上原ひろみさん「目標まで順序立てて逆算。だから友達の悩みにも厳しくなってしまって」
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ピアノのポテンシャルを引き出せるだけ引き出す
――今回のソロアルバムは10年ぶりだそうですね。
上原ひろみ(以下、上原): ピアニストとしては、10年に一度は、逃げも隠れもできないピアノと自分という記録を残していきたいという想いがあります。10年前と比べてみると、ピアノとの意思疎通はより取れるようになったし、音色の数が増えたと言われるのはうれしいですね。
――一番こだわられたのはどこですか。
上原: ピアノという楽器のポテンシャルを現時点で引き出せるだけ引き出すということです。これからもどんどん変わっていく、楽しみな部分でもあります。
――やはり10年間の経験は大きいですか。
上原: 日々ピアノと真剣に向き合ってきた結果だと思います。ミュージシャンもコツコツ積み重ねることがすべてです。それによって、ピアノのコントロールができるようになり、パレット上の色が増えたなのだと思います。
――ピアノをコントロールするためには、どのぐらい練習するのですか。
上原: その日のスケジュールによりますが、弾かない日はないですね。もちろん、ブラジルに行くときは丸1日弾けませんが(笑)。どんな時でも、ピアノのことを忘れることはありません。ないことを考えたことがないくらい。
私にとっては、ピアノを弾くことは、寝るとか食べるとか生理的欲求に近いですね。
ピアノを弾いている時ほど楽しいことはない
――ライブで弾いているひろみさんはとっても楽しそうで幸せな気分になれます。
上原: ありがとうございます(笑)。単純に、本当に楽しいんです。あんなに楽しいことはないですね。
――そこまで楽しいこと、経験してみたいです。
上原: 私にとって、ライブでピアノを弾いている楽しさは、今日何かものすごく食べたいと思ったものを食べられた時と似ているんです。そう伝えるとみんなに分かってもらえるかな。
――音楽を作るうえで、アイディアの源は何ですか。
上原: そんなにドラマティックな出来事でなくても、人との何気ない会話だったり、舞台や映画、スポーツを見たときの感動とか。何かしら、心が震える瞬間が一番の源です。
――最近、一番心が震えた瞬間はどんな時でしたか。
上原: 最近では『天才作家の妻 40年目の真実』という映画で、グレン・クローズの演技が素晴らしくて心が震えました。映画を観て、演技や脚本、演出などに感動すると、その気持ちが心に残って、自分が感化される方向につながっていくんです。素晴らしい作品に出会うために、映画は積極的に観ます。感動を自分の中に残していくことを大切にしています。
――日々感動を積み重ねているんですね。
上原: 心の洗濯ではないですが、自分の感情をもみほぐしていると、音楽を作ろうと思ったときに、ぽっと出てきやすいというのはありますね。
プロセスを逆算して改善。だから私は悩まない
――ところで、今まで何かに悩んだり、つまずいたりする経験をしたことはありますか。
上原: これはどうしようかなということはもちろん何度もあります。でも基本的には、どうしたらいいか考えて改善するので、悩んだり、とどまることはありません。考えに考えて、最善の改善策を打ち出して打破するし、改善できないことだったら考えても仕方がないので考えないようにします(笑)。
――誰かに相談することはありますか。
上原: 相談はしないですね。打開するプロセスの中で、誰かに手伝ってもらった方がいい時は、協力を要請します。ちょっと集合!みたいな感じで(笑)。
――答えを自ら見いだすタイプですか。
上原: 私は逆算するのがすごく好きなんです。最終目標だけでなく、何かにぶつかった時は、どうしたらそれを乗り越えられるかも逆算します。
今何をしているべきなのか、来週は何をすべきなのか、1カ月後、1年後というスパンで逆算をして考えるようにしています。
――ご自身のことを順序立てて、頭の中で整理できているんですね。
上原: すごく極端なところがありますが、緻密に計算しています。例えば、1日のスケジュールは、無駄のないように15分単位で考えるのが好きです。ちょっとした二重人格ではないけれど、きちっとしたいところと考えても仕方のないことははっきり分けて考えています。
