のコンセプトは、『Healthy Fast Food』です。まだ日本人になじみのない青パパイヤを広めるためには、ファストフードのように「癖になる味」を目指す必要がありました。うちのソムタムは、ナンプラーや他の調味料の配合などを工夫して、日本人でも美味しく食べられるように調整しています。現地の味だと辛すぎて、大量に食べられないんですね。私の店では辛さも選べるようにしています。

新作の「ツナマヨソムタム」

「何でも同時にやってしまう」。仕事をしながらの妊娠生活

一緒にお店に立っている旦那さんは、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い、というのがはっきりしていて、そこが気持ちいい人です。人の才能を見抜き、長所を伸ばすのが得意なので、いつもアドバイスをもらっています。

今、妊娠10カ月です。私はいつも複数のことを一度にやるタイプ。お店を経営しながらの妊娠生活も計画通りでした。最近は産休に入っていますが、産後、青パパイヤを広めるために在宅でもできる仕事はないかと日々戦略を練っています。青パパイヤを使った商品を開発してネット販売をする予定があり、その準備も進めています。

夢は、日本のスーパーマーケットに青パパイヤが並ぶようになることです。健康にいい青パパイヤを老若男女みんなに食べてほしい。そのために店舗を増やし、スポーツジムなどと提携することも考えています。

やらない理由を作る人にはチャンスがまわってこない

起業したいという思いは、人との出会いがきっかけでもあります。放送作家時代、同時にPodcastでMCの仕事もしていました。そこで多種多様な業界の社長さんに会って話を聞くうちに影響を受け、起業への夢が膨らんでいったんです。
彼らには共通するマインドがありました。

「やらない理由を作る人にはいつまでたってもチャンスがまわってこない」
「わくわくしたらすぐにやる」
「お世話になった人には感謝の気持ちを持ちちゃんとお礼をする」
「自分で決断したことに責任を持つ」

これらのことは私も日頃から大切にしています。

辛いことですか? 私はあまり考えこまない性格だからなのか、辛いこと、というのはないですね。毎日全力で働いているから、家に帰って、ああ今日もがんばったなーって充実感があります。

フリーランスライター。元国語教師。本や人をめぐるあれこれを記事にしています。