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「まだ結婚できない男」主人公、桑野にみる「ネオ・おひとり様人生」の魅力

13年ぶりに帰って来た阿部寛さん主演のドラマ「まだ結婚できない男」。主人公は頑固な性格のせいもあるのか50代になっても相変わらず独身です。これまでの世間の価値観からするとあまり肯定的にはとられなさそうなその人生。でも、このドラマを見ていると、無性に彼のことがうらやましくなってくるから不思議です――。

「まだ結婚できない男」は「ふさわしい相手がいないだけ」

2006年に放送された阿部寛さん主演のドラマ「結婚できない男」の続編「まだ結婚できない男」(フジテレビ)がスタートしました。

建築家・桑野信介はセンスは一流ながら、頑固な性格もあってか40歳を過ぎても独り身。そんな彼がひょんなことから出会った女性、そして彼をとりまくユニークな人々との人間模様を描いた大人気ドラマ「結婚できない男」。今回はその13年後、53歳で依然独身を貫く桑野の新たな出会いの物語になります。

口を開けば偏屈、仕事をすれば堅物で他者と対立……描かれ方としては「こりゃあ、結婚できないわけだ」って感じ。
でも実は、バリバリ結果を残すし、几帳面で真面目で繊細と魅力がいっぱいで、単純に「結婚できない」というよりも、むしろ「桑野(の哲学に共感してくれる)ふさわしいパートナーがいない」という方が正しいようにも思います。

実際、2006年版の周りの登場人物たちはなんとなく惰性で付き合ったり、スペック重視で「結婚」「結婚」とむやみに焦っていたりと、「こうあるべき」にとらわれている中、「ひとりの人生」を楽しくすることを極めている桑野。今見返しても新しい学びが多いんです!
(「結婚できない男」はNetflixなどで現在も視聴可能です)

「ひとりで生きる」ってどういうことだろう?

「結婚できない男」では毎話、桑野が仕事帰りにコンビニに寄って、牛乳とヨーグルトを買うルーティーンのシーンが出てきます。
けだるそうな店員が「スプーンつけますか?ポイントカードありますか?」と、これまたルーティーンで聞いてくる。桑野は毎回「いりません」と言っているのに、毎度毎度、同じことを繰り返します。当然桑野は憮然とした反応をするのですが、これが後半あるとき「スプーンいりませんよね、ポイントカードありませんよね」にセリフが変わる。
桑野もハッとして彼女の方を見るわけです。

一見、「ひとり」と「ひとり」がただ接触しているだけの出来事なのですが、とってもグッとくるシーン!
相手を知り、相手のことを想像して行動する。些細なことかもしれないけど、とっても尊く、とっても大切な瞬間だって思います。

そして実は彼、いつも小言を言い合う隣人のストーカー被害を救おうと奔走したり、「いつ結婚するの」しか言わない母との食事会にちょくちょく顔を出したり、なんだかんだややこしい人間関係の渦の中には、それなりにちゃんと揉まれにいっているところが憎めないんです。

ついつい本心とは裏腹にいがみ合ってしまう女友達、いつも呆れながらも付き合ってくれる同僚、誰よりも自分の幸せを願う家族。
誰とも関わらずに孤独でいたいわけではなく、案外そういう人たちのあたたかさを理解して関わりあうことから逃げていない。

「結婚なんてめんどくさい。ひとりで生きている方が楽だ」と豪語しているけれど、ドラマを観ていると彼の言う「ひとりで生きる」が私たちが単純にイメージする「孤独で寂しいもの」とは少し違うのではないかと思えてきます。

「おひとりさまって、楽しいよ!」みたいなシンプルな開き直りでもない。では桑野が心から謳歌している「ひとりで生きる」って、なんなんだろう。そんな問いが頭の中をぐるぐるとして……。

既婚と未婚、どっちがいい?という考え方じゃなく……

結婚している方がえらいとか、独身は自由でいいとか、どうしてかいつも私たちは物事を事実からの逆算でしか考えられない。でももっと本質的に「人生を楽しく生きていますか?」という命題があって、その理由としての「大好きなパートナーと暮らしているから」とか「誇りのもてる仕事にめいいっぱいのめり込み、趣味も充実しているから」とかがあるのが健全なんじゃないでしょうか。

「まだ結婚できない男」第1話のラストでは、桑野が彼らしい仕事をやりきって鼻歌まじりに足早に帰宅。鼻息荒く、完璧に準備された“1人用流しそうめんキット”の前に仁王立ちし、一言「あと50年はひとりで生きられるぞ♪」と微笑み、流しそうめんをエンジョイします。
そんな姿をみていると、「〜〜だから結婚できない」とか「〜〜だから結婚なんて」だなんて、そういうことは吹っ飛んで、もっと根っこの部分から「ああ、私も桑野のように自分らしく生きたい!」と思わされるんです。

作中には魅力的な女性たちが登場し、桑野と不器用ながら人間関係を育んでいきます。もちろんその牛歩な関係の進展や登場人物たちの心の揺れ動きもおもしろいのですが、彼女たちといるときの彼も、ひとりでいるときの彼も、どちらも同じぐらい素敵で輝いているところが、ドラマを観ながらすごく救われる部分だと私は思います。

13年ぶりに帰ってきた(一応)「まだ結婚できない男」こと桑野信介。ポップで軽快なドラマの展開を楽しみながら、一方で時にはずしっと、「ひとりで生きる」ことについて向き合ってみると、少しだけパワーアップできるんじゃないかと期待しながら毎週楽しみに観ています。

大学卒業後、芸能事務所のマネージャーとして俳優・アイドル・漫画家や作家などのマネージメントを行う。その後、未経験からフリーライターの道へ。
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