――考えても仕方がないことは、例えば何ですか。
上原: 自分の力が及ばないことですね。人を変えるとか。仕事仲間でも友達でも、私の考えとどうしても合わない時は、その人を変えようと思うよりは、自分が変わった方が早いですよね。
――悩んでいる友達や仲間がいたら、何かアドバイスをしますか。
上原: 私は本当にアドバイスに向いていないんですよ。よく相談されるのですが、親身になって相談に乗る友達には、真理を突きすぎて泣かせてしまうこともあります(笑)。
悩んでいる友達に対して、「悩んでいるんだったら、どうしてこれを今やってないの」とか「そもそも今まで何をしていたの」みたいなことを言ってしまうんです。
もちろん長年の友達なので、私に相談する時はそういう意見を求めてきているので、私の役目は果たしていると思っています。でも“一見さん”はそれを知らないので(笑)。
――一見さんには刺激が強そうですね。
上原: もちろんそんなにキツイことは言いませんよ。もう少し優しく「そうやってみてもいいんじゃない」みたいな。親身に相談に乗るのは、エネルギーを使うことだし、真剣に向き合っているので、甘いことばかり言えばいいわけではないですよね。
仕事はきっちり、それ以外は即興しながら生きている
――どんなことに対しても、ご自身の道筋がはっきり見えていて羨ましいです。
上原: それは、やりたいことがはっきりしているからだと思います。ピアノをやっていていいんだろうかとか、ピアノをやりたいんだろうかと考えたことはないので、そこにブレは1ミリもありません。毎日ピアノを弾くことが絶対的にあるので、そこがしっかりしているように見えるのかもしれないですね。
仕事のことや自分が情熱を傾けているものに関しては、どうしたらその目標に向かっていけるかを逆算していますが、それ以外のことは全然ダメ。どちらかというと、なすがまま、なるようになれという感じで、即興しながら生きている感じです。
――生活もジャズなんですね。最後に、ジャズの魅力はどこにあるのでしょうか。
上原: ジャズは即興の部分がとても多い音楽。だから、何日間か公演があっても、毎回違う音楽が生まれます。私自身も毎日が宝探しみたいな気持ちで臨んでいますし、お客さんと一緒に冒険に出るような感覚なんですよ。お客さんが乗組員で、私が船長。そんな気持ちでライブをしています。
――乗組員が違うと行き先も変わってくるのでしょうか。
上原: そうですね。国によっても、演奏する環境によっても変わります。場所がクラシックホールであるか、クラブであるか、野外であるかで、お客さんの反応って違ってきます。お客さんの雰囲気の違いは、音楽に大きく作用しますね。どれがいいという答えはなくて、それぞれが違った音楽を作っていけるのがおもしろいんです。
●上原ひろみさんのプロフィール
1979年静岡県浜松市生まれ。6歳よりピアノを始め、同時にヤマハ音楽教室で作曲を学ぶ。17歳の時にチック・コリアと共演。1999年にボストンのバークリー音楽院に入学。在学中にジャズの名門テラークと契約し、2003年にアルバム『Another Mind』で世界デビュー。その後、発表するアルバムが日本や海外で数々の賞を獲得している。2011年には2作連続参加となったスタンリー・クラークとのプロジェクト作『スタンリー・クラーク・バンド フィーチャリング 上原ひろみ』で第53回グラミー賞において「ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバム」を受賞。最新作は、2019年9月発売のソロピアノアルバム「Spectrum」。
http://www.hiromiuehara.com
上原ひろみ『Spectrum』
2019年9月18日発売
Universal Music
【初回限定盤 SHM-CD 2 枚組】3,300円、【通常盤 SHM-CD】2,600円、【高音質 SA-CD SHM仕様~】4,000円(すべて税別)
ヘアメイク:神川成二、衣装協力:MIHARAYASUHIRO
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